なめしって何だろ?
この記事では、「鞣し(なめし)」とは何なのか?についてむずかしい話抜きでわかりやすく解説します。
革をなめした後の二次加工についても触れているので、革がどうやって作られているのか興味がある方にはきっと喜んでいただけると思います。
なめしとは?皮を腐らなくして加工しやすくすること
画像 仕上がった革の厚みを調整しているところ
なめしは、皮を腐らないようにし、風合いを調整してあつかいやすく加工することをいいます。
なめされた皮は革に変わり、お財布やバッグ、靴などに生まれ変わります。
革と皮の関係性について興味がある方は、革と皮のちがい|「革」とは何か?に職人が答えますも楽しんでいただけるはずです。
なめしに使う薬品と鞣しの種類
なめしには、木から取り出したタンニン(渋)というポリフェノールの一種や、金属のクロムやアルミニウムなどを使います。
昨今のなめし方法で一般的なのはタンニンなめしとクロムなめし。
その他の薬品と併用する混合なめしも行われ、特に最近のクロムなめしはクロム単体ではなく、複数の薬品で再なめしを行う混合なめしが主流です。
なめしの方法で性質は大きく変わります。
たとえばタンニンだけでなめした革は、ナチュラルな風合いで経年による色艶の変化が楽しめる革に仕上がるのが特徴。
関連記事 ヌメ革とはどんな革?|ヌメ革の性質、お手入れ&扱い方
対するクロムだけでなめした革は、キズや水シミに強く、発色が良いクロムなめし革に仕上がります。
なめし剤による性質のちがいについては、タンニンなめし革とクロムなめし革のちがいと見分け方でくわしくお話しています。
皮はなめされると革に変わります。つまり、皮を革に変えることを「なめし」と呼ぶともいえますね。
なめし工程|革ができるまでには数多くの工程がある
なめす前の準備工程にはじまり仕上げの塗装まで、なめしの工程は多岐にわたります。
準備工程は、乾燥した原皮を水づけして水分を戻したり、余分な脂をけずり落としたり、薬品で毛を取りのぞいたりなど。
その後のなめしをしやすくのが準備工程の目的です。
写真は水づけ後の原皮。
次の写真はフレッシングでしょうか。フレッシングは、余分な肉や脂を除去し、均一で品質のいい仕上がりにするために行います。
準備が終わるとなめしの工程に移ります。
なめしを化学的にいうと、なめし剤を原皮のコラーゲンに結合させたり、コラーゲンのすき間を埋めたりして密度を高め、強度を高めたり色を染めやすくしたり撥水性を高めたりすること。
つまり、単に腐らなくするだけではなく、目的や用途に合わせて複数のなめし剤を使い、革の機能性や見た目の仕上がりに影響を与えることまでをふくみます。
なめし剤については後でくわしく触れますが、主流になっているのはタンニンとクロムの2種類です。
次の写真は、伝統的なタンニンなめしに使うピット槽(栃木レザー社)。
濃度のちがう槽に順番に浸し、少しずつなめし剤を浸透させていきます。
関連記事 栃木レザーのすべてを革職人が語る|品質や種類、おもなブランドに弱点まで
なめしが済むと、中和、再なめし、染色、加脂と、見た目や風合いに影響する工程に入ります。
写真の木樽は染色に使うタイコ(ドラム)。
タイコの中に染料と水、革を入れ、ドラム式洗濯機のように回して染めます。
水を吐き出しながら回転するタイコは大迫力です。
染色が済んだら乾燥させて仕上げの工程へと移ります。
次の写真はスプレーで塗装しているところ。
塗装は色を付けるだけでなく、ツヤ感を出したり革表面の防汚性を高めたりする目的もあります。
ワックスやロウをしみ込ませたり、あえて表面を傷つけたりする革もあり、革の表現方法は実にさまざまです。
画像出典 牛革はどんな革?-牛革の種類より バッフィングされた牛革
かなり端折って説明しました。ここに書かれている以外にもたくさんの工程を経て、完成した革がわれわれのもとに届けられます。
次の動画はグローブ用の革ができるまでを追ったもの。わかりやすいのでぜひ観てみてください。
皮をなめさずにバッグや財布に使うとどうなる?
なめさない皮でバッグ作ったらどうなる?
腐る。
干して乾かした生皮(きがわ)は使えないこともないけど、カチカチだから使い方はかなり限定されるよ。
革製品にはなめされた革を使うのが大前提なんだね。
なめしの種類|タンニン、クロムをベースにしたなめしが主流
この章では、なめしの代表的な種類(製法)を紹介します。
現在使われている製法と歴史の中で使われてきた製法を一覧で並べると次のようになります。
皮を噛んでなめしたのが最古のなめしと言われています。
ここからは、代表的なタンニンとクロムのなめし方法について解説します。
タンニンなめしは経年変化が楽しめるナチュラルな革に仕上がる
ミモザ、ケブラチョ、ウォルナットなどの木から抽出したタンニンを使ってなめす製法です。
≪タンニンなめし革の性質≫
出典 クロムなめし革とは?タンニンなめし革&ヌメ革との違い
・使ううちに色が変わる
・使ううちにツヤが増す
・水を吸いやすい
・革にクセが付きやすい
・硬い革が多い
タンニンなめし革は、一言でいうと、ナチュラルで味の出る昔ながらの革です。 ヌメ革やサドルレザー、ブライドルレザーなどが該当します。
経年変化が楽しめる一方で、水シミができやすかったり汚れが目立ったりすることもあり、見方によってはデメリットととらえられることもあります。
クロムなめしは最も一般的ななめし方法
クロムなめしは、金属の三価クロムを使ってなめす製法です。
≪クロムなめし革の性質≫
出典 クロムなめし革とは?タンニンなめし革&ヌメ革との違い
・タンニンなめしよりキメ細かい
・タンニンなめしのような色変化が無い
・水を吸いにくい
・柔らかい革が多い
・鮮やかな色の革を作りやすい
・世の中の革の80~90%がクロム鞣し
・安い革~最高級革まで様々な価格帯
世の中には本当にいろいろなクロムなめし革が出回っていて、一言でどんな革とまとめるのは難しい。
代表的な特徴として、クロムなめし革は、いわゆるアメ色に変化したりといった経年による色変化が起きない革です。
そのため、経年による退色や水シミなどが目立ちにくいメリットがある反面、買った時が一番いい状態で右肩下がりになるとも言えるかもしれません。
クロムなめしとタンニンなめしについては、クロムなめし革とは?タンニンなめし革&ヌメ革との違いでくわしくお話ししています。
タンニンでもクロムでもない?性質をあわせ持ったなめし
クロム100%でもなくタンニン100%でもない、それぞれの性質をあわせ持ったなめし方法があります。
それがコンビなめしやセミクロムなめしです。
コンビなめし革はタンニンとクロム両方の性質を持つ革
コンビなめしとは、クロムなめしをした後、クロムを抜いてタンニンなどでもう一度なめす方法。
ヘビタンなめし(ヘビーレタンなめし)とも呼ばれます。
コストを抑えながらもタンニンなめしに近い性質に仕上げることが出来ます。
現代のクロムなめし革の多くは100%クロムではなく、その他のなめしと併用することが多いそうです。目的は風合いの調整や加工のしやすさの向上。
たとえば、型押ししやすくするためにタンニンで再なめしするとかよく聞きます。
セミクロム革はタンニンなめしベースのクロムなめし革
海外で軽くタンニンなめしされた革を輸入し、国内でタンニンを抜いてクロムで再度なめして仕上げた革。
コンビなめし同様にクロムなめしとタンニンなめし両方の特徴を持ちます。
なめしの途中まで仕上がった革を海外から仕入れて使うのはセミクロム以外でもある話のようです。
フルタンニンなめし革とは?100%タンニンの革
フルタンニンは100%タンニンだけでなめした革のこと。
本来、タンニンなめしはもれなくフルタンニンを指す言葉でしたが、コンビなめしであるにも関わらずタンニンなめしだと詐称した商品が出回ったことから生まれた言葉ではないかと推測。
以前とある革問屋を訪問したとき、
海外(おそらく特定の一部の国)のタンナーは少しでもタンニン使ってたらタンニンなめしって言うから信用できない
と、社長がグチっておられました。
フルタンニンを本ヌメ革と呼ぶ人や団体もあります。
私が使う「本ヌメ革」は、フルタンニンかつピット槽なめしの革のことです。
クロムなめしとタンニンなめしの原料
名前にある「クロム」と「タンニン」は、それぞれなめしに使う成分のことです。
クロムなめしの原料…三価クロム錯体
タンニンなめしの原料…植物タンニン/合成タンニン
タンニンは樹木や赤ワインなどに含まれるポリフェノールの一種。
ケブラチョ(ウルシ科の木)や、ウォルナット(くるみ)、ミモザ(アカシア)、チェストナット(栗の仲間)などから抽出したタンニンを使ってなめします。
植物タンニンが木から採れるのはわかったけど…いまいちピンとこないな。
一般の方や革製品のクラフターなら、製法は知らなくても大丈夫。
私もタンナーを見学したことはあるけど、言葉での理解以上の知識はないよ(特にクロムは)。
革の特徴だけ理解していればOK。
革のなめしの二次加工|仕上げの種類
革は、なめしの方法だけでなく、加工の仕方でも見た目や性質が大きく変わります。
ここでは、代表的な物をいくつかあげて簡単に紹介します。
他にもいろいろな加工や染色の方法があります。くわしくは、牛革はどんな革?特徴、種類、手入れ方法《写真多数》の後半で写真付きで解説しています。
革の染めの種類|顔料と染料
革の染めも奥深いものです。
染め方や塗装のしかたで、色合いだけでなく風合いや雰囲気が大きく変わります。
革製品を選ぶときにまず注目したいのは、顔料を使って塗装しているのか否(染料のみ)か、またどれくらい分厚い塗装がされているのかです。
次の表は染料のみを使った革と顔料を使った革の特徴をまとめたものです。
顔料 | 染料 | |
---|---|---|
色移りリスク | ◎低い | △高い |
変色リスク | 〇低い | ×高い |
発色の良さ | ◎良い | 〇くすみが出やすい |
経年変化の味わい (タンニン鞣し革) | △顔料の厚みによる | ◎色つやの変化アリ |
仕上がり | 傷を隠せるが平面的 | 自然の風合いが楽しめるが、 傷やシミが残る |
上の表は横スクロールできます。
革らしい風合いを楽しむなら染料、発色の良さや色の耐久性を重視するなら顔料の方が優れているといえます。
顔料による塗装が厚くなりすぎると革の風合いが損なわれ、安っぽくなってしまう点は注意が必要です。
詳しくは、顔料を使っている革は悪い革?染料と顔料のメリットとデメリットでくわしく解説しています。
さらに細分化すると、前章で解説したアニリン染めや丘染め(表面表層のみに染色や塗装した革)、マーブル染めや藍染めや泥染めに手染めなど、多種多様な染色方法があります。
いろいろな革との出会いを楽しんでいただけたらうれしいですね
革のなめしについてのまとめ
なめしとは、皮を腐らないようにし、風合いを調整してあつかいやすくする加工のことです。
なめしには様々な種類がありますが、主流はクロムなめしとタンニンなめし、そしてそれらの混合です。
タンニンなめしの革は経年変化の味が楽しめるのに対し、クロムなめしはその逆で色変化が起きにくいのが特徴。
革製品を選ぶときは、どんななめしの革なのかにも注目していただくと、使い込んだあとの様子が想像しやすくなります。
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