床革って何?ゆかかわ?とこがわ?
買ったバッグがすぐ壊れた。品質表示を見たら床革って書いてあったけど、革とちがうの?
床革製品を販売するのは悪いこと?
こんな疑問に革職人がこたえてみます。
革製品好きなお客様にも、革製品をつくる方にも、販売する立場の方にも興味を持ってもらえる内容かと思います。
床革とは?革を割いた肉側が床革です
まず、床革とは何か?
床革は表革の残り物
床革(とこがわ)とは?
厚み調節のため1枚の革を2枚に割いたときの肉側の層のこと。床革は表裏両面がボソボソした状態。
スプリットレザーともいう。
革製品の芯や試作などに利用される他、細かくくだいて樹脂で固めたリサイクルレザーに再生され、建築資材などにも使われる。
床革のつくり方
⇩
ここで残ったもう一枚の表面側は「革」、「銀付き革」、「フルグレインレザー」などといい、普通のツルツルの革がこれです。
この革のツルツルの表面は「銀面」、裏面(肉側)は、「床面」や「肉面」といいます。
床革と革のちがい
銀面があるのが革。ないのが床革です。
※床革の表面に加工して、銀付き革のように見せた床革もあります。
床革は、両面がボソボソで、スエードのような見た目になります。
表面処理がされていないため、そのままだと汚れやすく、非常に水に弱い状態です。
スエード/ヌバック/コードバンは床革?
スエード/ヌバック/コードバンは床革ではありません。
革には「ヌバック」「エナメル」のように、銀面層の上部の一部を削った革や、「スエード」のように、真皮層を割り加工をしてから裏面を使用する革、また、「コードバン」のように、馬の臀部の革の銀面層の上部と網状層の下部をそれぞれ削った革などがあります。
引用元 鞄・ハンドバッグ・小物 原産国・素材表示テキスト
いずれも銀面層が残っている「銀付革」であり、「床革」ではありません。
あらかじめ漉いた残りの肉側をなめした革は、床革には分類されないということです。
ただ、上記の引用内容によると銀面層が残っているから床革でないとありますが、スエードやベロアには銀面層が付いていないものもあり、そのあたりはグレーではあります。
広く使われる床革製品
床革製品は普通にでまわっています。
ファッションよりのバッグや財布については粗悪な商品が多いので自重します笑
床革の手袋
画像引用元 proues牛床革手袋
床革の値段の安さをいかして作業用の手袋に利用するのはいいアイディアですね。
職人用ツールバッグ
画像引用元 B-STAFF 白革仕様 仮枠釘袋
床革はクラフトで重宝される
床革は、中上級者のレザークラフトでは重宝され、販売されています。
用途は、試作品を作るのに使ったり、革製品の厚みや強度の調整のために芯として使ったりなど。
床革の性質|脆くボソボソとした質感
銀付きの革とはちがった性質があります。
先に特徴をまとめます。
- 強度が低くもろい
- 吸水性がとても高い
- 繊維が粗く、しなやかさがない
まるでコルクのような構造
この写真は床革ではなく銀付きの革の断面図です。
革は、繊維が密な「「乳頭層」と、繊維が粗くからみ合った「網状層」とでできていて、床革というのは網状層だけの状態。
コルクのように粗い繊維のあつまりで、割れるときもコルクのように一気にメリメリと割れることがあります。
これは銀付きの革ではよほど状態が悪くない限りはないことです。
肉側に近ければ近いほど繊維が粗くなる
写真からわかるように、床面(肉側)の方が繊維がゆるく粗い構造になります。
これが床革が弱いと言われるゆえんです。
厚みや層で性質が変わる
一口に床革と言っても厚みはさまざま。
例) 元厚3.5mmを1.5mmに漉いた場合、残る床革は2.0mm
さらにいうと、同じ厚みの床革でも、どの層からとった床革かで、性質が変わり、丈夫さもちがいます。
例)厚さ5mmの革2枚を1.5mmに漉き、残った3.5mm厚の床革から2mm厚の床革を作るとします。
A:3.5mm厚床革の表側を残して2mmに漉いた床革
B:3.5mm厚床革の裏側を残して2mmに漉いた床革
A,Bともに2mm厚の床革ですが、繊維の密度がちがうため、引き裂きへの耐性も、摩擦への耐性もまるでちがいます(Aの方が強い)。
弾力と硬さとひっぱり強度比較
約3.5mmの革をすこしずつ削いで、複数の床革を作りました。
左から、
- 0mm(銀面)~約0.4mm
- 0.4mm~約0.7mm
- 0.7mm~約1.1mm
- 1.4mm~約1.8mm
- 2.3mm~約2.7mm
- 3.1mm~約3.5mm
動画内ではそれぞれの強さと性質を比較しています。
テストに使った革は、伊藤登商店さんのクラシコというピット槽なめしの栃木レザーヌメ革。
部位はベンズの一番いいところです。
関連記事 【図解】牛革の部位ごとの特徴|質が良い部位、シボがでやすい部位
0.4mm厚の床革は、手で引っ張ると簡単に切れました。
0.4mm厚の銀付き革は、手で引っ張って切ることはできませんでした。
革屋さんに言わせると、銀面(乳頭層)と床面(網状層)のさかい目(成牛革なら0.7mm付近)が一番つよいということです。
ですが、革製品を10年作ってきた私の経験では、〈革は銀面に近ければ近いほどつよい〉と感じます。
豚の床革は上質素材?
豚革は床革も良質だと言われています。その理由は、牛革や山羊革などとちがって、肉に近い床面側も乳頭層(良い部分)でできているから。
革製品の表部分に使うのはちょっとむずかしいかもしれませんが、芯材としてはかなり優秀です。
くわしくは、豚革(ピッグスキン)はどんな革?特徴、構造、種類をわかりやすく解説をご覧ください。
床革を手に入れる方法(買い方・もらい方)
床革の入手方法について。
無料でもらう方法
革を漉き加工して薄く加工してもらうと、頼んでなくても付けてくれる場合もあります。
お店によりますが、
「床革をつけてください。」
と頼んでおくと付けてくれると思います。
漉いた残りがこの床革なので、厚みにばらつきがあるのがデメリット。
買えるお店
革を扱っているお店なら販売しているところが多いです。
あらかじめ定めた厚みの床革を用意してくれているお店もあり、芯材には使いやすいと思います。
ご覧のとおり、普通の革とはまったく別の性質を持った素材ですので、非常に安いです。
床革製品は粗悪品?トラブルになるケースも。
床革製品をふつうの革製品だと思って購入してトラブルに見舞われることがあります。
床革製品のトラブル事例
「本牛革」と表示されていた部分の材料の断面を観察したところ、表面に見える層がウレタン樹脂の層で、その下に牛の床革がある構造となっていました
引用元 国民生活センター - 紛らわしい表示のかばん
これ、けっこう闇が深くて、悪意を感じる床革製品は、確かに世の中にふつうに出回っています。
さすがにハイブランドとかでは使わないと思いますが、みんなが知ってるレベルのブランドではふつうにやってたりします。
20代~40代女性をターゲットにしたあのバッグブランドとか・・・
見分ける方法はありますか?
型押し+塗装がされているとプロでもむずかしいです。信頼できるブランド、ショップの製品を買いましょう。
床革製品には「床革」の品質表示を
表革を60%以上使っていない製品の原材料(床革ふくむ)を革と表記すると、雑貨工業品品質表示規程に反します。
— dete (@mkgx81) January 22, 2021
なお、割り加工した際にできた床面を加工したものは床革とはしないという解釈もあります。
例)銀無しのスエードやヌバック、コードバンなどは床革とは言わない
家庭用品品質表示法『雑貨工業品品質表示規程』において、「かばん」で対象となる商
引用元 鞄・ハンドバッグ・小物 原産国・素材表示テキスト
品は「床革※」と表記することが明記されています。
床革を使った製品には、きちんと「床革」と書きましょう。
参考ページ 消費者庁-雑貨工業品品質表示規程(十八 かばん)
「書けばいい」では済まされない
床革使用と書けばOKと考えてしまうと、ブランドは信頼を失いますよ。
床革と書いてあれば法律には違反しないけど、書いたところでみんな意味を理解してないし、そもそもそんな表記を読まない!だから後々問題になる。
最近は趣味のハンドメイド品を販売する方が多いですが、床革の性質を理解していない作家さんもいるようで、知らずにこわれやすい製品を送り出してしまっていることも事実。
以前、某有名おしゃれ書店で、わりと名の通ったレザーブランドの床革製品を見つけました。
「あーやってんなー。」と、何とも言えない気持ちになりましたよ。
なお、床革の表記はありませんでした。
信頼できるブランドとお店で買いましょう。
床革は全部粗悪品?
さて、ここまで床革製品に関する注意喚起をしてきましたが、じゃあ、
これはNO。具体的に解説します。
床革=悪 の考え方がもたらす弊害
床革を使うことが全部ダメと考えてしまうと、デザインやアイディアが制限されてしまいかねない。
強度を考えて上手に使えば十分製品になり得ます。
もちろん、「従来の革製品の形」そのままに床革で作ると長持ちさせるのはむずかしいです。
従来の革製品の形 例)
「札入れと小銭入れとカード入れが付いた二つ折りの財布」
「袋状に縫い合わせた本体の上に口が空いていて、その口を挟むように両端にハンドルがついたバッグ」
など。
いわゆる普通の革の財布やバッグのことです。
これらに床革をそのまま使ったらキケン。
そこで思うのは、
だったら床革でも問題なく使えるような構造にすればいいんじゃ?
ということ。
※本革ではないということはハッキリわかりやすく明記する必要はあります。
床革でもいけそうなアイディア
今パッと思いつく限りですが、こういうもの☟なら床革で作っても10年、20年と余裕で使えそう。
- トレイやペン立てのようなインテリアや置き物
- 裏地に銀付き革を裏打ちする(製法の話)
- 床材(ゆかざい)
持ったり動かしたりせず、力がかからない雑貨なら全く問題ないでしょう。
裏地に銀付き革を裏打ちすれば、強度的には普通の厚みがある一枚革に近くなるはず。
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床革(とこがわ)を床(ゆか)にするのはありかもしれません。↓こちらは銀付き革を使ったシャレた床。
膨大な量の革を使っています。
— デテログ (dete®の人) (@mkgx81) October 29, 2020
革はもとから濃い茶色だったそうです。薄く仕上げがかかった染料染めのタンニンなめし革ですね。素上げではさすがに靴下を汚しかねないのでいい塩梅です。
よく手入れされた中庭とか、イチョウの釘隠しとか、調度品から、隅から隅までの楽しめます。 pic.twitter.com/HELEKwQWAk
床革をほめます。床革を使うメリット
床革のはらんでいる問題点を挙げましたが、実は床革にもいいところはあります。
- サスティナブル
- 利益率が高い
- 素材としてのポテンシャルの高さ
床革はサスティナブルな素材
そもそも革が肉の廃棄物をリサイクルした素材でエコなのですが、その革の廃棄物である床革を活用できれば、それこそサスティナビリティは高まる。
床革の利用法
現在の床革の利用はごく一部に限られています。
- バッグや靴などの芯材
- クラフト用
- 粉砕されて別の芯材や安価なリサイクルレザーに化ける
これらは一部で、実態は多くがゴミになっています。
なんとかできればと思う。
その他の床革の活用事例
下に引用した革漉き屋さんは床革の利用方法を研究されているそう。
当社では、やはり革漉きはメイン業務なのでその副産物の床革は多く出ます。
自然の贈り物である以上、いつも有効活用を考えます。
顔料にて染め、防水加工します。
引用元 床革の利用について。 | 松本皮革有限会社 |
写真はまだこれからの段階ですが、何回か染めたあと、表面をアイロンがけしたり、型押しをして革に表情をつけたりします。
この部分は重量があまりかからない為、破れ変形はありません。
次は建築事務所の利用例↓
今回、曲げ合板にこの床革を張り込み、ショールーム入口正面に 荒々しい床革で、曲面壁のうねりを作り出すことにしました。
引用元 床革(とこがわ)再び – Column | 桑原聡建築研究所 – Satoshi Kuwahara Architectural Studio
床革の表面は、より自然感が出るように、マットでしっとりした風合いを出すために蜜蝋で仕上げてみます。
床革製品が革同様に売り場にならぶ時代が来る?
いずれ、否応なく床革を使わなくてはいけなくなる時代が来るかもしれません。
デテログは、将来的な革の供給量は今よりもグッと少なくなり、高価になるものと考えています。
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そうなった時、革は全て高級品、安価な商品は全て床革という二極化が進んだ時代がくることも、可能性として否定できないのではないでしょうか。
その為の準備や保険の意味で、床革利用の研究をすることは大変有意義なことです。
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素材としてのポテンシャルを感じる
個人的に、床革っておもしろい素材だと思っています。
- ナチュラルな風合い
- 層(深さ)で表情がまるで変わる
- ニベ革の個性が爆発している件
- いい革のいい部位(ベンズとか)で分厚い床革なら普通にいい(割れには注意)
ポテンシャルが高いと書きましたが、まだ発掘されていない魅力がたくさん隠れていると思うんです。
なぜなら、メーカーや作り手は、ほとんど昔からの慣習で床革=廃棄物と考えてしまっているから。
ちょっとした発想の転換で何かが変わるかもしれません。
昔、分厚い床革でじぶん用のベストを作ってめちゃめちゃ気に入っていたのですが、写真も実物も手元にない・・・。
ニベ革がおもしろい
ニベ革とは?
肉面と真皮層(革になる層)のキワキワの部分を整えないで活用した革。
床革の一種。
わしゃわしゃとした繊維が特徴で、スエードともちがうラフさが魅力。
レザーブランドよりもアパレルやシューズ業界で人気。
今は使っていませんが、私自身も魅了された経験があります。
画像引用元 エンダースキーマ – CODE TIP SHAGGY-楽天市場
画像引用元 RGUEIL Postman Shoes
ニベ革はやっぱりいいですね。
主に、裏(肉側)を外にして使うので、割れのリスクは低いです。
ただ、汚れやホコリはめっちゃ巻き込むし、クリーニングもむずかしい。
性質をよく理解して使う必要はあります。
利益率が高い
革の業界では、床革は廃棄物としてあつかわれています。
芯材として必要に駆られて買うことはありますが、この時の価格はほぼほぼゼロで、送料に毛を生やしたようなものです。
革屋さんとしては、コストかけて処分するよりはマシくらいの感覚かと。
もちろん、革と同じように使うには加工が必要ですから、タダ同然のままでというわけにはいきません。
それでも本革よりはグッと安く上がります。
良い製品に仕上げられれば(ココ大事)高い利益が見込めるでしょう。
まとめと床革を使うことについて思うこと
革と床革のちがい、床革の良いところと注意について書きました。
床革というのは、革の厚み調整をした残りで、メーカーからしたら廃棄物としてとらえられています。
そのまま一般的なサイフやバッグに使うのは強度の問題でむずかしいですが、適切な加工をし、負荷がかからない構造にするなどの工夫をすることで、製品としての可能性は十分にある素材だと思います。
床革について思うこと
床革を使って自分のためにハンドメイドすること、床革を使って実用に耐えうる製品を販売すること、これらは何の問題もないことで、むしろ積極的な取り組みを推していきたいです。
理由は3つ。
- サスティナブルな素材だから
- 利益率が高くなる見込みがあるから
- 素材としての可能性を感じるから
革そのものがすでにリサイクル品な上に、床革は本来廃棄されるもの。それを再利用できるなら環境にもやさしいといえるでしょう。
床革製品でお客様も作り手もみんながHappyになれたら最高です。
その一方で、床革であることを隠したり、表記はしていても革であるかのような見え方や名称(〇〇レザー製など)で販売することは、ほめられたことではありません。
それらの(床革では耐えられない構造の)商品がすぐに壊れてしまうことを知っている我々にはできることがあるはず。
☟
みんなで悪口を言い合う?
☟
ちがう。
☟
粗悪品を販売するメーカーに文句を言う?
☟
これもちがう。
一番建設的なのは、床革についての理解を広める情報発信をすることじゃないでしょうか?
専門家は床革のことを知っていますが、一般消費者は床革が何かを知らない。
当然です。
自分にとっての当たり前は、他人にとっても当たり前ではありません。
革包丁を販売している〇〇さんに聞いた話。
— dete (@mkgx81) January 19, 2021
海外の顧客から、
「〇〇の包丁は最初は切れるけどそのうち切れなくなった」と言われたと。
砥がないと切れなくなるって知らなかったらしい。
・自分にとっての当たり前は他人にとって当たり前ではない。
・事前に防げるクレームもある。
・発信は大切
床革の性質、良いところ、悪いところ、革や床革がどうやって作られているのか。
広げましょう。
今後も革についての発信をバリバリ続けていきます。
この記事は以上です。他にも革についてあれやこれや書いています。
コメント
どうも、床革過小評価される割にいい物はとことんいいですよね
いい奴は水やパラフィン、カタメールやオイルなんかを入れて、グレージングするとすごい独特な風合いのやつになるし
ふざけてめちゃくちゃなやつを積革して作ったり(前にジェンガ作って摩擦と絡みがが強すぎて、一体化したったからそのまま削り出しで遊んだ)
あとは染色サンプル的にもなるし、めちゃくちゃ安いからバカなことにも使えるぅ……
豚や羊、山羊のは元々スエードみたいなやつがあるし、牛より単純に詰まってて強靭だったりで尚やっすいからベルベット感で椅子が高級に!
あとは柔らかかったらしっかりだったりで当然衣料用や枕、シーツ、布団にレジャーシートなんかにも……
安いことを活かして馬鹿みたいに量使うのよくないですか?
床革は革とはちがった楽しみがある素材だと思います。
製品にするためには課題は多いのですが、趣味で遊ぶならぴったりの素材ですね。
価値が見直されていろいろな使い方を見つけてもらえたらうれしいです。