この記事では、革製品に傷がついて困っている方向けに、傷の消し方と隠し方について解説する内容です。
革の種類によっては、ちょっとしたひと手間で目立たなくできる場合もあります。その反面、中には自分では難しいケースも。その場合の対処方法についても触れています。
まず、革製品についた傷を消す5つの方法を紹介します。
これらを駆使し、傷の種類と革の種類に分けて解説していきます。まずは傷の種類ごとに勉強していきましょう。
革につく傷の種類と消し方
表面がけば立った程度のかすり傷なのか、削れたりめくれた傷なのか、凹んだ傷なのか、このどれに該当するかで対処法が異なります。
5つのキズのパターンを解説します。
(1)ひっかき傷(毛羽立ったような傷)の消し方
表面の色が変わり毛羽立ったようになるこの傷は、ひっかき傷です。
ひっかき傷は、比較的消しやすい傷といえるでしょう。この毛羽立ち傷に有効なのは、「ブラッシング」、「指/布でこする」、「クリームを塗る」です。
ブラッシングで小傷を消す
まずはブラッシングを試すといいです。革にテカりやダメージを与えにくく、リスクの小さい方法です。
革の軽いひっかき傷はブラッシングで修復できる場合があります。 pic.twitter.com/EbG3Js32gm
— デテログ (dete®の人) (@mkgx81) May 23, 2022
ブラシは、エムモゥブレィのプロブラシかコロニルの馬毛ブラシを使えばOK
指でこすってひっかき傷を消すやり方
ブラッシングで効果が見られない場合は、指で軽くこすってみましょう。
まず、爪を立てて革にひっかき傷を付けてみます。
指の腹でこすります。
このとき、強くこすると革の種類によってはテカりが出てしまうので気をつけてください。
目立たなくなりましたね。革の種類によっては、革の凸凹を広げた状態でこするとより効果的です(革生地の状態や、裏に何もついていない状態の製品などで可能。できるケースは限られます)。
かなり目立たなくなってきました。この時点で目立たなくなっていれば終了ですが、今回の革ではまだ完璧とは言えません。
さらに、柔らかい布でこすってみましょう。
パーカーの袖のリブを使いました。縫い目や布が重なった硬い部分には気をつけてください。
どうでしょうか?写真でも実物でも、元々どこに傷があったのかわからないレベルになりました。
革の復元力はすごいですね。
もし指と布でこすっても消えない場合、クリームを塗ると目立たなくなる場合があります。
使うクリームは、コロニル、コロンブス、エムモゥブレィ、サフィールなどの商品ならほぼほぼ問題なく使えます。
クリームには靴専用とオールラウンダータイプがあり、デテログのおすすめはオールラウンダーの1909シュプリームクリームデラックス。色つきと無色がありますが、一つ持つなら無色がおすすめです。
このとき、傷部分だけでなくお手入れをかねて全体に塗りましょう。革に浸透して完全に乾いたら、やわらかい布で乾拭きして完成。
さらに、ブラッシングで仕上げてあげるとなおいいです。自然なツヤが出て上質感が出るのでおすすめですよ。
(2)削れた傷の隠し方
表面が削れた傷は、革の内側が見えてしまっている状態です。
この傷を元通りにすることはできませんが、隠したり目立たなくすることはできます。その方法は、顔料で塗装した革なのか、染料で染めた革なのかでちがいます。
染料で染めた革の場合
先に紹介した毛羽立った傷の消し方と同じ方法を試してください。
表面が削れてしまっているので色の差が目立つかもしれませんが、使っていくうちになじんで目立たなくなり、革らしい味になるはずです。これが染料染め革の利点です。
染料染めと顔料塗装革についてくわしくは、顔料を使っている革は悪い革?染料と顔料のメリットとデメリットをご覧ください。
顔料で塗装した革の場合
顔料で塗装された革は、近い色の顔料を含んだ補修用クリームを塗って傷を隠すことができます。
このレノベイティングカラーの成分はアクリル樹脂と顔料。色を補いつつ、樹脂で傷んだ箇所をカバーしてくれます。
注意点として、革と補修クリームの色がある程度合っていないと補修跡が悪目立ちしてしまいます。
その為、補修するなら複数の色をそろえ、混ぜて色合わせをしてから使うのがベターです。
黒やこげ茶など濃い色であれば色のちがいは目立ちにくいですが、明るい色では難易度が上がります。
もう一つの選択肢として、お手入れと兼用できる色付きのクリームを使う方法もあります。代表格が、コロニルの1909シュプリームクリームデラックス。
シュプリームクリームデラックスについては、1909シュプリームクリームデラックスの万能感をレビュー&使い方で解説しています。
補修用クリームほどのリペア効果はありませんが、初心者の方にも扱いやすい利点があります。補修クリームとちがい、淡い色や鮮やかな色は販売していません。
この場合の注意点として、靴用として売られているクリーム(シュークリームと書かれている商品など)をバッグや財布に使うと、色移りする可能性があります。また、財布やバッグなどに使う場合は、クリームが乾いた後に乾拭きして色落ちがないことを確認してから使うようにしてください。
正しく使わないと、衣類や鞄などを汚すリスクがあります。
自信がない場合は迷わずプロに依頼するのをおすすめします。
皮革専門クリーニングのリナビスさんは、クリーニングから傷の補修、色の補正までをトータルで請け負ってくれます。
(3)凹んだ傷の直し方
硬いものに押し付けられたり、とがったものが当たるなど、局所的に強い力がかかると凹んだ跡が残ることがあります。これはおもにヌメ革などのタンニンなめし革で起こります。
この凹みは、製品に加工されてしまうと、特定の条件をのぞいて直すのはむずかしいです。特定の条件というのは、裏地がついていない一枚革のパーツや製品のこと。
この場合、革を揉むのが効果的です。
革の銀面(表面)を山にして、手のひらでコロコロと転がすように揉みます。折り目がついてしまったり、やりすぎて革を柔らかくしすぎてしまわないように注意が必要です。
表面を外にしてころころと転がすように。
ほぼほぼ目立たなくなりました。
シボが入った革は、革の銀面を谷にして揉むことができ、これはより効果的な方法です。
なお、革生地の時点では、傷とその周囲をハンマーで叩く方法も試せます。職人は、ミシン跡を消すためにこのテクニックを使うことがあります。
レザークラフトをしている方は試してみてください。
ハンマーは縁を丸く削ってなめらかにしたものを使いましょう。叩き方がうまくいかないと余計な跡がついてしまうので、製品を叩くのはおすすめしません。
(4)切り込みを直すには?
残念ながら、刃物などによる切り込みが入った革は元通りになりません。
パーツを交換するか、ポケットや装飾を重ねるなど、作り変えが必要です。
パーツを交換する場合は、メーカーか、カスタムを受けてくれる修理屋さんなどに頼めば新品のように作り直してくれるかもしれません。
ハイブランドが使う革でも、実は同じ素材が一般に流通しているケースが多いからです。一度相談してみるといいでしょう。
(5)最初からあった傷(生前についた治り傷)は消せる?
残念ながら、新品の状態から入っている治り傷を隠すのはむずかしいです。
治り傷は、一般的に、革になった動物が生きていたときについた傷が治り、その跡が革に残ったものです。
顔料で染めた革の場合、傷は塗装の下に隠れ、例え入っていても判別できない場合がほとんどです。また、耐久性に影響する部分は基本的に取り除かれます。
ところが、染料で染めた革の場合、製品の中に治り傷が入るケースがあります。どこまで許容するかはデザイナー次第ですが、大きなパーツを必要とする製品の場合、完全に取り除くのは困難です。
耐久性に影響がない治り傷は、必ずしも悪いものではないと考えています。
治り傷の種類やその見た目については、新品の革製品に傷が。これって不良品?|治り傷・トラ・血筋・虫食いのちがいをご覧ください。
革の種類別|最適な小傷の消し方
前の章の(1)ひっかきの直し方を、革の種類ごとに表にまとめました。
表で見る|革の種類別傷の対処法
ヌメ革 | オイルレザー | 染料革 | 顔料革 | スエード | エナメル | |
---|---|---|---|---|---|---|
革の特徴 | ・水をよく吸う ・色変化する | ・水をはじく ・しっとりした手ざわり | ・透明感ある色 ・毛穴が見える | ・均一な色 ・毛穴が見えにくい | 毛足が立っている革 | ツルツルの手ざわり |
傷の消し方 | ・指/布でこする ・ブラッシング ・クリームを塗る | ・指/布でこする ・ブラッシング ・クリームを塗る | ・指/布でこする ・ブラッシング ・クリームを塗る | ・色付きのクリーム ・補修クリーム ・専門業者に依頼 | ブラッシング | 専門業者に依頼 |
注意点 | ・テカり ・色が濃くなる ・色落ち | ・テカり ・色が濃くなる ・色落ち | ・テカり ・色が濃くなる ・色落ち | 塗装の剥げ | 金属のブラシは やりすぎに注意 |
ヌメ革、オイルレザーは傷も味わい
ヌメ革やオイルレザー、染料染めタンニンなめし革などは、傷がつきやすいデリケートな素材です。ですが、ブラッシングしたり指や布でこすったりするだけで目立たなくできる場合も多く、育て甲斐がある革とも言えます。
他の素材にはあまりない性質なので、はじめて使うとびっくりしてしまうかもしれません。ですが、意外にも使っていくとなじんで気にならなくなってくる方が多いのも事実。
傷ついたり、傷が治ったりをくり返し、最終的にはなじんでかっこよくなっている。ヌメ革はそんな革です。
革の味の楽しみ方については、「革の味が出る」ってどういう状態?経年変化と使いこんだ歴史をご覧ください。
顔料革は傷に強い、けれどついた傷は消しにくい
顔料で塗装された革は、顔料そのものが革を守ってくれるため、傷が残りにくく扱いやすい革です。逆に言えば、目に見える傷が残ってしまっているということは、その傷はちょっと深刻な傷かもしれません。
革地の色が見えてしまっているのなら、塗装し直す必要があります。その場合の対処方法は二つ。補修クリームを使うか、確実にプロに任せるかです。
一応二通り紹介していますが、悪いこと言わないから専門業者に任せましょうというのが本音です。
白い革の傷を隠す方法
白い革専用の補修グッズがあります。スニーカーホワイトニングローションです。
家族の白いレザースニーカーに使っていますが、白単色の革/合皮に使うならとてもおすすめ。
くわしくは、黒ずんだ白い革靴(スニーカーも)の汚れを落とす方法|消しゴム&クリーナーで解説しています。
スエードはブラッシングでほぼほぼ元にもどせる
まず軽くスエードって何なのか?をお話しします。スエードは、革の裏面を使った革で、裏面をやすりがけして毛足を立たせて作っています。
そもそも革で傷つきやすいのは、キレイに整えられた表面です。また、毛に守られているため、たとえ傷がついたとしても目立ちにくい特徴があります。
スエードで傷のように見えるのは、一時的に毛足が寝ている状態の場合があります。これはブラッシングすればすぐ直ります。
スエード用のブラシを一つ持つなら、コロンブスというメーカーのステンレス製スエードブラシをおすすめします。
くわしくはコロンブスのスエードブラシ(ステンレス製)が良い|ゴムブラシよりもこっち派をご覧ください。
スエードは傷より汚れに気を配ったお手入れをするといいでしょう。
エナメルレザーのメンテナンスはプロに任せる
エナメルレザーは、革の表面にウレタン樹脂塗装を施したものです。この層やその下の革の塗装面が傷ついた場合、自分で修復したり目立たなくしたりするのは困難です。
専門の業者に依頼することをおすすめいたします。
傷が消えない場合の対処法
傷が消えない場合はどうすれば?そんなときの対処法を二つ紹介します。
傷を気にせず使う(味が出る革の場合)
プロに修理を依頼する
傷を気にせず使う(味が出る革の場合)
傷をどうするかを考えているのに、気にせず使うじゃ解決しないよ。
わかります。味が出る革限定になってしまいますが、こう提案するには理由があります。
ヌメ革をはじめとしたタンニンなめし革は、使っているうちに全体の雰囲気が良くなってくるからです。
使い始めは傷が目立ってしまうことがありますが、徐々に馴染んでいくのであまり気にしすぎず使ってみてください。
ちなみに、タンニン鞣し革は、カジュアルな製品や、男性に人気の革製品などに多いです。
どんな革なのかは、タンニンなめし革とクロムなめし革のちがいをご覧ください。
傷は気にしなくても、クリームやブラッシングなどの最低限のお手入れはしてくださいね。
革の味を考慮したお手入れについて、くわしくは、あめ色の美しいヌメ革エイジングを目指すお手入れ方法~をどうぞ。
革製品の修理屋さんに修理を依頼する
自分で治せない傷や色剥げは、迷わずプロに頼むべきです。
まずは購入店やメーカーに相談してみるのが確実。
ですが、販売しているメーカーは作るのが専門なため、専門的な修理の技術を持っていない場合があります。そんな時は、修理専門の業者に依頼しましょう。
餅は餅屋です。
革の傷を消す方法まとめ
革の傷を消す方法について書きました。傷を消すテクニックは次の5つです。
これらの方法を駆使し、傷の種類ごとに合った方法を選んで補修しましょう。
エナメルは個人で対処できるものではないので、業者に相談してください。
スエードはブラッシングで見ちがえます。スエード用ブラシはゴムのタイプが使いやすくおすすめです。
ヌメ革やタンニンなめしのひっかき傷対策におすすめのブラシとクリームは以下の商品です。
ブラシはあらゆる革製品のお手入れの基本です。革製品を持っているならぜひブラシもご用意ください。
関連記事 革職人が選んだベストな革用ブラシに検証写真を添えて。
自分で治せない傷や汚れは、迷わずプロに頼みましょう。
長文お読みいただきありがとうございました。
コメント