革のコバにハマって早10年。
その経験の末にたどり着いたヌメ革(タンニンなめし革)のコバ処理方法まとめです。
無色仕上げのコバ処理剤にテーマをしぼっているので、はっきり言ってニッチな内容です。
革職人の私が自分の備忘録のために書き始めたこの記事でしたが、
ひょっとして趣味のクラフターさんにも喜んでもらえるのでは?
と思い、私以外の方にも読みやすい構成に整えました。
コバ磨き好きなレザークラフターさんにお役立ていただけたら幸いです。
※この記事内で紹介する方法が正解ということではなく、私個人がベターだと考えている方法にすぎません。まだまだ進化の途中でもあります。
ヌメ革に使えるコバ処理剤9種
色を入れず革のコバ面の色をいかした仕上がりに限定しています。
私のやり方では、方法は大きく分けて3種類。
- 塗り
- 磨き
- 熱処理
これらのどれか、もしくはそのMixでコバを仕上げています。
熱処理に使っている道具はこちら。
軽く押し付けながら熱を加えることで、塗料などを整えながら繊維を引き締めることができます。
コバ処理にほぼ必須なやすりの番手の選び方についてはこちらをどうぞ☟
コバの仕上がりを左右するヘリ落としの扱い方についてはこちらを☟
- 各方法の見出しに『塗り』『磨き』『熱処理』のどの製法を使っているか書いています。
- 主な方法のみ手順を載せています。
- 各手順は、ヘリ落としが済んだところから始めており、ネン入れは省いて(Lized以外)います。
- 処理剤によっては、浸透しやすくする為うすめて使っています。自己責任でお試しください。
私が好きなコバ磨き方法(無色)
まずおすすめの方法を。
各方法について解説します。
Lized グレージングトップ
塗り
磨き
熱処理
タンニンなめし革に使うにはとても優秀なコバ処理剤だと思います。
暗い色の革、ブライドルレザーにはこのコバ処理剤が一番だと感じました。
他のコバ処理剤では磨きにくい革でも良い結果になるのを確認しています。
熱への耐性がとても高く、布磨きでも、高すぎない温度のコテ処理でもどちらでもOK。
私の場合、塗って濡れた状態で※電気玉ネンを使ってコバに液を染み込ませつつ熱で圧縮させています。
磨くとツヤが出ますが、熱処理でマットめに仕上げることも可能。
生産量の問題と思いますが、他のコバ処理剤に比べると若干割高です。仕事で使うと考えるとコスト面は少し気になるかもしれません。
- やすりがけ
- 多めに塗り
- 濡れた状態でネンを入れて染み込ませる
- コテで熱処理
- やすりがけ(320~600)
- 塗り
- コテで熱処理
- ※やすりがけ(400~800)
- ※布か綿棒で磨くように塗り延ばす
※状況によってくりかえす
五助屋レザー ポリッシング リキッド ウェットブライド 粘り
塗り
磨き
熱処理
硬いヌメ革用に使うなら革新的ですばらしいコバ磨き剤だと思います。
気持ちいい。
— デテログ (dete®の人) (@mkgx81) September 24, 2020
センシティブ認定ギリセーフ! pic.twitter.com/hLO5ygYKXC
このコバ磨き剤の正体は、植物性の蝋を水と混ぜたエマルジョン(乳液)タイプ。
これまでのコバ磨きの方法にもロウを使った物はありましたが、それらはみな固形。
固形の蝋の場合の使い方は二種類
- ふのりやCMCなどで磨いた後に直接こすり付け、その後で熱で溶かす
- 溶けた状態で塗り込む
どちらも手間が多いしムラになりやすい。
その点、水に溶けたエマルジョンタイプなら、熱を加えなくても塗るだけで浸透してくれるから、水分で磨きながら蝋を入れる工程も兼ね、スピーディーに仕上がる。
蝋が革の繊維と絡みやすくなるから、目止め効果が高くて丈夫できれいなコバができる。
デメリットは、他の蝋仕上げ同様、コバの色が濃くなってしまうこと。
染料を差してから使うこともできるので、黒や焦げ茶に染めたコバにするのもアリ。蝋の作用で色落ちもある程度防いでくれます。
一回の使用量が多くなることもあり、こちらも少し割高。ですが他のコバ処理剤には無い特徴を持った製品です。趣味で使う分には気にならない範囲だと思います。
- やすりがけ
- 塗り
- 乾いたら熱処理(平らにならすように)
- やすりがけ(240~400)
- 塗り
- 乾いたら熱処理
- ※やすりがけ(400~800)
- ※塗り
- ※軽く布磨き
※状況によって
Lizedブランドのポリッシングワックスも同様の使い方ができます。
バスコ 目止め液
磨き
バスコ目止め液は、バスコ(サーマルコート)の下地として販売されている商品ですが、タンニンなめし革のコバ磨き剤としてもかなり有能です。
そのままだとヌメ革には濃すぎるので、目止め液3:水1くらいに薄めて使います。
よく見るノリの容器に入っていますが、これにこだわらずガラス容器などに移して使った方が使いやすいです。
光沢が強くしっかりとした堅牢なコバに仕上がります。
ふのりではまとまりにくいコンビなめし革などにも対応。
耐熱性が高いのも特徴で、熱処理も布磨きもどちらでもいけます。
コバの色が濃くなりにくく、革の元の色を活かしたコバ仕上げができます。
目止め効果が高く塗るだけで仕上がる反面、乾いてからの磨きはあまり効果がありません。半乾きで磨くと効果的です。
床面処理にも効果的で、トコノールのようにベタつくことがないので使いやすくおすすめです。
- やすりがけ
- 多めに塗り
- 濡れた状態で布磨き
- やすりがけ(240~400)
- 塗り
- 濡れた状態で軽く布磨き
- ※やすりがけ(400~800)
- ※塗り
- ※濡れた状態で軽く布磨き
※状況によって
FOK 水性ニス
塗り
ほぼ塗布(磨き塗り)×やすりのみの工程にもかかわらず、非常に完成度が高いコバが作れる方法です。
特徴はコバのなめらかさだけでなく仕上がりの色の美しさ。
他社のコバ処理剤と違い、芯通し革(内部まで染まった革)のコバの発色が良くなり、鮮やかに仕上がります。
この特性をいかすには、熱をかけた布磨きや熱処理をせずに仕上げるのがポイント。
乾いた状態で磨いても効果があります。
床面をつぶすようにコバを磨きたい場合は濡れた状態で磨いてください。
熱に弱く、布磨きやコテの熱処理には不向きです。
- やすりがけ
- 塗布
- 乾いたらやすりがけ(320~600)
- 綿棒でやさしく塗り延ばすように磨く(濡れた状態で)
- やすりがけ(400~800)
- 綿棒でやさしく塗り延ばすように磨く(濡れた状態で)
裏ワザを紹介。
FOKでツヤツヤに仕上げたコバを#2000くらいのやすりで磨くとマット仕上げになります。マット仕上げの手ざわりは極上。
ふのり×蜜蝋
磨き
熱処理
煮だしたふのりと蜜蝋を使った古典的なコバ処理方法。
ふのりでツヤを出しつつ、蜜蝋で革の繊維のすき間を埋め、なめらかなコバ面を目指す方法です。
硬い革と相性が良く、丈夫なコバに仕上がります。
磨く作業が重要なので労力が要りますが、その分キレイに仕上げることができるやり方です。
磨きの熱により、色が濃くなり、また蜜蝋をしみこませることでさらに色が濃くなります。
染料を差せば気にならなくなりますが、無色では色ムラができやすいです。
- やすりがけ
- ふのり塗布
- 濡れた状態で強めに布磨き
- 蜜蝋溶かし込み
- 布磨き
- やすりがけ(320~400)
- ふのり塗布
- 濡れた状態で布磨き
- 蜜蝋がついた布で磨き
- ※やすりがけ(400~800)
- ※ふのり塗布
- ※濡れた状態で布磨き
- ※蜜蝋がついた布で磨き
※必要に応じてくりかえす
詳しくはこちらで解説しています☟
ユニタス エッジペイントEPシリーズ カラーレス
塗り
豊島化学のコバ処理剤に近いレシピで作られているという噂です。
熱に弱いので、塗布とやすりがけをくりかえす方法がベター。
やすりがけの時の摩擦熱にも注意が必要で、往復させず一定方向にかけるやり方がおすすめ。
コバの色は少し濃くなります。
トコノール
磨き
塗って半乾きの状態で磨くクラシックなコバ処理剤。
艶やかで柔らかめの仕上がりになるように感じます。
ワックスの効果によるのか、磨いた後の色はかなり濃くなります。
コバだけでなく床面処理にも使えます。
CMC
磨き
ふのりの代用品。粉状のCMCを水で溶いて使います。濃さは好みで調節可。
必要な分だけ簡単に作れるのでふのりよりもずっと楽です。
ふのりやトコノール同様、塗布と磨きとやすりをくりかえして仕上げます。
色はふのりほど濃くなりません。
表面的に硬くなり、曲げた部分がかさついた仕上がりになったことがあり、それから使うのをやめました。
豊島化学 コバオール下塗り用 クリア
塗り
熱処理
すでに廃業されている化学メーカー。今では手に入りません。
お世話になっていたメーカーは多く、廃業の話が流れたときには業界がざわつきました。
定番のコバオールが一般的ですが、うちでは下塗り用を愛用していました。
革への浸透性が良く、革の繊維とがっちり絡むような仕上がりになる為、剥離がおこるようなことはまずありえません。
熱にもある程度耐性があり、高すぎない温度で熱処理が可能です。
コバの色は濃くなります。
Lized NEOエッジカバー(ネオエッジカバー)
塗り
熱処理
この記事では無色のコバ処理剤を紹介していますが、ここで掲載するのは色付き。自分向けの備忘録として載せておきます。
熱処理するときは厚塗りするとはがれてしまうので、あくまでも薄塗りに徹する必要があります。
厚く盛れてしまったときは乾く前にふき取るようにしましょう。
- やすりがけ
- 綿棒で塗布(厚い部分はふき取る)
- コテで熱処理
- 綿棒でやさしく塗り延ばすように磨く(濡れた状態で)
- コテで熱処理
NEOエッジカバーについてはもうすこし研究してみます
コバ磨きに便利な道具
さらっと道具を紹介します。
ガラス容器
小分けにして使うとこぼした時のリスクや乾燥をさけられます。このビンはちょうどいいサイズがGoodでリピート買いしています。
ボンド用容器
ボンドが固まっているとうす塗りができず、結果としてコバをキレイに仕上げることができません。マメにフタができて効率的なこちらのダブルキャップジャーがおすすめです。
詳しくは、接着剤の容器が汚い人はコバをキレイに磨けない?《レザークラフト》をご覧ください。
真鍮丸棒
たっぷり塗りたい時、私が使うのはただの真鍮の棒。
コバの厚みに合わせて、3-4mmくらいの棒を使い分けています。
こちらのショップ☟ではサイズを指定すると切り分けてくれるので、ありがたく利用させてもらっています。
綿棒
安価なプラスチック軸は使いにくいので、しっかりした紙軸のものを選びましょう。薬局や100均にある普通ので大丈夫です。
磨き布
好みですが、シャツに使われるようなサラッとしたコットンが使いやすいです。
Tシャツのようなニット系の生地は、しっかり力が伝わりにくいのでおすすめしません。
まとめ
各コバ処理剤の使い方と、おすすめについて書きました。
私が試した中でおすすめの方法は、
- バスコ 目止め液
- Lized グレージングトップ
- ポリッシング リキッド粘り
- FOK ニス
などです。
まとめとして各方法共通のポイントを書きます。
次のやすりがけは躊躇せずがっつり平らになるまで。ここから仕上げです。
冒頭でも言ったとおりですが、これが絶対的な正解ということではありません。
あくまでも、私が現時点ではこれがいいと感じている内容をつづったに過ぎないです。
今回は紹介しませんでしたが、
- 樹脂系(塗り)を塗ったあとに蜜蝋で磨く
- 水を付けた耐水ペーパーで磨く
- 細かいペーパーをかけてフィニッシュ
等、他にも様々なテクニックがあります。
時として、それらを今回の方法と組み合わせることもあります。
いろいろトライして自分だけの方法をみつけてください。
私自身、仕事で毎日のようにコバに触れるようになり早10年ですが、まだまだ成長過程です。
「もっとこうした方がいい」とか、「こういうやり方知ってますよ」という方がいたら、ぜひ下の方にあるコメント欄で教えてください。
コメント
コバ磨き剤ってこんなに種類があるんですね。
トコフィニッシュとトコノールしか使ったことがなかったので勉強になりました!
ちなみに、FOK水性ニスというのがとても気になるのですが、どこで手に入れたら良いのでしょう??
小売りしているお店はたぶん無いので、公式サイトからメールで問い合わせてみてください。
はじめまして。
コバ処理でずっと遭難しています。
小さな人形用のくつを作っているのですがソールの側面がどうしても汚く仕上がります。タンニンなめしの革を使っています。
革を縫ってから最後に貼っています。貼った後に磨いていますがよれたりしますし磨けているのかもわかりません。
拝見させて頂いたようにピカピカになりません。
きれいに仕上がらない原因はいろいろと考えられるのですが、よれるという部分が気になりました。
お使いの革は、繊維が粗い部分を使っていたり、コバ磨きに向かない柔らかい革を使っていたりはしませんか?
そういった素材でも磨けないことはないですが、きれいに仕上げる難易度は上がります。
素材を選ぶことができるなら、できるだけ良い部分を使うように心がけると改善するかもしれません。
ご返信をありがとうございます。
革の小さな靴を作り始めて2年くらいたつのですが
よくわかっておらず落としのお安いヌメ革を使っているので目の荒い部分なのかもしれません。
皆さんどういったところで革を購入されているのかもよくわからず。靴のほとんどの部分は1ミリくらいの革を使っていまして底の部分はそれより厚いもの2ミリまでいかないものを使っています。
突然のコメントにご親切にお返事下さりありがとうございます。
磨く→削るを段々細かい番手にすると2000番代では嫌でも綺麗になるよ
FOK 水性ニスを購入して使ってみました。
薄いコバならいいんですが厚みが4ミリくらいある曲がる部分はすぐに
ひびが入ってしまい使用を中断しました。(ハーフウォレット)
水性染料で色を入れてその上に少し水で薄めて塗る⇒ひび割れ
ゴム系のフェニーチェで塗ってその上に薄めて塗る⇒ひび割れ
厚み2mmくらいのコバにフェニーチェを塗って、その上に薄めて塗る⇒割れない
(軽く曲げてもひびは出ず)
コバにロウを入れてコテでしめるやり方だとどうしても色が濃くなってしまい
明るい色でコバを染色して光沢がある状態を作るのを模索中です。
エッジペイントは光沢にする処理剤も出ているようなので試してみます。
こちらのサイトはよく勉強させてもらっています。
コメントありがとうございます。
割れるということなので、ニスの層が厚いか、革自体の繊維が硬くて粗いのかな?と想像しました。
革との相性やコバの厚みとの兼ね合いもあるので、いろいろ実験を楽しみながらご自分なりのやり方を見つけてみてください!
Singer20uです。 おっしゃるとおり革は硬めの物を使用していました。割れが出なければほんとに綺麗なコバに仕上がりますね。 使い所を考えて使ってみます。
エッジペイントは光沢にする処理剤が廃盤になっていました。 やはりゴム系のコバ処理剤であっても上にエマルジョン系の樹脂を塗ってしまうと厚みにもよるけれど割れが出やすいのかもしれませんね。 柔軟性を持ったまま表面が光沢になっているコバ処理剤があればうれしいのですが・・・