この記事は、次のような疑問を解消する内容です。

クロムなめし革とタンニンなめし革で何がちがうの?
早速ですが、この記事で伝えたいことを簡単にまとめます。
- Qクロムなめしとタンニンなめしのちがいは?
- A
なめし(※)に使う材料のちがい。
三価クロムを使うのがクロムなめし。木から抽出したタンニン(渋)を使うのがタンニンなめし。クロムなめしは退色しにくい特徴があるのに対し、タンニンなめしは色つやが変化する特徴を持っています。
※なめし:皮を革に加工し、腐らなくしたり素材として使いやすくすること。
関連記事 革と皮のちがいを革職人がわかりやすく解説|皮をなめしたものが革

つまり、皮を革に加工するのに使う素材のちがいです。

じゃあ、なめしの材料が変わるとどうちがうの?
恐らくあなたが知りたいことはこちらですよね。ここから詳しく説明します。
クロムなめし革とタンニンなめし革のちがいと見分け方
クロムなめし革 トリヨンラグーン
≪クロムなめし革の性質≫
- タンニンなめしよりキメ細かい
- タンニンなめしのような色変化が無い
- 水を吸いにくい
- 柔らかい革が多い
- 鮮やかな色の革を作りやすい
- 世の中の革の80~90%がクロム鞣し
- 安い革~最高級革まで様々な価格帯
≪タンニンなめし革の性質≫
- 使ううちに色が変わる
- 使ううちにツヤが増す
- 水を吸いやすい
- 硬い革が多い
- 色がくすみやすい
- ほどほどに高い素材が多い
- 造形しやすくレザークラフトで人気

長く使って味を楽しみたいな。
そんな方にはタンニンなめし革の革製品がおすすめです!

色がかわいい革の方が好き。あと汚れにくいの。
そんな方にはクロムなめしの革製品がおすすめです!
コンビなめし、フルタンニンとは?
コンビなめしとは、クロムなめしをした後、クロムを抜いてタンニンでもう一度なめす方法。コストを抑えながらもタンニンなめしに近い性質に仕上げることが出来ます。
フルタンニンとは、コンビなめしとは反対に、100%タンニンだけでなめした革のこと。
本来、タンニンなめしはもれなくフルタンニンですが、コンビなめしであるにも関わらずタンニンなめしだと詐称した商品が出回ったことから生まれた言葉ではないかと推測。
セミクロムとは?
海外で軽くタンニンなめしされた革を輸入し、国内でタンニンを抜いてクロムで再度なめして仕上げた革。
コンビなめし同様にクロムなめしとタンニンなめし両方の特徴を持ちます。
ヌメ革はクロムなめし?タンニンなめし?
タンニンなめし革 TOIANO ナチュラル
ヌメ革は100%タンニンなめし。
言うなれば、THE タンニンなめし革と言っても過言ではありません。
こちらで☟ヌメ革について詳しくお話していいます。
ぶっちゃけるとナチュラルなヌメ革のイメージによるものですが、根拠がないわけではないです。

ただし、先進的なタンナーにおいては、なめし工程での環境への影響には、クロムでもタンニンでも大きな差がないと言われています。
クロムなめし革とタンニンなめし革の見分け方
タンニンなめし革
ある程度革に詳しくなってくると、感覚的にほぼほぼ言い当てられるようになります。
文字で表現すると・・・
- 断面、革内部が青白い、グレーぽい
- 牛革でもとても柔らかい
- 曲げて手を離すとはね返るような弾力がある
- 一瞬おいてから水を吸う
- 爪を立てても跡が残らない
これらのどれかが該当するとクロムなめしの可能性が。
逆に、次の項目が該当するとタンニンなめしの可能性が高いかも。
- 乾いた質感
- 硬い
- 床(裏)面ががさついている
- 分厚い
- しなやかさが無い
- 水を吸いやすい
- 断面や裏面が、粗い繊維が絡み合っている
- 爪を立てると跡が残る
例えばですが、裏面が以下写真のようにコルクみたいな繊維のタイプはタンニンなめし革の可能性が高いです。

あとは、なでるとガサガサする硬い裏面とかでしょうか。
いろいろと判断材料を紹介しましたが、あくまでも「可能性」があるとしか言えません。
たとえば、クロム鞣し革と言っても別のなめし剤で再鞣ししている革が多いと書籍(皮革ハンドブック)には書かれているし、タンニンなめしも100%タンニンだけで鞣されているかどうかはわかりません(タンニンなめしに対してフルタンニンなめしという言葉も使われている)。

判断できる目を身につける方法は、信頼できる革にたくさん触り、目と手の感覚を養うことでしょう。
タンニンなめしとクロムなめしどっちの革が値段が高い?
ざっくり傾向だけ言うと、安い革も高い革もあるのがクロムなめしで、タンニンなめしは極端に安い革は少なく、平均的に高めな革が多いです。
≪安いクロムなめし革 例≫
- 世の中に安価で出回る多くの革
- 裏地用の革
- 一般的なピッグスエード
など
≪高いクロムなめし革 例≫
- 靴用ボックスカーフ
- ハンドバック/財布用の型押しカーフ
- バッグ、高級家具用のシュリンクレザー
など
あくまでも傾向の話であり、なめし方法だけでは革の価格を探るには情報が足りず判断ができないのが本当のところ。
余談ですが、別記事の安い革と高級な革に顔料が使用されている理由でお話ししている”顔料”についても同じことが言えて、「この塗装方法だから安い」とか、「このなめし方法だから高い」と簡単に言えることではありません。
タンニン/クロムなめしの革製品ブランド
ざっくりと少しだけ紹介します。
タンニンなめしの革製品ブランド
ルイヴィトン
バッグのショルダーや力のかかる部分などにヌメ革が使われています。
日本のヌメ革とは違い汚れ防止加工がされているようです。
イルビゾンテ
国内でもおなじみのイタリアのタンニンなめし革ブランド。
dete
弊社deteもタンニンなめし革製品を多く扱っております。
自社宣伝で恐縮ですが、よろしければチェックしてみてください!
クロムなめしの革製品ブランド
そもそも、世の中の革製品のほとんどがクロムなめし革製です。
安価な製品からハイブランドの製品まで幅広く使われています。
エルメス
よく使われる素材に、トリヨンクレマンス、トゴ、ヴォ―エプソンなどがありますが、それらの全てがクロムなめし革。
Bottega Veneta
イントレチャートでおなじみのレザーブランド。クロムなめしのカーフが主に使われています。
各アパレルブランドもクロムなめし率高し
クロムなめし革は衣類にも使われます。
逆に、タンニンなめし革は水に弱く、あまり衣類には使われません。
クロムなめし革のお手入れ方法はタンニンなめし革と違う?
クロムなめし革 イタリアンシュリンク
基本的なケアはタンニンなめしでもクロムなめしでも同じです。deteが提唱している通り、ブラッシングを欠かさず行ってホコリがかぶらないようにしましょう。
クロムなめし革ならではのケア
油分の多いクリームはあまり必要が無い場合が多いです。
そもそもオイルを足す必要があるのは、革が硬化してひび割れの原因がある場合のみ。
柔軟性の高いクロムなめし革の場合、保湿や表面保護に重きを置くべきです。

防水スプレーでシミになるリスクが低いのも特徴。防水スプレーは積極的に使いましょう。

ヌメ革に比べると積極的にスプレーしてもいいと思います(目立たない部分でテストするのを忘れずに)。
タンニンなめし革のケアについてはこちら☟をどうぞ。

なめしについての知識
なめす意味は?
皮を加工することで、腐らなくなり、柔らかさが出て、加工しやすくなります。この工程を鞣しと言います。
皮と革の関係についてくわしくは、革と皮の違いとは?革の製法や加工法も紹介をご覧ください。

その他のなめし方法
なめしの種類には次のような方法があります。
- タンニンなめし(合成・天然)
- クロムなめし
- アルミニウムなめし
- ジルコニウムなめし
- ホルマリンなめし
- 油なめし
- 姫路白なめし
- 脳漿なめし
- くん煙なめし
- 灰汁なめし
などなど。
この中で、現代の牛革のなめしに使われているのはほとんどがクロムなめしと言われています。
次いで多いのがタンニンなめしで、うちのブランドdeteの素材でも使用機会が多いです。

クロムなめし革は、なめした後にクロム以外のなめし剤を使って再なめしをすることが多いそうです。目的は風合いの調整や加工のしやすさの向上。
たとえば、型押ししやすくするためにタンニンで再なめしするとかよく聞きます。
クロムなめしとタンニンなめしの原料
名前にある「クロム」と「タンニン」は、それぞれなめしに使う成分のことです。
クロムなめしの原料…三価クロム錯体
タンニンなめしの原料…植物タンニン/合成タンニン

元素記号はCr

タンニンは樹木や赤ワインなどに含まれるポリフェノールの一種。
ケブラチョ(ウルシ科の木)や、ウォルナット(くるみ)、ミモザ(アカシア)、チェストナット(栗の仲間)などから抽出したタンニンを使ってなめします。


植物タンニンが木から採れるのはわかったけど…

一般の方や革製品のクラフターなら、製法は知らなくても大丈夫。
私も言葉ではわかっていても、それ以上の知識はありません(特にクロムは)。
革の特徴だけ理解していれば十分ですよ。
クロムなめしとタンニンなめしについてのまとめ
タンニンなめしとクロムなめしについて書きました。
三価クロムを使うのがクロムなめし。木から抽出したタンニン(渋)を使うのがタンニンなめし。
クロムなめしは退色しにくい特徴があるのに対し、タンニンなめしは色つやが変化する特徴を持っている。
同じ革でも、タンニンなめし革とクロムなめし革はまるで性質の違う素材です。
自分にあった素材を選ぶことで、もっともっと革を楽しむことができるはず。
わからないことがある時は、お店に何でも質問しましょう。
革製品の専門店なら、どういう革なのか等、聞けばきっと教えてくれるでしょう。
あなたの革ライフに幸多からんことを!
コメント
もう最近は鞣しがほぼコンビらしいですね。
特に樹脂(ポリマー)鞣しなんかは充填性を与えられるそうですし。
オイルが多いクロム鞣しはエイジングさせられるそうですし。
タンニンってもう必要なくなってきたんですかね?
お客様からのご要望を見ているとタンニンなめし革が求められていることを感じます。
世間一般ではどうなんでしょうね。
樹脂なめしやエイジングするクロムなめしなど新しいなめし方の開発は歓迎です。
レザークラフト初心者です。ヌメ革=タンニン鞣し、柔らかい革やピカピカ光っている革=クロム鞣しの可能性が高い、という理解をしています。浅い理解ですが、今のところ扱っているのがほぼヌメ革なので問題は出ていません。
そこで、クロム鞣し・タンニン鞣しの見分け方について質問です。
ブログでは、「〜の可能性が高い」という表現をされていたところからみて、革の見た目だけで鞣し方について完璧に判断することは、かなり難しい、と考えて良いでしょうか?ご指導頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。
おっしゃる通り、かなりむずかしいのが現実です。
柔らかくてピカピカ光ったフルタンニンの革もあれば、硬くてマットなクロムなめし革もあります。マットかツヤアリかは仕上げの工程で変わるものなので、判断材料にするのはむずかしいかもしれません。
また、クロムなめしをした後にクロムを抜いてタンニンを入れたコンビなめしという革もあり、両方の特性をあわせ持っているので余計に混乱させてくれます。
革屋さんに聞けば教えてもらえると思います。質問しながらいろいろな革を試せば触ればわかってくるようになりますよ。
早速の回答ありがとうございました。
経験を積んだ方でも難しいとお聞きして、なんだかホッとしました。
今のところ、多くの方が言われているように
「コバが磨ける・磨けない」
と一つの判断材料にしています。
またヌメ革の場合、
トコ面にトコノールを塗布してガラス板で仕上げていますが、
コバと同様にトコ面の仕上がり具合の違いでも
クロム鞣し・タンニン鞣しが区別できるでしょうか?
言い換えると、クロム鞣しのトコ面を仕上げることは難しい、
と考えて良いでしょうか?
重ねての質問で恐縮ですがよろしくお願いいたします。
床面を磨いたときの光沢なども判断材料になると思います。
タンニンなめし革はすぐに光沢が出る革が多いですね。
クロムなめしの床面を磨いてもツヤツヤにはなりませんが、毛羽をまとめることはできます。
私はトコノールを使っていないのでクロム革に使うとどうなるかわかりませんが、バスコの目止め液は毛羽立ちを抑える効果があります。
回答ありがとうございました。
大変参考になりました。
鞣しの判別からは離れますが、
バスコをはじめ、色々試してみます。
ありがとうございました。