濡れた革製品を乾かす時にドライヤーを使ったことがある方がいるかもしれません。
いきなりですが、実は、革にドライヤーの熱風はNGです。
どうしてダメなの?
革にドライヤーを使うとどうなる?
ドライヤーを使わずに乾かす方法は?
などについてお話します。
この記事が広まってくれることで、革にドライヤーを使って失敗してしまう方が一人でも少なくなることを願っています。
濡れた革製品にドライヤーを使ってはいけない2つの理由
いきなり結論ですが、理由はこの二つです。
- 濡れた革を急に乾かすと悪影響があるから
- 革は高温に弱いから
実験を交えて解説します。
《実験》濡らした革にドライヤーをあてて乾かしてみた
水をよく吸うタンニンなめし革にしっかりと水を吸わせ、ドライヤーで完全に乾かしてみました。
音量注意⚠
— dete® (@mkgx81) June 13, 2021
濡らした革をドライヤーで乾かすとどうなるかの実験をしているところです。 pic.twitter.com/U4U1rlNY5q
ドライヤーは至近距離から4~5分ほどあて続けました。
結果:熱で乾かすと革が縮むわ硬化するわ油分が抜けるわで…
濡れた革をドライヤーで乾かしたらこうなった。
— dete® (@mkgx81) June 13, 2021
▶硬くなった
▶縮んだ
▶しっとり感がなくなった
▶毛穴が目立つようになった
▶色が濃くなって鮮やかさがなくなった(ヌメ革が焼けた色に近づいた)
革のひび割れ、変形のリスクがあります❗
濡れた革をドライヤーで乾かすのはやめてくださいね〜 pic.twitter.com/oXf8Ldr0qW
- 革が縮んだ
- 革が硬くなり弾力がなくなった
- 革の油分が抜けて表面がかさついた
- 革の毛穴が目立つようになった
- 色が濃くなって鮮やかさがなくなった(ヌメ革の経年変化そのもの)
散々な結果ですね。
これが大切なお財布や靴だったらショックです。
どうしてこうなってしまうのか深掘りしましょう。後半で正しい乾かし方についても触れます。
濡れた革を急に乾かすとどうなるか?
濡れた革を急に乾かすと、革が変形したり硬くなったりします。
革を急に乾かすと変形したり硬くなったりするのはどうして?
急に乾かすとどうして硬くなったり変形するの?
硬くなる理由は、乾燥させることで繊維がギュッと凝縮するからです。
変形する理由は、革の部分部分で繊維の質がちがうことにより、革がギュッと凝縮する具合にムラが出るからです。
(ⅰ)乾燥による変形と硬化
湿潤革を乾燥すると革の変形と硬化がおこる。
変形がおこる原因は、乾燥によりフィブリル間に凝集力が働いて組織が収縮(革の硬化の原因でもある)する傾向があることと、組織部位によりこの収縮度合いが異なるためである。
引用元 皮革ハンドブック
時間をかけて熱を使わずに乾かすことで、変形や硬化を防ぐことができます。
革は高温に弱い
革は高温に弱い素材です。
具体的に高温を加えるとどうなるかというと、よくない現象は主に二つ。
- 熱で革が収縮する
- 革内部の油分が流出、揮発する
高温が加わると革は収縮する
縮むとその分革は硬くなり、ひび割れの原因にもなります。
高温が加わると革の油分が流出し、揮発する
先ほどの動画でも、熱風をあてた革の表面がテカっていたのを確認していただけたと思いますが、これが革表面に出てきた油です。
しばらく置くと油分が革内部に戻りますが、揮発した分は返ってきません。
革の油分が抜けると硬化の原因になり、ひび割れを引き起こします。
革の耐熱温度は?
革って何℃くらいまで耐えられる?
一概には言えないですが、60℃くらいからキケンだと思った方が無難です。
皮革ハンドブックには、成牛革の耐熱温度(熱収縮温度)は65~67℃と書いてありますが、実際の耐熱温度はなめしの種類や仕上げなどによって変わります。
日本皮革技術協会HPによる以下の通り。
植物タンニン革は70~89℃、ホルムアルデヒド鞣し革は63~73℃、油鞣し革は50~65℃、これらの耐熱温度は湿潤状態で測定されたものであり、乾熱状態では耐熱度は高くなる。
引用元 革の一般的な性質 | 皮革の知識 | 日本皮革技術協会
なお、革の油分も気温が高ければ高いほど抜けやすくなり、真夏は揮発するスピードが上がっているように感じます。汗のリスクもありますし、夏場は余計にお手入れに気を使う必要があります。
関連記事 革の腕時計ベルトの汗抜きとお手入れ方法|匂い予防にも
タンナー(製革業者)では熱風乾燥が行われている?
私が過去に見学した栃木レザー株式会社と山口産業株式会社では見ることができませんでしたが、なめし(製革)の場面では一部熱風乾燥も行われています。
あくまでもこれは革のスペシャリストだからできることであり、タンナーがやっているからといって、素人が同じことをしようとすると失敗します。
また、熱で乾燥する場合であっても、多くは濡れた状態では熱を使わない脱水処理を行い、仕上げに熱風による乾燥を行っているようです。
参考文献 皮革ハンドブック
⇧の写真は出来上がったヌメ革を吊るして干しているところ。熱は使わず、扇風機の風で革を干しています。
濡れた革製品の正しい乾かし方は?
まず中身を全部出し、タオルや厚手のキッチンペーパーで水気を取ってください。
干す場所は、風通しのいい日かげを選んでください。扇風機やサーキュレーターは使ってOK。
乾いたらクリームを塗り、失った油分を補ってあげましょう。
もっと詳しくは、濡れた革財布の手入れ方法|保存版をご覧ください。
ドライヤーで乾かした革はこんな風に割れる
割れる割れるって言うけど、本当にそんなに簡単に割れるものなの?
とても簡単に割れます。
「ドライヤーで革を乾かすのって何がいけないの?」
— dete® (@mkgx81) June 21, 2021
と思うかもしれないのでやってみました。
急激に乾かしたの革はこんなふうに簡単に割れます。
カチカチなのにひどく脆いです。
ドライヤーをあてていない方のこの革は、手で曲げたくらいでは割れません。 pic.twitter.com/oLsdpAZnod
写真でみると…
同じ革のすぐ近くの部分だったとは思えない変わりようですね。
割れるのは乳頭層だけでした
個人的におもしろなと思ったのが、割れているのはほぼほぼ銀面層(乳頭層)だけで、床(とこ)と呼ばれる肉面層は割れていないということです。
先日ドライヤーで焼いたひび割れ革の銀面を手で剥いてみました。
— dete® (@mkgx81) June 27, 2021
例えるなら栗の皮ですね。
割れていたのは乳頭層(銀の層)だけで、網状層(床の層)はほぼ無傷でした。
銀なしのスエードや床面が割れた革って見たことないですがこういうことですね。
割れるのは銀面。 https://t.co/dw6kC67hNm pic.twitter.com/LnBnutjVnD
割れていたのは乳頭層という革の表面近くの層だけ。表層を取りのぞいたらほぼ無傷の網状層が現れました。
ちなみに乳頭層と網状層については次の牛革の断面図がわかりやすいです。
ちょっとでもドライヤーを使ったらダメ?
ドライヤー使っちゃった。おしまいだ
必ずしもそれだけでおしまいになるわけではないです。
ですが、どれくらいならダメージを受けるかの判断はむずかしいですので、これからは使わないようにしていただけたらと思います。
ドライヤーを使わなくても、保管状態や使用状況によっては革は割れやすくなります。
関連記事 経年劣化|某ブランドバッグのレザーハンドルがひび割れ|原因と予防策
他には、革をウォッシュ加工しようと思って、「炎天下の下に濡らした革を置いておいて失敗した経験」や、「軽い気持ちで革を煮たら同様の結果になった経験」があります。
どちらも曲げるだけでバキバキに割れました。
柔軟剤は硬化を防ぐのに使える?
ちょっと話は変わりますが、花王が発表したニュースリリース内で、木綿糸が硬くなるメカニズムについての研究発表がありました。
硬くなるメカニズムは、次のようなステップであると考えられました。
引用元 衣料用柔軟剤の効果発現メカニズムを解明 News Release 花王広報部
①濡れた木綿糸や木綿布が乾燥していく過程で、単繊維間に毛管力(メニスカス力)が働いて、単繊維間の距離が縮まる。
②木綿単繊維の表面は水分子と親和性が高いので、乾燥後も少量の水分子(結合水)が残り、単繊維間で結合水を介した水素結合ネットワークが形成される。
革も繊維の集合体でしょ?
柔軟剤使ったら硬くならないんじゃね?
実験してみましょう。
実験:柔軟剤を染み込ませた革と濡らしただけの革。硬さにちがいは?
結論をいうと、結果は同じ。どっちも硬い。
正確にいうと、差の検証をしようがないくらいに、熱風で乾かした革は硬くなってしまいました。
繊維の硬化に関する花王の研究発表を読んで、柔軟剤が革の熱風乾燥時の硬化を防ぐ効果があったりして?と思ってやってみました。
— dete® (@mkgx81) June 21, 2021
結果は、革の硬化は柔軟剤で太刀打ちできるレベルではなく、効果は感じられませんでした。
革表面のテカリは革の油です。油が出てしまうことも硬化の要因の一つです。 pic.twitter.com/3leOwP56gn
実験内容はこうでした
一応実験内容を書いておきます。
同じ革から二枚のパーツを切り出し、
一枚は柔軟剤(花王のふわり:廃盤)を溶かした水、もう一枚はただの水に浸し、
気泡がほぼほぼ出なくなるまでしみ込ませました。
これを、業務用のハイパワーのヘアドライヤーで乾かしました。
結果がこちら☟
同じようにどちらも硬いです。何なら、柔軟剤を使った方が硬い?いや、それすらわからないくらい両方カチカチです。
まとめ
ドライヤーで濡れた革を乾かしてはいけない理由、ドライヤーを使うと革にどんな影響があるのか?について書きました。
ドライヤーで革を乾かすといけない理由は以下の通りです。
- 濡れた革を急に乾かすと悪影響があるから
- 革は高温に弱いから
急に乾かすと何が起こるかというと、
- 硬くなる理由…乾燥させることで繊維がギュッと凝縮するから
- 変形する理由…繊維の質がちがうことにより、革がギュッと凝縮する具合にムラが出るから
高温が加わると革がどうなるかというと、
- 熱で革が収縮する
- 革内部の油分が流出、揮発し、ひび割れが起きやすくなる
といった影響があります。
そうならないため、革を濡らしてしまった時は、中身を出し、水気を取り、風通しの良いところで陰干ししてください。乾いたらクリームを塗って革を保護することも忘れないでください。
詳しくは、濡れた革財布の手入れ方法|保存版をご覧ください。
この記事は以上です。長文お付き合いいただきありがとうございました。
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