この記事では、革製品の手入れに使われる主なブラシの種類とちがい、そして迷ったら何を買えばいいのかについて解説しています。
ブラシの種類でどう結果が変わるのか拡大写真で図解するので、革にくわしくない方でもわかる内容になっています。
革製品の手入れにどんなブラシを使ったらいいの?
いろんなブラシがあるけどちがいは?
あなたに必要なブラシがきっと見つかります。
革製品をブラッシングするとどうなる?
まず最初に、革製品をブラッシングする効果についてお話しします。
ちょっとしたひっかき傷はブラッシングで目立たなくなります。
革製品の小キズに悩まされているという方は是非やってみていただきたい。繊細なヌメ革なら特にはっきりとした効果を実感できるはず。
別記事の革製品の傷を消す(隠す)方法5つ|革のプロが解説でキズを目立たなくする効果を検証しています。
ただ、ブラッシングにも注意が必要で、適したブラシを使わないとキズをつけてしまったり効果が発揮できなかったりします。
そんな注意点についてもこのあとお話しします。
先におすすめブラシをまとめてから種類ごとに解説しますね。
おすすめ革用ブラシ
最初におすすめからまとめます。
財布やバッグの汚れ落としや日々のケア用
結論ですが、財布やバッグの汚れ落としや日々のケアに使うならエム・モゥブレィの プロブラシ一つあれば十分です。
プロブラシはツヤだし効果が高く、適度な弾力でホコリをかき出すのにも使いやすいです。
靴のお手入れ用
次は靴用のおすすめブラシについてですが、靴用はすこし使う種類が増えます。
クリーム塗布用のブラシは次のようなものです。
隅々まで塗りやすいので革靴を持っているなら用意しておきましょう。
クリームのおすすめは1909シュプリームクリームデラックスです。くわしくは、1909シュプリームクリームデラックスの万能感をレビュー&使い方をご覧ください。
プロブラシは靴にも財布にも使える便利ブラシですが、衛生面を考えて別々に用意することをおすすめします。
プロブラシは馬毛ブラシに置き換えても可です。
各種革用ブラシの特徴とちがい
私が仕事や私用で使用するブラシは、大まかに分けて4種類+2種類あります。
上記4種類がメインのブラシ。
それぞれ違った性質があるのですが、注目すべきポイントは毛の硬さ。
硬い方から順に、
- 豚毛ブラシ
- 化繊毛ブラシ
- 馬毛ブラシ
- 山羊毛ブラシ
となります。順番に掘り下げましょう。
豚毛ブラシ
豚毛ブラシの特徴と用途
硬さとコシがある特徴を生かした用途は次の通りです。
靴にクリームを伸ばすのにはとても重宝するブラシで、その時はクリーム専用の小さなブラシを使います。
縫い目や入り組んだところにも入り込みやすいかわいらしいサイズ感になっています。
塗ったブラシを全体に伸ばすにはペネトレィトブラシでは非効率なので、その時は手のひらサイズのブラシがあると便利。
私は複数のペネトレィを用意してクリームの色や革によって使い分けています。くわしくは、[失敗しない]レザークリームの塗り方と道具|ペネトレィトブラシが最適をご覧ください。
黒豚毛の硬さは、汚れ落としやブラッシングに高い効果があります。
所有欲を満たすブラシが欲しいなら紗乃織刷子の豚毛ブラシはいかがでしょうか。
こちらの紗乃織刷子は、国産ならではのこだわりが詰まった高級ブラシ。革によく当たるセンター部分のみ長くカットしていたり、オイル仕上げの木が使われていたりと、「用の美」が追及された逸品です。
豚毛ブラシの注意点
豚毛ブラシを使うときは一点だけ注意が必要で、ブラッシング効果自体がとても高いゆえに革にブラシ跡やキズが残る可能性があります。
普通に使う分には問題はありませんが、力の入れすぎには注意しましょう。
豚毛ブラシはテーブルの掃除にちょうどいい硬さ
豚毛ブラシは、革職人の私にとっては作業机に散らばった革の粉を払うのにもちょうどいい硬さ。
日常の革製品のお手入れ用というよりも、掃除に向いた硬さといえるかもしれません。
パンくず払い専用のブラシなんていうおしゃれな道具があったり、適度な硬さがほこりをかきだすのに向いているらしく、フェルトの帽子のお手入れに使われることもあります。
次の写真はうちで使っている白豚毛の[REDECKER]テーブルブラシです。
やっぱかっこいい笑
白豚毛は黒豚毛より柔らかいと書きましたが、比べてみると、うちにある黒豚毛よりも、こちらの白豚毛の方が、気持ち硬いような?いずれにしても、大きな違いはないようです。
化繊毛ブラシ
化繊毛ブラシの特徴と用途
化繊毛と聞くとグレードが下がるように感じる人もいるかもしれませんが、全くそんなことはありません。
一本一本の太さや性質が均一で安定しています。毛が抜け落ちにくい点もメリットで(毛が細ければ細いほど抜けやすい傾向にあるように思います)、においも気になりにくくメンテナンスが簡単です。
毛が抜けやすい順 山羊毛>馬毛>豚毛>化繊毛
私にはこの硬さと弾力が丁度よく、靴用と製作時用の2つを持っていて、愛用しています。
「製作時用にブラシ?」と疑問に思ったかもしれませんね。
製作時用にブラシ?ってどう使うの?
革生地もお手入れが必要なのです。
材料としての革は、革の裏側と表側が接した状態で保管されています。
結びを解いて切り出した状態の革には、革の粉がついていたり保管時のホコリが載っている可能性があります。革によっては、余計な油分やロウ成分が表面を覆っている可能性もあります。
そういった余分なものを除去し、革目をならす(整える)のにはブラッシングが最適です。革の種類によって適したブラシは異なり、化繊毛ブラシや後述の馬毛ブラシ、場合によっては豚毛ブラシなどから選んで用いています。
万能な化繊毛ブラシですが、スエード製品にはおすすめしません。後で紹介するクレープブラシを使ったお手入れをおすすめします。
おすすめ化繊毛ブラシはM.モゥブレィ
うちで使っているのはドイツ製のホワイト。Amazonでは同じ商品でイタリア製も選択できます。製造国の違いで何が変わるのかはわかりません。
勉強不足ですみません。
毛が抜けるストレスが無いのと、最初のホコリ落としから仕上げまでこなせる万能さが素晴らしい。
用途別、カラー別にそろえると靴のお手入れがはかどります。
馬毛ブラシ
馬毛ブラシには、尻尾の毛を使ったものと鬣(たてがみ)を使ったものがあり、それぞれ性質が異なります。硬く長い尾は掃除用、柔らかいたてがみは洋服や靴用に使われることが多いです。
適度な弾力で、いろいろな用途に使いやすいブラシです。このくらいの硬さなら、繊細な革もふくめてほとんどの革製品に安心して使うことができると言えます。
ブラッシング効果は前述のブラシより劣りますが、日常的な革製品のブラッシングやホコリ掃いとしては、靴用としてもその他の革製品用としても最高のパフォーマンスを発揮してくれます。
馬毛ブラシは家具用のブラシとしてもよく使われていて、ドイツのREDECKERやスウェーデンのIris Hantverkなどのブランドが代表格です。
おすすめ馬毛ブラシはコロニル馬毛ブラシ
デリケートな革に使う時は、私はいつもコロニルの馬毛ブラシを使っています。
より上質(均一な毛質、毛量、美しさ)のブラシが欲しい方は、ブートブラック×江戸屋ブラシのこちら☟など。
山羊毛ブラシ
細くてやわらかいのが最大の特徴。主に仕上げのツヤ出しや埃払いに使います。
繊細な革小物のお手入れに使うのにも最高です。
山羊毛ブラシは高級家具用のホコリはらいやデリケートな衣類用にも使われています。
山羊毛ブラシと他のブラシの毛の太さ比較
山羊毛と馬毛ブラシ
次は山羊毛と化繊のブラシを比較します。
山羊毛の細さがわかっていただけたでしょうか。
山羊毛ブラシについては、山羊毛ブラシを革製品に使うメリット|なめらかな光沢で詳しく掘り下げています。
おすすめ山羊毛ブラシはコロニルのファインポリッシングブラシ
細く密な毛足でまんべんなくブラッシングができ、仕上げのツヤ出しに最適です。
大切な靴や鞄の仕上げのお手入れに使うにもおすすめ。
山羊毛ブラシは高級品の選択肢が多く、所有欲を満たすアイテムがそろっています。
ブラシの用途まとめ
豚毛・・・靴のクリームを塗ったり延ばす、革靴のアウトソールのクリーニング、ワークブーツや登山靴などカジュアルな革靴のブラッシング、カジュアルな革製品(成牛革など)のクリーニング
化繊毛・・・カジュアルな革靴・革製品(成牛革など)のブラッシング、ツヤ出し
馬毛・・・カジュアル・フォーマルの革靴・革製品(成牛革・カーフ・コードバンなど)のブラッシング
山羊毛・・・フォーマルな革靴・革製品(カーフ・コードバンなど)の仕上げブラッシング、特に繊細な革製品のブラッシング、きめ細かなツヤ出し
番外編:真鍮ブラシ
革製品のお手入れには真鍮のブラシも使います。どう使うかというと、ヌバックの起毛を復活させるためです。
私の場合、主にビルケンシュトックサンダルのフットベッドのすべりとテカリを解消するために使っています。
履き心地の改善にもつながるので、ビルケンを愛用している方は是非試していただきたいです。
くわしくは、ビルケンシュトックのフットベッドのテカリと滑りを直す方法2つをご覧ください。
スエード専用ステンレスブラシ
極細のステンレス毛を備えたスエード専用ブラシです。
スエード用のブラシとしては私が使った中では最良の選択肢。
以前はクレープブラシを使っていましたが、ステンレスの方がほこりをかき出す能力が高く、スエードへのダメージも少ないと感じます。
くわしくはコロンブスのスエードブラシ(ステンレス製)が良い|ゴムブラシよりもこっち派をご覧ください。
スエード専用クレープブラシ
スエードの汚れ落としと毛並みを整える効果があるゴム製のブラシです。
スエードのメンテナンス方法と使い方は別記事で紹介しています。
スエードシューズのメンテナンス方法とおすすめ道具【動画アリ】
私が使っているクレープブラシはこのサフィールのもの。
ベーシックなクレープブラシなので一本買うならこちらがおすすめです。
革への影響(艶出し、傷)を実験してみた
実際に検証してみましょう。
豚毛ブラシでブラッシング➡傷が残る
今回検証に使うのはエルバマットというイタリアンレザー
関連記事 イタリアンレザー『エルバマット』ってどんな革?特徴、品質、良くないところ
この革は、使い始めは繊細でちょっとしたことで小傷ができます。
この小傷は使っていくうちに目立たなくなってくるので問題はありませんが、ブラッシングで傷ができてしまったらやはりショックです。
それに、使い込んで育ったツヤがブラッシングで曇ってしまったら元も子もありませんよね。
どんなブラシが適しているのか、実際にブラッシングして検証してみました。
こんな感じにエルバマットのprugna(プラム)を黒豚毛の靴用ブラシでブラッシングしてみました。
効果がわかりやすいようにより少し強めにゴシゴシこすっています。
片手にカメラを持ってのことでブレブレですみません。
右側四割くらいをブラッシングしました。色が濃くなっているのは、ブラッシングによりこの革特有のブルームが取れて革地が見えている為です。
このブルームは完全に落とさずほどよく残してあげる方が革のためにはいいと思いますが、仮にこのブルームを落とす能力=ブラッシング力と仮定すると、十分な能力があることがわかります。
ブラッシングされた部分はどうなっているでしょうか。拡大してみましょう。
定規と平行に、縦の細かい筋が残っているのがわかりますか?
giallo(黄色)はこちら。
この筋は、ブラッシングでできた傷です。
よく見ればわかる程度の微細な傷ですが、ピカピカに磨かれた靴や使いこんでピカピカになった財布なら一目でわかります。
では、化繊毛のブラシはどうでしょうか?
化繊毛と豚毛の効果比較
先ほど右側を黒豚毛でブラッシングしましたが、今度は左側を化繊毛ブラシでブラッシング。
違いがわかりますか?真ん中のわずかの部分はブラシをあてていません。
ブラシを当てた左右の側は、どちらも光沢が出て照明の光を白く反射しています。
違いは、左の化繊毛ブラシ側は右の豚毛ブラシと比べて色の変化があまりないこと。つまりブラッシング力がひかえめです。
傷の方はどうでしょう。同じ写真を拡大してみました。
違いがわかりますか?縦にキズが入っている豚毛ブラシに対して化繊毛はキズが見当たりません。
化繊毛でブラッシングしたgiallo(黄色)の拡大写真はこちら。
この繊細なエルバマットで大丈夫なら、化繊毛のブラシは傷の心配はほとんどないと言えるでしょう。
そしてこれより柔らかい馬毛や山羊毛ブラシならほとんどの場面で安心して使うことができます。
豚毛ブラッシングでは傷が残る結果となりましたが、全ての場面において豚毛ブラシがダメということではありません。クリームを塗りながらではちがう結果になりますし、違う革なら結果も変わります。
個人的には、柔らかいブラシよりもある程度弾力があるものが好ましいのですが、デリケートな製品にも使えるブラシとなると、化繊毛かそれより柔らかい馬毛ブラシがおすすめになります。
まとめ
革製品のお手入れは、それ自体を趣味になさっている方がいるくらい奥深いものです。その中でも、今回はブラシにスポットを当てて紹介させていただきました。
デリケートな革にもそうでない革にも使える万能な革用ブラシは化繊毛ブラシです。多くの場合革への傷の心配はないと言えますが、心配な方は馬毛ブラシを使っておけばほぼほぼ間違いないでしょう。
そして、余裕があれば山羊毛のブラシも手にしていただきたいですね。これが最強タッグです。丁寧に手入れをする楽しさを知っていただけたら嬉しいです。
注)一口に化繊毛ブラシや馬毛ブラシといっても、メーカーの違い、自然素材の場合個体差があることはお見知りおきくださいませ。
専門店に行けば、所有欲を満たしてくれるくらいに美しく完成度の高いブラシもあります。ブラシに凝るという趣味も追及し甲斐があるかもしれません。(著者は掃除用のブラシやはたきに凝っています)
毎度マニアックな話で恐縮ですが、少しでも皆様のレザーライフが豊かなものになりましたら幸いです。
最後に、この記事で紹介した私ミコガイ愛用一押しブラシのリンクを貼っておきます。
長文お読みいただきありがとうございました。
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