革製品を作ることを仕事にして11年になります。
石橋をたたいて渡る性格ゆえ、革職人という仕事が10年後、30年後もなり立っているのかどうか?について思いをめぐらせることがたびたびあります。
革職人が今後も食べていけるかどうか?は、結局のところその人によります。
じゃあ、どうすれば食っていけるのか?
食べていけない革職人にならない方法を考えてみました。
その答えは、【仕事がなくなる(できなくなる)リスクをあぶりだし、一つ一つ対応していくこと】です。
リスクってどんなものがあるの?
一緒に考えていきましょう。
最初に一つ注意点を。
※この記事で紹介しているリスクは、将来的に起こるかもしれない可能性を示したものです。
リスクがあることを理解したうえで、そうならない為にどう行動しようか?というのが伝えたい内容であり、不安をあおる意図はありません。
ご了承のうえで読み進めていただけたらうれしいです。
一旦最悪な状況を考えて、もしそうなった時どうする?
そういう思考回路で生きてます。
レザークラフト仕事にする職人の将来的なリスク
- 市場の縮小
- 取引先の高齢化
- 自分自身の老いによる生産性の低下
- 労災
市場の縮小(革製品が売れなくなるリスク)
革製品の需要がなくなれば売れなくなるわけですが、この原因はさらに細かく分けることができます。
- 世の中の革ばなれ
- 革に変わる素材の登場
- 原皮の減少
世の中の革ばなれリスク
世の中の関心が革にむかなくなることで革の需要がなくなる可能性があります。
その原因として、革に対するイメージや思想が影響していたり、ライフスタイルの変化、周期的なファッションのトレンドなどが考えられます。
革に対してリアルとは違う考えを持ってしまっている方がいるようでしたので、革は持続可能性が高い素材ですという内容で記事を書きました。貼っておきます。
革を使うデメリットも確かにあるけど、革が無くなったらそれはそれで問題が起きます。
人にも環境にもうれしい代替素材がまだ生まれていない現実。
革に変わる素材の登場
革の代わりになるいい素材が出れば革の需要は減っていくかもしれません。
その代表格として、植物由来の革っぽい素材が生まれていて、将来的な革の代わりとして期待されています。
いつか革に変わる良い代替素材ができることに不安と期待の両方を感じています。
まだその時は来ていないし、需要に対して先取りしすぎかなという印象。
原皮素材の減少
おもに情勢的な理由で原皮が手に入りにくくなったり、肉の消費量が減れば調達できる原皮の量も減るというリスクがあります。
これは市場うんぬんとは直接は関わってきませんが、原皮がなくなれば仕入れられる革が減り、その結果革製品が出まわらなくなって、次第に革製品を欲しがる方も減っていくでしょう。
コロナ禍から抜け出しつつある中国の需要急増の影響で原皮価格が上がりはじm・・・という話を、先日(2021年6月)の伊藤登商店(革問屋)のメルマガで読みました。
近い将来、革の仕入れ価格に影響がでる可能性が?
取引先職人の高齢化(革の加工をたのめなくなる?)
革製品を作る仕事は、実はいくつもの関連業者の力を借りてなり立っています。
革を作るタンナー、革を染めたり型押しをしたりする二次加工業者、革の厚みを加工する漉き屋、製作の外注を受ける職人や内職などなど。
関連記事 裁断屋、振り屋、抜き屋、バスコ屋・・・|革関連の職人いろいろ
どの手工業業界でもそうだと思いますが、職人の高齢化はかなり進んでおり(統計はとっておらず肌感覚ですが)、廃業の知らせを耳にすることがあります(新たに起業する知らせは聞かない)。
職人が減り廃業する業者が増えれば、作れない革製品が出てきたり、生産性が落ちたりといった悪影響が考えられます。
老いによる生産性の低下(自分の老化)
こちらもいくつかに分けて考えることができます。
- 首、肩、腰、腕が思うように動かなくなる
- 老眼
労災
革製品を組み立てる仕事で考えられる労災は、ミシンや漉き機に巻き込まれたり手を切ったりといったケガと、接着剤や薬品に含まれる有機溶剤による疾患です。
関連記事 無害な革用水性接着剤ECO P-208のメリット/デメリット
革関連の以下の専門業種では、不慮の事故を含め、より甚大な労災のリスクがあると考えられます。
革をなめす工場のタンナーや、厚みを加工する漉き屋、裁断を請け負う抜き屋など。
本当に、体に気をつけてお仕事しましょう。
革職人は労災保険に入れる?
ちょっと脱線します。
ところで、革職人は労災の保険に入れるの?
自営業でも、特別加入制度を利用して入ることができるようです。
個人事業主でも任意で労災保険に加入することができます。
労災補償特別加入制度について
労災には特別加入制度というものがあり、通常は加入できない個人事業主でも、健康にリスクがある仕事をしている方は任意で加入することができます。
最近、ウーバーイーツ配達員とITエンジニアも対象に加わったあの特別加入制度です。
革関連で該当する業種はこれ。
プレス機械、型付け機、型打ち機、シャー、旋盤、ボール盤またはフライス盤を使
用して行う金属、合成樹脂、皮、ゴム、布または紙の加工の作業有機溶剤、有機溶剤含有物または特別有機溶剤等を使用して行う作業のうち、以下のいずれかの製品の製造または加工に関するもの
引用元 03_特別加入制度のしおり(特定作業従事者用)_3
① 履物、鞄、袋物、服装用ベルト、グラブ、ミット(化学物質製、皮製、布製のものに限る)
② 木製または合成樹脂製の漆器
危険度が高い業種ほど支払う保険料が高くなります。
くわしくは、
労災保険相談ダイヤル📞0570-006031 へ
話をもどします。
長く革職人として働くためにはどうすれば?
私自身、
と、漠然とですが考えています。
先にあげたリスクを踏まえつつ、自営業が長く働き続けるために大切なことが3つあります。
- ちゃんと売れる物を作ろう
- 健康を保つこと
- 一人で何でもできる能力を身につける
これを目指して実践し続けることがポイント。それぞれについてもう少し考えてみましょう。
売れる物とは?
売れる物ってなんでしょうね。私もわからない。
これは技術の追求へと走ってしまいがちだった過去の自分への戒めの為にあえて書きますが、大切なこと。
時代に合った商品を売るという当たり前のこと
トレンドもちゃんと抑えておかないといけません。
普通に商売をしている方からすれば、
当たり前すぎて…何をいまさら?
と思うかもしれません。
そこをあえて書くのは、この記事が自分への戒めであると同時に、これから私と同じような家内制手工業的な仕事で食べていこうとする方に向けた内容だから。
職人という生き物は、ともすれば、
良い物を作り続ければお客様に喜んでもらえるのじゃ。
というお花畑思考に陥ってしまいがちなのです。
ですが、「良い物」って何?という基準はお客様(消費者)が持っているものなので、時代に合っていなかったら売れないのは至極当然のことなのです。残念ながら。
見渡せばA〇az〇nも〇天もIn〇ta〇ramも、売れているのは粗悪品ばかりじゃ。
というのであれば、自分の作るものを使うとお客様にどんな良い影響があるのかを自分の声でちゃんと届けていかないと、知ってもらうことすらもできません。
売れる商品(カテゴリ)は変化する
革職人の仕事はアナログで古典的な作業の日々ですが、売れる商品はすこしずつ変化しています。
変化に合わせて柔軟に対応できないとお客様に響かなかったり、買ってもらえても使いにくくて喜んでもらえなかったりします。
変化の例ですが、たとえば最近クラウドファンディングで最もアツい商品の一つにミニ財布がありますが、数年前まではサブ扱いで、ラウンドファスナーの陰に隠れた存在でした。
売り方も変わっていて、コロナ禍の影響も受けて、売り場のメインは店舗からネットに急激にシフトしています。
リアルタイムの流行も見つつ、1年後、3年後、5年後はどんな世の中になっていくのか?を見越して動いて損はないはずです。
パイをうばうために他社をつぶす的な考え方はどうでしょうか?おすすめしない理由
市場が縮小しているとしたらうばい合いが発生するのは当然といえば当然かもしれませんが、そういうやり方は本当におすすめできない。
パイの奪い合い的な考えの人って見ててキツい。
— dete® (@mkgx81) May 20, 2021
にしても、他人を蹴落とすような考えを公言して成功してる人って分野関係なくあんまり聞いたことないな。それぞれ本音と建前はあるにしても、口にしたらおしまいですよね。
それとマジレスすると、SNSもSEOもいいもの紹介した方が自分も伸びるんじゃ? https://t.co/NhoqLWbtFm
キレイごとを言うわけじゃないし道徳的な話でもなく、そういうことをしていると同業者に嫌われて立ち回りにくくなってしまうからおすすめはしないということです。
そういう評判っていつかお客様にも届いてしまいます。
革製品の業界でも、奪おうとする魂胆が見え見えのところは消えてなくなっている。
— dete® (@mkgx81) June 18, 2021
先人へのリスペクトを持ちながら参入して市場を創っているところはぐんぐん伸びている。
そんな例をいくつか知っています。 https://t.co/WEzWRFNdL5
なので、諸刃の剣だと思います。
健康を保つことがいかに重要か
話は変わって今度は健康管理についてです。
個人事業主は、体を壊すと仕事ができなくなります。
個人事業主は、体を壊すと仕事ができなくなります。
大切なことなので二度書きました。
しっかり休む、そして運動
業種にもよりますが、自分の代わりに誰も働いてくれないのが自営業の職人仕事です。
しっかり休んで、適度に運動して、無理なく働きましょう。
私は大きな病気やケガをしたことはないのですが、ギックリをやったことが何度かあります。
- 初日:食事、風呂、トイレは何とか…それ以外はベッドの上
- 2日目:少し良くなってきたかな?でもほぼ起きれない
- 3日目:少しずつ普段の生活をためす
- 1週間後:まだ痛みと違和感が
- 2週間後:やっと忘れられる
なった方にしかわからないと思いますが、ツライです。
シンプルに何もできません。
日ごろからストレッチをしたり、筋トレをしたりしていれば防げたかもしれません。
運動不足になりがちな仕事ですから、意識して運動するようにしましょう。
働く環境を見直す
deteのアトリエでは、立ちっぱなしや座りっぱなしにならないように、立っても座っても作業できる環境にしています。
机は立ち作業用の90㎝タイプを使い、それにあわせてハイスツールを置いています。
興味がある方は、私的最強なレザークラフト環境は、立ち作業台×ハイスツール×IKEAワゴンをご覧ください。
生活環境を見直す
ひとり暮らしの時は和室だったこともあり、いわゆるせんべい布団というやつで寝ていました。
正直体きつかったです!
2019年末の引っ越しを機に、生活環境の見直しを行いました。
- 予算が許す範囲で最高の寝心地のマットレス
- 座り心地最優先のダイニングチェア
- 家の中でも外履き用のビルケン
めっちゃ試しまくってニトリのNスリープ ラグジュアリーL2KFとカリモク60のアームレスダイニングチェアがベストと判断しました。
ビルケンはチューリッヒとボストンを日替わりで使っています。全部おすすめです。
関連記事 ビルケンシュトックのチューリッヒを室内で使うとどうなる?ルームシューズ化のメリットとデメリット
とくにビルケン。適当なスリッパや裸足から変えると人生変わります。
老眼で手元が見えづらくなるのでは?
老眼になったら仕事にならないんじゃ?
私はまだ大丈夫ですが、心配はあります。でも、70代以上の職人が昔から普通に働いている業界です。
つまり、なんとかなるのでは?笑
もちろん生産性は落ちるかと思いますが、それを理由に廃業するのはよほど先の事かと思います。
👆
70代でバリバリ働いている職人のお話です。
一人で何でもできる能力
これはどういうことかというと、最悪、どこにも加工を外注できなくなっても大丈夫なように備えておくということ。
具体的には、幅ひろい技術を身につけるとか、ミシンや漉き機などの機械を自分でメンテナンスできるようにしておくなど。
ある意味保険です。
とは言ったものの、私自身はミシンや漉き機などは全然くわしくないので、これから勉強していかなくてはと思っています。(ミシン業界も高齢な方多いです。)
レザークラフターのための革漉き機と工業用ミシン上級セットアップは、これからミシンや漉き機初心者~中級者がセルフメンテを学ぶのにおすすめの本です。
革職人の将来性に追い風なうごきは?
ネガティブな要因はわかったけど、前向きな流れとかないの?
もちろんあります。おまけとしてちょっとだけポジティブな話をしておきます。
- 新たな販路が生まれている
- 高級レザーの国内流通が進んでいる
- ハイエンドなツールが手に入りやすくなっている
- プロの技術や情報が手に入りやすくなっている
クラウドファンディング、ハンドメイドマーケットなど新たな販路
ハンドメイドマーケットは10年前にはほとんどなかったし、クラウドファンディングで革の財布にお金が集まるようになったのはここ数年のことです。
今後も革製品にチャンスがあるマーケットがぞくぞくと生まれる可能性があります。
高級レザーの国内流通が進んでいる
ハイブランドで使われるヨーロッパの高級素材が、最近は個人規模でも使えるようになっています。
お客様のご要望に応えやすい環境が整ってきているのを感じます。
ハイエンドなツールが手に入りやすくなっている
昔は良い道具を国内で手に入れることができず、オーダーして作ってもらったり、自分で加工して理想に近づけたりという苦労がありました。最近は高い精度の海外製の道具の選択肢が増え、手に入れやすくなっています。
これにより、これまでできなかった仕上がりを目指せたり、新たな技術が生まれる期待がふくらみます。
プロの技術や情報が手に入りやすくなっている
ブログやSNS、動画配信が広まるにつれ、技術やノウハウを公開する方が増えました。
これまで限られた人しか知りえなかった情報に手が届きやすくなり、業界全体の技術の底上げが期待できます。
まとめ
レザークラフトを仕事にする職人の将来的なリスクとその対策について書きました。
- 市場の縮小
- 取引先の高齢化
- 自分自身の老いによる生産性の低下
- 労災
まず、革製品のマーケットが縮小するリスクがあります。原因として、世の中の革離れが進んだり、革に変わる素材の台頭などが考えられます。
もちろん、逆に大きくなっている可能性もゼロではありませんが、人工が減っていく中で革の需要が大きくなっていると考えるのは楽観的過ぎるかなと考えています。
その他、関連の取引先の高齢化が進んでおり、外注できなくなるリスクがあります。また、体が資本な仕事だけに、老いや病気、ケガで仕事ができなくなったり生産力が落ちることも考えておかなくてはいけません。
- 市場の動きを追って敏感に反応すること
- 健康を保つこと
- 一人で何でもできる能力を身につける
対策としては、トレンドも見つつ先を見越して行動すること。
そして健康維持もとても大切。健康がパフォーマンスに直結するのがこの仕事です。
外注先がなくなっても生き残れるよう、自分でできる技術の範囲を広げるのもリスクヘッジになると思います。
とまあいろいろ書きましたが、市場がどうとか今後どうなるかといったことは、誰にもわかりませんよね。だから、
なるようになる笑
自分でなんとかできる部分を改善していきましょうというのが伝えたいことです。
この記事は以上です。長文お付き合いいただきありがとうございました。
革職人になるには?についての関連記事をまとめたのが、革職人になりたい!職人を目指す人に向けた記事まとめです。あわせてごらんください。
コメント