ブライドルレザーのお財布を濡らしてしまいました。どうすればいいですか?
ブライドルレザーの水ぶくれってどんな状態?
革の水ぶくれを直す方法はある?
などについてお話します。
記事内容はブライドルレザー(白いブルームが浮くのが特徴のイギリスの硬い革)に特化した内容ですが、その他の革の水ぶくれに対しても同様の処置ができます。
ブライドルレザーを濡らしてしまったらどうすれば?
外出時はどうすればいいですか?
外出時は風通しのいいところに置くなんてできないですよね。
ハンカチにくるんで水分を吸わせるなど、できるだけ早く乾くようにしてあげましょう。あとはなるべく触らない。
水ぶくれができたり色が濃くなったりしても、一時的なもので、乾くとほとんど気にならない場合があります。だから焦らず、まずは自然に乾くのを待ちましょう。
このとき、ドライヤーや暖房の風を当てて乾かすのはNGです。
熱を使って急に乾かすと、革が縮んで変形したりひび割れたりしてしまうよ。
くわしくは、濡れた革製品にドライヤーを使ってはいけない理由は一つでお話ししています。
完全に乾いたら(1日~2日)失われた油分とロウを補う通常のお手入れを行います。このとき、ブラッシングして汚れを払ってからクリームを塗るようにしてください。
これらの濡れた財布の乾かし方とお手入れ方法については、濡れた革財布の手入れ方法|保存版でくわしく解説しています。
なお、リンク先ではブライドルレザー以外の革製品に向いたクリームを紹介していますが、ブライドルレザーには、専用のクリームを使ってください。例えば、コロンブスのブライドルレザークリームなどです。
ブライドルクリームについて詳しくは、革職人が検証|コロンブスのブライドルレザークリームのメリットとデメリットでお話ししています。
ブライドルレザーは濡れると水ぶくれができることが
濡れたブライドルレザーは、水ぶくれのように濡れたところが膨らんでしまうことがあります。
実験してみました。ブライドルレザーにスポイトで水滴を垂らしてみます。
3分後↓
ふき取ると↓
こんなにはっきりと水ぶくれが…。
こんなに残っちゃうの?
乾いたら消えたという意見もあれば、目立たなくなったけど完全には戻らなかったケースもあるんだ。やっぱりできるだけ濡らさないように気を付けたいね。
乾いても消えずに残った水ぶくれはウォータースポットと呼ばれます。
架橋剤による仕上げが良好でない場合は、水滴によって膨潤し、乾燥後に塗装膜を浮き上がらせてウォータースポットを生じる。
出典 皮革用語辞典 Amazon.co.jp
ところで、前の写真の左半分には水ぶくれができていませんね。
これはどうしてかというと、左半分にだけ防水スプレーを塗布したからです。
ブライドルレザーに水滴を垂らして3分置き、拭き取るとどうなるか?
— デテログ (dete®の人) (@mkgx81) July 24, 2022
下半分のみ防水スプレー塗布。 pic.twitter.com/vOXKLixbzR
防水スプレーの効果はすごいです。
ほとんどの場合において革製品は防水スプレー推奨です。もしメーカーが防水スプレーを勧めていないなら、それにならって使わない方がいいでしょう。
使わない方がいい理由は、その革製品が防水スプレーを使わない前提でデザインされているから。
革製品は、経年変化もふくめてデザインされているよ。
自然なエイジングを想定して作られているのなら、水シミなども許容して使うのがベターだよ。
とはいえ最終的に決める権利を持つのはユーザー。
デテログでおすすめしているのは、コロニルのウォーターストップという商品です。
防水スプレーに対するこのブログ「デテログ」と、私の革製品ブランド「deteⓇ」のポリシーは、防水スプレーはヌメ革に悪影響?使った方がいい理由でくわしくお話ししています。
水ぶくれのできやすさは個体差あり?
一口にブライドルレザーといっても、複数のタンナー(製革業者)が作っていて性質にちがいがあります。
ブライドルレザーも色々あるので物によるかもしれません。セドウィック社のブライドルレザーはこんな感じでした。 https://t.co/g8fvFNQZGe pic.twitter.com/0QBQYcbWJw
— naoko (@AmoNaoko) July 24, 2022
革は自然に近い原料(動物の原皮)から作るものなので、個体差や部位による性質のちがいがある点もご理解いただけたら幸いです。
なので、ばらつきがあって当然。必ずしも優劣の問題ではないよ。
ブライドルレザーの水ぶくれは消せる?
できちゃった水ぶくれは消せる?
先に結論を書いてしまうと、自然に目立たなくなる場合と残る場合があって、残った水ぶくれを元通りにするのはむずかしいです。
次の写真は、上記実験同様に水を垂らして数分経ってふき取り、丸一日放置したブライドルレザーの端切れです。
自然に元通りにならなかったパターンです。
残ってしまった水ぶくれを消す方法として、唯一試してみてもいいかなと思えるのは、全体を均一に濡らす方法です。
全体を均一に濡らすと水ぶくれに効果があるかも?
もし濡れた翌日以降完全に乾いても水ぶくれが残っているなら、全体を濡らしてあげると目立たなくなるかもしれません。濡らすといっても、水にどっぷり浸してはいけません。
やわらかい布か、厚手のキッチンペーパーなどに水を浸し、全体を優しく拭いてあげるイメージで。
水シミ改善にもなるよ。
乾かすときに熱を加えないことと、乾いた後でクリームを塗るのを忘れずに。
ほかの方法も実験してみたけれど…
「水ぶくれは完全には消せない場合がある」この結論にたどり着くまでに、いくつかの方法を試してみました。
どれも完全には消えなかったどころか、逆効果でよけいにひどくなることもありました。
ひどくなったのはティッシュを使った水のパック。ティッシュのシワシワの形が革全体に残ってしまいました。
ガラス板でこするとシワや水ぶくれは改善しましたが、これは革素材の段階でしか使えません。製品になった状態で行うと、裏面の段差などの影響でアタリがついてしまいます。それと塗装が落ちるのも確認できました。
うまくいくかもしれないけれど、革に詳しくない人が試すとよけいにひどくなるかも。無理に直そうとするのはリスクがあると認識してもらえたら。
じゃあずっとこの状態なのかというと、そうではなく、自然に改善する可能性はあります。
革全体がまんべんなく湿気を吸ったり放出したり、使う中で革が動いたり伸びたり縮んだりをくり返すことで、ちょっとずつ水ぶくれが目立たなくなる可能性があります。
起こってしまったあとでは後の祭りですが、
防水スプレーを定期的に使っておけば最小限に抑えられるトラブルだね。
水ぶくれができる原因は?
ところで水ぶくれってどうしてできるの?
どうして水ぶくれができるかを考えてみました。あくまでも推測の域を出ませんが、いずれにしてもツルツルの革は特に水濡れ注意の結論にいたります。
考えられる原因は二つ。
ブライドルレザーをはじめとしたタンニンなめし革は、濡れた状態から乾くときに形状記憶する性質を持っています。
余談だけど、この性質を利用して立体的に作る製法をウェットフォーミング(絞り技法)と呼ぶよ。
話を戻します。この性質により、濡れて革繊維が膨潤した状態で乾いて形状記憶した。これが一つ。
もう一つは、濡れたことで平らに加工してあった革の繊維が緩んでしまった説です。
これらはタンニンなめし革が持つ可塑性の高さを利用した方法です。可塑性というのは、平たく言えば、一度力が加わってできた跡やクセが残る性質のこと。
革の可塑性の効果は水に濡れると失われる性質があって、それによって濡れた部分のプレスなりアイロンなりの効果が弱まって緩んだ。これが二つ目の説です。
ブライドルレザー以外のツルツルの革も、濡れると水ぶくれになったり、光沢がなくなったり、ツルツルじゃなくなってしまったりすることがあるよ。濡らさないように気を付けよう。
ブライドルレザーはどうして水ぶくれができやすいの?
- Qブライドルレザーはどうして水ぶくれができやすいの?
- A
水を吸いやすい革だからです。
水を弾くし、水を吸いにくそうなイメージがあったから意外。
ワックスやロウをたっぷり含んでいるのにどうして水を吸いやすいかというと、銀面(表面)を削った革だから。
ブライドルレザーの多くは、ワックスやロウをしみ込ませやすくする目的で銀面をすこし削っているんだよ。
ヌメ革の吸水実験。
— デテログ (dete®の人) (@mkgx81) July 24, 2022
表層をごく僅かに削った部分(白い部分)とそうでない部分で、吸水スピードにどれだけ差があるでしょうか?
結果ははっきりと現れました。 pic.twitter.com/JrOAT6Jnp1
銀面がないコードバンも水の影響を受けやすい革だね。
ブライドルレザーの濡れ対策と水ぶくれについてのまとめ
ブライドルレザーが濡れたときの対策と、水ぶくれのでき方や対策について書きました。
ブライドルレザーに限らず、革が濡れた時に大切なのは次の通りです。
ブライドルレザーの場合は、専用のクリームを使う点に注意しよう。
ブライドルレザーは、濡れると水ぶくれができたり水シミができることがあります。これを防ぐ最大の方法は、あらかじめ防水スプレーをかけておくことです。
防水スプレーで減らせるリスクがあるよ。
できてしまった水ぶくれを目立たなくする方法は、全体をまんべんなく濡らしてほかの部分との差をなくすことです。ただ、これでも完全に消せないことがあります。
あとは自然に目立たなくなるのを待つしか方法はなさそうです。
そうならないためにも、しっかり防水スプレーをかけて未然にトラブルを防ぐメンテナンスをしておきましょう。
この記事は以上です。長文お読みいただきありがとうございました。
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