この記事は、防水スプレーや革用のツヤだしクリームなどに使われる「シリコン」についてお話しします。
革製品を買ったときに、「シリコンを使った防水スプレーは使わないでね」と言われたことがある方もいるかもしれません。
本当に使わない方がいいのでしょうか?
革職人の私が実験した上での結論からお話しします。
あえてシリコンを使った防水スプレーやクリームを使う必要はありません。なぜなら、もっと革に適した防水スプレーやクリームがあるから。
革製品にはシリコンを含まないフッ素系の防水スプレーをどうぞ。くわしくは、コロニルの革用防水スプレー4種類を比較|迷ったらウォーターストップで間違いなしで紹介してます。
クリームは、とりあえず1909シュプリームクリームデラックスを持っておけば万能でおすすめです。
シリコンを使った防水スプレーは使わないでって言われました。どうして?
シリコンを革につけるとどうなる?
シリコンを使った革用メンテグッズは粗悪な商品?
などについてお話します。
本題に入る前に、ややこしいシリコンとシリコンのちがいについて理解しておきましょう。
シリコンは元素、シリコンを精製した化合物がシリコーン。
シリコン は元素!
シリコーン はシリコンを精製した化合物!できたシリコーンは
オイルになったり
出典 シリコンって何?シリコーンって何?Silicon? Silicone?│共和工業株式会社
ゴムになったり
樹脂になったりします。
製品として使われるのはシリコーンですが、便宜上シリコンで統一して表記します。
シリコン入り防水スプレーを革にかけるとどうなる?
実験してみました。
※試したシリコン入り防水スプレーはこの1本だけであり、ほかのシリコン入り防水スプレーでも同様に異常が発生するかどうかはわかりません。あくまでも参考例の一つとして読み進めいただけたら幸いです。
今回使ったのはこちらの防水スプレー(メーカーおよび商品名は伏せます)。
説明書きに、革製品には使ってはいけないとあります(なぜか革靴は使っていいと書かれている)。
革靴には使えるのに他の革製品には使えないというのは解せない
使ってみます。
写真のように厚紙をあてて革の半分のみに2回スプレーし、スプレーしていない側と比較します。
試す革は3種類。
最初に結果ですが、国産ヌメ革のみに深刻な悪影響が見られ、それ以外はほぼ変わらずでした。
ヌメ革にシリコン入り防水スプレーをかけたら斑点状に白化した
こげ茶色のヌメ革だけにあきらかな変化がありました。ちょっとわかりにくいので次の写真をご覧ください。
シリコン入り防水スプレーを使った方だけに斑点状に色が抜けたように変化しました。写真ではよく見比べればわかる程度ですが、実際はこの写真以上にひどいです。
照明の角度を変えてみましょう。
先ほどの比較写真では見えていなかった砂つぶのような白い点が現れました。
お気に入りの革製品だったら大変なことになるところでした…。
これはこすっても落とすことはできませんでした。
他の革は意外にも見ためや手ざわりはほとんど変わらない
シリコン入り防水スプレーを使ったら不自然なツヤツヤになるのでは?
と思いつつ試しましたが、ヌメ革以外の革はほとんど変わりませんでした。
ビニールちっくな層ができたり、不自然な光沢が強まったり、手ざわりが極端に変わったりすることはありません。
スプレーなら極端に厚塗りになることがないからがその理由と推測しました。
塗るタイプのシリコン製靴墨やクリームなどの方がテカテカになったり手触りが変わったりしやすいと推測します。
見た目が変わらないなら問題ない?そうでない理由
ヌメ革はともかく、他の革なら試してから使えば問題ないんじゃ?
他の革にもおすすめはできないかな。
おすすめできない理由は目に見えない影響が出ている可能性があるから。
「革にシリコンを使う(塗る)と良くない」
これが革製品メーカーや革製品用ケア用品メーカーの通例です。
それはどうしてでしょうか。シリコンが革製品に与える影響を次の章でお話しします。
シリコンが革によくない理由|ひび割れにつながるリスク
シリコンをふくんだクリームや防水スプレーを使うと、革の表面にシリコンの被膜ができます。
では、これがどうしてよくないと言われるのでしょうか?理由はおもに次の3つです。
クリームが浸透しにくくなると革がひび割れしやすくなる
シリコン被膜は革表面をベタっと覆ってしまうため、革に必要なクリームの油分も浸透しなくなってしまいます。
油分がなくなった革は潤滑油が乾いた状態。
動かすと繊維同士がギシギシと悲鳴を上げ、極端に力が加わると最悪ひび割れを起こします。
出典 経年劣化|某ブランドバッグのレザーハンドルがひび割れ|原因と予防策
こうなると取り返しがつきません。
シリコンに対するフッ素系の防水スプレーは、油を弾きますが塗りこめば浸透します。そこがシリコンとのちがい。
シリコン被膜が革靴、革製品をムレやすくさせる
シリコンの膜が革表面にフタをし、水蒸気が抜けにくなって革靴がムレたり濡れた財布が乾きにくくなったりします。
実はシリコン自体には高い透湿性があると言われていますが、すき間があっても膜は膜です。すっぴんよりは被膜がある方が透湿性は下がると考えています。
なお、フッ素系の防水スプレーは膜を作らず繊維一本一本に付着して作用するため、革にスプレーしても十分な透湿性があると言われています。
※引用イラストに「通気性」と書かれていますが、牛や山羊などの革に通気性はほとんどありません。
誤)通気性→正)透湿性とご理解ください。
革についたシリコンは落とせる?
結論からいうと、一度付けてしまったシリコンを落とすのはむずかしいです。
シリコンは溶剤やアルコールに耐性があります。
シリコーンゴムは、耐油性の他に耐薬品性、耐溶剤性に優れており、アニリン、アルコールなどの極性有機化合物や希酸、希アルカリなどにほとんど侵されず、膨潤による容積の増加は10~15%にとどまります。トルエン、ガソリン、ベンゼンなどの無極性有機化合物には膨潤しますが、一般の有機系ゴムとは異なり、材質の分解、溶解が無く溶剤が除去されれば、元の状態に戻ります。
出典 シリコーンゴムの耐油性・耐溶剤性・耐薬品性を他のゴムと比較
つまり、シリコンは、有機溶剤を使った靴用のクリーナーでも落としにくいということですね。
ソフト99が販売する「シリコンオフシート」という商品もありますが、革製品には使えないと表記されています。
落としにくいということは、一回一回のシリコンの影響が微量だったとしても、使い続ければ蓄積されて影響が強まる可能性があるということ。
後々のことを考えると、「安易にシリコン製品を革に使わない方が吉」。
これが結論です。
シリコンそのものが革に悪影響を与えることはあるか?
シリコーンゴムやシリコーン樹脂自体が革をダメにすることがあるか?というと、そのような情報は確認できていません。
なめし(皮を革に加工する工程)の段階で、弾力やふっくらした触感を持たせるためにシリコンを配合した革も存在します。
私はなめしについての化学的な部分は門外漢っていう前提ですが、シリコンそれ自体が革に悪影響をあたえると聞いたことはありません。
— デテログ (dete®の人) (@mkgx81) December 24, 2022
むしろ、シリコンを配合して弾力や手触りを向上させた革素材もあり、うちでも使っていた時期があります。
使い方次第ですね。
なかなかおもしろい素材で、私のブランドdeteでも過去に使っていました。
シリコンを含む防水スプレーを使うメリット
シリコン入り防水スプレーは安く手軽に防水処理できるのがメリット
革用の専門メーカーが作る防水スプレーは安くても1,000円を超えるものがほとんど。それに対し、シリコンの防水スプレーは100円ショップで取り扱いがあるくらい安い商品もあります。
100円ショップや靴屋さん以外にも、ホームセンターでもスーパーでも幅広く取り扱いがあって手に入れやすいのも特徴です。
シリコン入り防水スプレーにも防水効果はある
当たり前ですが、防水効果はきちんとあります。
シリコン入り防水スプレーした部分(上)としていない部分それぞれに水滴を垂らしました。
— デテログ (dete®の人) (@mkgx81) December 23, 2022
スプレーしていない方が水を弾く結果に。ですが、していない方は若干染み込みがあるのに対し、した方はない。
効果はあります。
滑らせて弾くのではなくコートして防水効果を発揮するスプレーなのでしょう。 pic.twitter.com/HPoE1kvSkg
ふしぎだったのは、防水スプレーをした部分の方がすべりが悪くなったこと。
一般的な革用防水スプレーはすべりやすくさせて水を弾くのに対し、シリコンの防水スプレーは革表面をコーティングして水の浸みこみを防いでいるのでしょう。
シリコンの防水スプレーは効果が長持ちする?
フッ素系の防水スプレーにくらべ、シリコンの防水スプレーは効果が長持ちすると言われています。
落とそうとしても簡単には落とせないシリコンなので納得できます。
革製品に使う上では良し悪しですが、革以外で透湿性を必要としない製品(傘など)にならこの特徴が生きます。
シリコン入りスプレーやクリームを使った方がいい場面
シリコンの防水スプレー=革にはNGってことでOK?
結論私なら使うことはないけれど、全員におすすめできないかというとそうでもない。
どんな製品にもシリコンのスプレーはNGか?というとそうとも言えません。
安価で使いつぶし前提の製品になら検討してもいいかもしれません。
とはいえ、革製品のあつかい方をわざわざ調べてくれるような方にそんなケースがあるのか?は疑問です。
安価な革製品でもなるべく大切にあつかってくれたら…うれしいです。
シリコン入り防水スプレーやクリームにはどんな商品がある?
※ここで紹介する商品の品質が悪いということではありません。手軽にツヤだしや防水防汚化させたい方には重宝すると思います。
SUN UPの強力防水スプレー
ミスターミニットのクイックツヤ出しスポンジ
コロンブスのブリオ
手軽にツヤ出しと防水ができるから、こだわりが強くない方向けの商品に多い印象です。
大切な革製品にはフッ素系防水スプレーがおすすめ
大切な革製品用にはシリコンを使っていないフッ素系の防水スプレーを使いましょう。
シリコン系とフッ素系防水スプレーのちがい
カーボンなどを使った第三の防水スプレーも登場していますが、大きく分ければ防水スプレーはフッ素系かシリコン系(フッ素とのハイブリッド含む)の2つに分けられます。
シリコン系 | フッ素系 | |
---|---|---|
価格 | 安い | 高い |
持続性 | 〇 | △ |
防汚 | △ | 〇 |
透湿性 | × | 〇 |
風合いの維持 | × | 〇 |
先に載せた図で解説したとおり、フッ素系の防水スプレーは表面を覆うことなく、繊維にくっついた状態で効果をはっきします。
だから革製品に必要な透湿性をそこなわず、カビや雑菌の繁殖を防げる。そしてクリームの油分も浸透する。
ここまでメリットがそろうと、シリコン系防水スプレーを革製品に使う理由はほぼ無くなります(値段が安いのみ)。
おすすめの革製品用防水スプレーはウォーターストップ
おすすめ商品ですが、革製品用メーカーが作っているならほとんど問題ないです。
などなど。
中でもおすすめなのは、私が使っていて革製品に問題なく使えているコロニルのウォーターストップ。
くわしくは、コロニルの革用防水スプレー4種類を比較|迷ったらウォーターストップで間違いなしをご覧ください。
スエード製品をお持ちの方は、エム・モゥブレィのスエードカラーフレッシュを持っておくとなお良いです。
くわしくは、スエードカラーフレッシュはどんな商品?〔使い方と効果〕をご覧ください。
シリコンと革のまとめ|大切な革製品には使わないのが無難
シリコン入りの防水スプレーは革に良くない影響を与える恐れがあります。
革のひび割れにつながったりカビが発生しやすくなったりし、落とすのがむずかしい。
シリコンと一口に言っても、品質は様々だと聞きます。
とはいえ、どんなシリコンが使われているかはわからないし、シリコンを使っていない良質な防水スプレーやクリームがあるのですから、あえてシリコン入りの製品を革に使う必要はないでしょう。
安価な革製品を使いつぶすならいいのかもしれません。ですが、貴重な革資源を大切に使って欲しいという思いから、そのような使い方はあまり推奨したくないのが本音です。
革製品にあたえる悪影響がすくないフッ素系の防水スプレーのおすすめは、コロニルのウォーターストップです。
くわしくは、コロニルの革用防水スプレー4種類を比較|迷ったらウォーターストップで間違いなしをご覧ください。
クリームは、とりあえず1909シュプリームクリームデラックスを持っておけば万能でおすすめです。
デテログは防水スプレーを使うこと自体は基本的に推奨しています。
まちがった使い方をすると健康被害につながる恐れがあるので、記載された使用方法を守って正しく使いましょう。
関連記事 防水スプレーの危険性を話します!安全に使う方法は?
この記事は以上です。長文お読みいただきありがとうございました。
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