某ブランドの手帳カバーのお古をいただきました。
分解して、中がどうなっているのか覗いてみようと思います。
某ブランドの手帳カバーを分解してみた
素材、構造、細部の順に見ていきましょう。
素材:クロムなめしのカーフ
素材はカーフ(子牛革)です。
裏面はクロムなめし革独特の青みがかったグレー。
芯通し(革の内面まで染める染色方法)ではなく、表面だけを染める「丘染め」のような塗装がなされています。
つくり:シンプルな構造
これが全パーツです。
表革の裏に同じ革で裏地が付き、左右にポケットが一つずつ。
ポケット
ポケットのうち一つには切り込みが入り、リフィルなどを挟み込めるようになっています。
ポケットパーツの裏地はついておらず、口元のみヘリ返してネンを入れてあります。
ポケットパーツの周囲に漉きは入っていません。
コバ
コバにはネンが入り、切り目(塗り、もしくは磨いて仕上げるコバ仕上げ方法)で仕立てられています。
塗料は革の色と近いものが塗られています。
裏地の加工
本体、裏地、ポケットが重なる部分のコバは、本体とポケットだけを貼り合わせています。つまり、裏地はコバまで来ていない。
この部分だけ小さく作られており、コバに露出しない構造です。
露出しない裏地のコバは、急角度でゼロ漉き(厚みがゼロに近づくところまでナナメに削いで厚みを削る製法)を施して段差が出にくく加工されています。
この部分は手漉きです。
外周のステッチがギリギリあたるくらいのサイズに調整されているので、裏地のポケット部分は浮いているわけではなく、ゆるく固定されていることになります。
このサイズはよく考えられていると思います。
レザークラフトにおける裏地の考え方や選び方については☟こちらで書いています。
芯材
バインダー金具を取り付ける位置の補強には帆布が使われています。
素材はおそらくコットンです。
コットンの布は、目の向きを間違えなければ(斜めに使わない)伸縮しにくいので、補強が必要な部分の伸び止めに最適です。
注意点として、その他の芯材と同じく、ただ貼るだけではいずれ剥がれてしまいます。貼った上で縫製をかけるのが◎。
伸び止めについて詳しくはこちらをご覧ください。
ステッチ
革の色と近いピンクの麻糸でミシンがけされています。
麻糸を使ったミシン縫いはこのブランドの特徴ですね。
それも、一般的な革小物と比べるとかなり太目。
こういった細部にあえて手作り感を残すあたりも強いこだわりのあらわれなのでしょう。
麻糸やポリエステル、ナイロンなどいろいろな素材から選べるミシン縫いに対し、ミシン縫いの革製品の多くはポリエステル糸が使われています。
その一番大きな理由は扱いやすさにあると思います。
ポリエステルは細くても強く、品質が安定している。
対して麻糸は、ナチュラルな風合いで革との相性が良いが、擦れに弱く、長く使っていると毛羽立ちや糸切れが起こることも。
一長一短ある為、どちらを選ぶのかはデザイナーの意図するところによります。
おわりに
某ブランド手帳を分解して解説しました。
私の感想としては、思いのほかシンプルで簡素な造りだったなと思いました。
バインダー部分以外で芯を使っていないので、製品の硬さやコシは革頼み。なので、厳密にいえば個体による差も出ます。
それが革製品の特長なので当然といえば当然ですが、ハイブランドの製品ではもう少し個体差を無くす作りをしている物かと思っていました。
革へのこだわりをアピールしているブランドだからこそ、クラフト感ある製品でありながら、顧客からの理解が得られているのかもしれません。
他に気になったところは、バインダー周りの帆布の使い方。補強用に付けているものなのですが、素材がナイロンでも革でもなく帆布。
帆布は昔から伸び止めによく使われている素材ですが、このブランドの手帳で使われているとは思わなかったのでとても意外でした。
ちなみに、今回紹介した写真は、実は何年か前に撮ったもので、実物はもう手元にありません。
もう少し多く写真を撮っておけばよかったなと少し後悔しています。
写真が少なく、少し物足りない情報になってしまったかもしれませんが、どこかの誰かにお役に立てていただけていたら幸いです。
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