ブライドルレザーってよく聞くけどどんな革?
白い粉が無くなっちゃったんだけど?
ブライドルレザーの財布はどこで買える?
などについてお話します。
結論から書くとブライドルレザーは次のような革です。
ロウと油脂がたっぷりしみこんだイギリス伝統製法の革。馬具用として作られた歴史があり、丈夫で長持ちする。色変化は少なく、使うほど出るツヤが楽しめる。
記事内で特徴やメーカーやお手入れ方法について掘り下げています。一緒に学びましょう。
ブライドルレザーはガッチリ重厚感があるイギリス伝統の牛革
画像出典 楽天市場
ブライドルレザーは次の特徴がある革です。
ブライドルレザーはタンニンなめしの牛革
- Qブライドルレザーは何の革?
- A
ブライドルレザーは基本的に牛革です。
伝統にならった製法では、ピット槽というプールを満たしたタンニン(渋)液に牛の皮を漬けこんで鞣し、ロウやワックスをじっくり染み込ませて作るのがブライドルレザー。
馬具に使われる革だから馬革と混同されやすいけど、ブライドルレザーは牛革だよ。
鞣しやタンニンについてくわしく知りたい方は、関連記事の革と皮は別物です|プロが解説する革の総まとめや、タンニンなめし革とクロムなめし革のちがいをご覧ください。
ブライドルレザーの白いブルームは油脂とロウ
ブライドルレザーといったらこの白いやつ
こんなイメージを持つ方は少なくないはず。この白い物体の正体は、革にふくまれた油脂とロウが混じった物質です。
気温や湿度などの条件により、革にふくまれた脂肪分が表面に浮き出て白く見えます。
カビじゃないので安心してね。
ちなみに、このブルームは使っているうちに落ちてなくなります。
そして、条件によってはさらに出てくる場合があります。
ついているのが新品の証とされることもあるけれど、新品でも革の状態によってはついていないこともあるし、不良でもなんでもないよ。
ブルームが落ちて現れるツヤがブライドルレザーの醍醐味だよ。軽くふき取ってから使ってもOK。
ブルームは革の乾燥を防ぐ効果もあるから、全部ふき取ってしまわないようにしましょう。厚く載ってるところだけ落とすくらいのイメージでどうぞ。
ブライドルレザーに似て非なる革
雰囲気を出すために、表面だけにロウやワックスを塗ってブルームを出した革もあります。
一例として、テンペスティ社のシビラという革があります。
ブライドルレザーとちがい柔らかく軽い質感ですが、使っていてもブルームが落ちにくく、ゆっくりと経年変化が楽しめる良素材です。
また、ブライドルレザーほどではありませんが、まれに油分が白く結晶化してくる革もあります。アメリカのwickett&craig社のオイルラティーゴや、イタリアのTempesti(テンペスティ)社のエルバマットなどがそれです。
関連記事 イタリアンレザー『エルバマット』ってどんな革?特徴、品質、良くないところ
どちらの革も、内部までたっぷりと油脂を含んでいます。
「ブルームが浮いている=ブライドルレザー」じゃないんだね。
馬具用として古くからイギリスで作られてきた革
ブライドルレザーの”ブライドル(bridle)”は、頭絡という馬具の一種のこと。
馬や家畜に手綱を付けるための装具。
出典 Weblio辞書【ブライドル】(ぶらいどる)
馬の顔に取り付け、手綱の動きを先端の轡(くつわ)で伝えて操る。
各パーツに「ハミ」、「手綱」、「鼻革」など名称がついていますが、それの総称が頭絡(ブライドル)です。
ブライドルに使う革だからブライドルレザー。シンプル極まりないネーミングですね。
ブライダルレザーとまちがえてしまう方が多いので注意。
ブライドルレザーのタンナー(革製造業者)として有名な、J. & F.J. Baker(Jベイカー)社は、ローマ時代から同じ製法を貫いており、その歴史は2000年を超えると明言しています。
ブライドルレザーはイギリスで生まれた製法と言われています。近い製法の革はイギリス以外にも存在しますが、それらはブライドルレザーとは呼ばれていません。
ブライドルレザーは、イギリスらしい歴史と権威を感じられる革と言えるでしょう。
ブライドルレザーは硬くて強い
ブライドルレザーは、他の多くの革に比べて硬く、伸びに強い丈夫な革です。先に書いた通り、元々は馬具に使われていた革。
命を預ける道具ですから、それだけ丈夫なのは当然です。
厚みがあってこそ特長が生かされる革なのは置いておいて、薄く漉いて(厚みをけずる加工)もピンと張りがあるのがブライドルレザー。
紳士向け財布や書類鞄など、カチッとした造りに仕上げたいなら最高の革素材の一つと言えるでしょう。
薄く漉いてもとかいいながら、やっぱり分厚いブライドルレザーの迫力は別格なので、機会があればブライドルレザーを使った鞄やベルトなどを試していただけたら・・・
詳しくない方でも、触ればすごさがわかるはず(めっちゃ硬くていかつくて、でも品はあって、結局好みはわかれる)。
貼り合わせたブライドルレザーのコバを仕上げています。
— デテログ (dete®の人) (@mkgx81) July 28, 2022
鞄やベルト職人以外ではなかなか使わないかもしれませんが、2.5mmを超える原厚のブライドルレザーの迫力は圧巻。薄く漉いたものとはまるで違う凄みを感じます。
ブライドルが過小評価される時の要因の一つに漉き加工があると考えています。 pic.twitter.com/UVUnNUgPG0
水を吸いやすい革
ブライドルレザーは、ワックスとロウが水を弾いてくれるのにもかかわらず、実は水を吸いやすい革です。これはなぜかというと、多くのブライドルレザーは、ワックスやロウを浸透させるために銀面(革の表面)をけずっているから。
水に濡れると水ぶくれやシミの原因になるため、できるだけ濡らさないように使う必要があります。
くわしくは、ブライドルレザーを濡らした時の対処法&水ぶくれができたときの直し方をご覧ください。
濡れてしまったときはできるだけ早く、ポンポンと優しくたたくようにして水分を取りましょう。
できてしまった水ぶくれは、完全に元通りにするのはむずかしい。そうならないように気をつけよう。
なお、革は水に弱いと表現されることもありますが、濡れたからといって耐久性が落ちるわけではありません。濡れた後はきちんと乾かして油分を補えば、革質が著しく低下するようなことはないのでご安心を。
革が濡れた時のメンテナンス方法は、濡れた革財布の手入れ方法|保存版をご覧ください。
ブライドルレザーは色変化よりもツヤの経年変化を楽しむ革
ブライドルレザーの多くは暗い色の顔料が使われている(染料のみのブライドルレザーもある)ため、色変化は楽しめません。
ブライドルレザーってあんまり色変わらないんだね。
そうだね。銀面をけずってある上に塗装されているから、飴色に変化するヌメ革とはまったく別物と考えた方がいいかもしれないね。
その代わり、使えば使うほどツヤが増す経年変化を味わえます。
ツヤが増すと元の色が深みを増すように感じられ、一層味わい深くなります。
2年ほど使った状態のようです。
ちなみにこのお財布はキプリスというブランドの物。トーマスウェア社のブライドルレザーを使っています。⇩新品の状態
出典 楽天市場
鞄、ベルト、財布などに使われる
現代のブライドルレザーの主な用途は、紳士物の財布やベルト、ビジネスバッグなど。
硬さや丈夫さ、そして重厚感が欲しいアイテムに使われます。
逆に、柔らかさが欲しい製品には不向きな素材です。理由は、ブライドルレザーは馴染みにくく、キレイやシワやドレープが出ない素材だからです。
フルグレインブライドルレザーとは?
ブライドルレザーはいくつかの分け方ができますが、ここで注目したいのは表面の加工についてで、その観点でいうと2種類にわけられます。
フルグレインブライドルレザーは、フルグレインレザーという革の一種。
表面をけずらず、自然な風合いを残した革のこと。
次の写真は、2014年に製作した、ベイカー社製フルグレインブライドルレザーのベルトです。
8年後⇩。
ノーメンテだそうです。傷こそついていて感想もしているけど、革のコシも失われていません。
8年間の2/3の日数、朝から晩まで仕事で酷使されてこの状態という事実に驚きます。。
8年ほぼ毎日使った J&F J.Baker社(ベイカー社)のUKサドルを使った極厚ベルト。
— デテログ (dete®の人) (@mkgx81) April 1, 2021
ノーメンテだそうです。
メンテして欲しかったけど、それにしてもまだ使えてるって強すぎる。 pic.twitter.com/MoTQQzTfwx
ベイカー社のフルグレインブライドルレザーはガチで最強のレザー。
これに対し多くの一般的なブライドルレザーは、表面を削って取りのぞき、平坦にして仕上げています。
傷や毛穴を隠せるということは、きれいな革に仕上がる反面、見方を変えれば自然な風合いが損なわれるとも言えます。
フルグレインブライドルレザーは、革の一番良い部分を残した屈強な革ですが、見た目もワイルド。傷が多いため歩留まりも悪く、製品にすると値段は跳ね上がります。
一般的なブライドルレザーの品質が低いんじゃなくて、フルグレインブライドルレザーが超ド級ということ。普通のブライドルレザーも丈夫だし高級素材だよ。
ブライドルレザーの値段は?
ブライドルレザー素材の価格は、日本のヌメ革と比較すると1.5倍~2倍ほど。とても高価な素材だとわかりますね。
フルグレインブライドルレザーはさらに高価で、特に上質なベンズ(背中からお尻にかけて)部位は、日本のヌメ革の2倍~3倍超の値段。これは牛革の中では恐らく最高級(ラグジュアリーブランドが使う最高級ボックスカーフより高い)です。
価格が高くなる理由は、手間暇と時間がかかる製法だから。ブライドルレザー製品の値段が高い理由もご理解いただけるはずです。
黒だけじゃない|ブライドルレザーのカラーバリエーション
ブライドルレザーというと、黒や焦げ茶やネイビーなど、濃くて落ち着いた色をイメージする方が多いかもしれません。ですが、各社いろいろなカラーバリエーションを用意しています。
手元にある某タンナー3社のブライドルレザー色見本です。
もちろん、これらすべてが日本で流通しているとは限りません。また、メーカー別注でここにない色を作ってもらっていたりもするでしょう。
たとえば、こちらの楽天に出品しているお財布には、鮮やかな赤の商品があります。
出典 楽天市場
ブライドルレザーは明るい色がなくて選びにくい。
と考えている方も、ぜひ好みの色を探してみて欲しいです。
ブライドルレザーの部位はショルダーやベンズが一般的
革に詳しい人の中には、ブライドルレザーはどの部位が使われているんだろう?と疑問に思う方がいるかもしれません。
結論から言うと、一般的なブライドルレザーはお腹や脚を除いた上質な部位から作られています。
これは用途によってわけられています。比較的しなやかなショルダーはバッグや財布用、硬いバットやベンズはベルトなどが主な用途です。
ショルダーよりもベンズやバットの方が繊維の質が高いとされていて、取引価格も高くなるよ。
革の部位についてくわしく知りたい方は、【図解】牛革の部位ごとの特徴|質が良い部位、シボがでやすい部位をご覧ください。
ブライドルレザーの手入れ方法
ブライドルレザーのお手入れと扱い方についても触れておきましょう。
使い始めに防水スプレーをかけて、あらかじめ革を水から守る対策をしておきましょう。
おすすめの防水スプレーは、コロニルの革用防水スプレー4種類を比較|迷ったらウォーターストップで間違いなしで紹介しているウォーターストップです。
普段はブラッシングで汚れ払い落すお手入れが基本です。
ブラシは、革職人が選んだベストな革用ブラシに検証写真を添えて。で紹介しているプロブラシを。
表面のブルームが自然になくなって、表面が乾いてきたなと感じたら、クリームを塗ってください。
クリームは、できればブライドルレザー専用の商品が望ましいです。
私が使っているのは、コロンブスのブライドルレザークリーム。
このクリームについて詳しくは、レビュー記事の革職人が検証|コロンブスのブライドルレザークリームのメリットとデメリットで検証しています。
別記事でブライドルレザー製品を長持ちさせるための手入れ方法について掘り下げています。
関連記事 ブライドルレザー製品のお手入れ方法【長持ちさせる】
こちらも合わせてご覧ください。
ブライドルレザーのタンナー/ブランド
ブライドルレザーの製造元について調べてみましょう。
ブライドルレザーのタンナー一覧
本場イギリスのブライドルレザーを今も作り続けているタンナーを一覧で紹介します。
タンナー:皮を革に加工する製造業者
関連記事 革と皮は別物です|プロが解説する革の総まとめ
※社名日本語は通称
日本で多く出回っているブライドルレザーは、セジュウィック、トーマスウェアなどでしょう。
最近は、ベイカー社のブライドルレザーも見かける機会が増えました。
グレードレザーを除き、ブライドルレザーのタンナーはいずれも100年以上の歴史(スパイヤー社はクレイトン社時代をふくむ)を持つ老舗です。
ところでタンナーがちがうと何が変わるの?
それぞれ独自のレシピや製法にこだわりがあるんだ。
使うオイル(魚、動物、植物、鉱物)やロウの種類、なめし剤(オーク、チェストナットなど)の種類やかける時間や染色方法など、組み合わせはほぼ無限だよ。
ブライドルレザー製品はどこで買える?
国内では根強いファンがいるため、それなりにボリュームがある革製品売り場なら扱っている場合が多いです。各百貨店の財布売り場や、東急ハンズや蔦屋書店などの大型小売店や文具店、ビームスやユナイテッドアローズなどのセレクトショップなど。
もちろんAmazonや楽天でも買えます。
革製品に関しては、Amazonより楽天の方が失敗しにくいかと。楽天の方が信頼できる商品が上位表示されてる印象…
ブライドルレザーを使う革製品ブランド
規模が大きくて紳士向けに作っている革製品ブランドならたいてい取り扱っているといっても過言ではないでしょう。実はブライドルレザーはそれくらいに流通している素材です。
有名で歴史があるブランドは、ホワイトハウスコックスとグレンロイヤルでしょうか。これらは、ブライドルレザーの専門ブランドとしての地位を確立しています。
その他日本のブランドでは、GANZO(ガンゾ)やPORTER(ポーター)などが昔からブライドルレザーを使っていますね。
クラフト用ブライドルレザー素材が買えるお店
楽天で、いくつかカットしたブライドルレザーの取扱店があります。
こちらは、クレイトン(現スパイヤー社)製ブライドルレザー。
次はタンナー非公開のイギリスのブライドルレザー。
ブライドルレザーについてのまとめ
まとめると、ブライドルレザーはこんな革です。
馬具用として使われてきただけあって、ブライドルレザーは長く使える丈夫な革です。その反面水を吸いやすい特徴もあり、できれば防水スプレーを使うのと、できるだけ濡れないように気をつけて使う必要があります。
他のタンニンなめし革とちがい、色変化はあまり見られません。その代わり、心躍るようなツヤの変化が楽しめる素材でもあります。
専用クリームを使ってお手入れしながら長くお使いいただけたらうれしいですね。
シックな色が多い印象を持つ方もいますが、実はカラフルなバリエーションもあります。一人の革好きとしても職人としても、お気に入りのブライドルレザー製品を見つけてもらえたらうれしい限りです。
長文お読みいただきありがとうございました。
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