革製品を作るとき、革の伸びには非常に気を使います。
例をあげると、腕時計のバンド。
着脱時は引っぱって尾錠金具にバンドを通すので、伸び止めや補強がされていないとすぐに革が伸びてだらしなくなってしまいます。
そうならない為に、職人は、表からは見えない内部に伸び止めの加工を施します。
この記事では、革の伸び止めにスポットをあてて、革職人の仕事の一部を紹介したいと思います。
-
伸び止めにはどんな素材が使われているのか?
- どんな技術で作られているのか?
革の伸び止めに使える素材一覧

- 補強テープ/ナイロン生地
- 帆布
- 力革(ちからがわ)
- 革(裏打ち)
- 革(芯)
- その他芯材
職人は各々工夫して自分だけの方法を編みだしていることが多々あるので、これ以外にもいろいろ方法はあると思います。
なお、伸び止めをする場合はもれなく裏地が必要になると思ってもらった方がいいです。
裏地についてはこちら☟で詳しく解説しています。
補強テープ/ナイロン生地

もっともメジャーな方法の一つ。
革とナイロン両方のメリットとデメリットがマッチした合理的な組み合わせでもあります。
- 革は、伸びやすいが摩擦に強い
- ナイロン布は、摩擦に弱いが薄くても伸びにくい
革の内側にナイロンを貼ることで、革の弱点を補って丈夫にすることができる。
補強テープ(セラフィーニテープ)の使い方については、☟こちらの記事をご覧ください。
補強テープを使うのが一般的ですが、薄いナイロン布を切って使っても同様の効果が得られます。
この場合、布の目に逆らって切らないように注意しましょう。
布目にはたて地とよこ地があります。布地の種類によって、伸び方に多少の差はありますが、基本的に伸びないほうがたて地、伸びるほうがよこ地です。
引用元 布目の見方と正しく直す方法
腕時計バンドの補強用にするなら、☝のイラストのたて地に沿って切るのがベストです。
帆布

帆布(キャンパス地)も昔からよく使われます。
帆布は丈夫で伸びにくい上化学的な劣化も起きにくいのがメリットですが、ナイロンに比べると厚みがあり、段差や凸凹が外の革に影響する恐れがあるというデメリットもあります。
見方を変えれば、表に影響しないように使えばとても有効な方法です。
某ブランドのボックスカーフの手帳を分解したところ、バインダー金具の裏当てに帆布が使われていました。
とてもアナログな仕事がされていることに驚いたのをよく覚えています。
力革(ちからがわ)


力布の革版です。
縫い糸は切れても布が大丈夫なように、布に極端に負荷のかからないような工夫をすることが必要です。
そのいい例が「力布(ちからぬの)」や「力(ちから)ボタン」です。シャツの衿先のボタン裏やコートやジャケットなどのボタンで、力がかかる場所についています。
引用元 つくりら
布ではなく革を貼る理由は、革の厚みや硬さを利用し、伸び止め効果だけでなく張りを持たせる効果が得られるから。
伸び止めだけでいいなら、補強テープやナイロン布を貼ってその上を縫えば十分です。
伸び止めと同時に張りを持たせたい場合は力革が有効
革(裏打ち)

革の裏に別素材をベタ貼りして補強するのが裏打ち。
補強効果があり、組み合わせの仕方でやわらかさを保つことも硬くすることもできる万能な方法。
補強テープや力革もある意味裏打ちと言えないこともないですが、ここでいう裏打ちは、
です。力革の全体版ですね。
製作工程の話をすると、裏打ちの場合、貼った後に正確に裁断する場合もあります。
補強した革を、「あたかも元からそういう一枚革だったかのように扱うイメージ」なのですが、このイメージ伝わりますでしょうか?
対して、補強の場合は部分的に貼ります。
裏打ちについては、
裏打ちをマスターするだけでレザークラフトの腕が上達する本当の話
で詳しく解説しています。
硬くもでき、柔らかさを保つこともできる万能な方法。
別素材に作り変えるようなイメージ。
革(芯)

どちらかといえば、張りを持たせる補強や立体感を出す装飾的な意味合いが強いですが、伸び止めの効果もあります。
一般的には床革という革の廃材が使われることが多いですが、それだと繊維構造的に弱く、芯を入れずに厚い革を使うのと大差がない。
関連記事 革と床革のちがい|床革の可能性と注意喚起
deteでは、床革ではなく表にも使うグレードの革を芯に使っています。
コストはかかりますが品質的には最高です。
立体的な装飾性を持たせることもできる方法。
芯に使う革で仕上がりに差が出る。
あえて厚みがある芯を使ってぷっくりと膨らませる技法とその作り方については以下の記事をどうぞ。

その他芯材

革の芯を入れる時と同じように、どんな芯を使うかで仕上がりも得られる効果もまるで違います。
例えば、「伸び止めの効果を持たせたいかつ頻繁に曲げることがない」なら、ボンテックスなどのような伸びない芯を使います。
「曲げ伸ばしするパーツだから補強しつつしなやかさも残したい」なら、レザーボード系の芯材(ロザーフレックスなど)、合皮系(スライサー)など。
芯材も布と同じように目のようなものがあり、きれいに曲がる向きと曲がりにくく折れてしまう向きがあるので注意が必要です。
素材によって仕上がりはまるで違うので、用途によって適切な素材を選ぶ必要がある。
生地の目に注意が必要。
伸び止めってむずかしい?
芯材を貼るような作業になると技術や知識がいりますが、補強テープを貼るだけなら特殊なテクニックはいりません。
セラフィーニテープ(革補強用テープ)の貼り方と使い方のコツを読んで、気軽にトライしてみてください。

今まで革の補強について考えたことが無かった
という方は、革と、革の裏に布や紙をてきとうに貼ったものを用意し、それぞれを引っ張って比べてみてください。
伸び方が全く違うのがわかると思います。
※この時、革は近い部分を使って同じ向きにカットしてください。
このテストピースをもっときれいにするにはどうすればいいか?もっと丈夫にすればどうすればいいか?
そんな小さなトライアルアンドエラーの積み重ねで革製品は出来上がっています。
まとめ
革の伸び止めに使える素材について書きました。
主なものは以下の通り。
- 補強テープ/ナイロン生地
- 帆布
- 力革(ちからがわ)
- 革(裏打ち)
- 革(芯)
- その他芯材
伸びてしまうと一気に安っぽくなってしまうので、補強をきちんとすることで高級感を長持ちさせることができます。
特殊な技術が必要というとそうでもなく、ひと手間を惜しまないかどうかなので、ぜひ一度トライしてみてください。
関連記事



- レザークラフトにはどんな補強材料があるのか?
- 丈夫に作るテクニックは何があるのか?
お話ししていきます。
コメント