レザークラフトをしているみなさん、手縫い糸は何を使っていますか?
最近は良さそうな縫い糸がたくさんありすぎて、「どれを選べばいいのかわからない」と迷っている方も多いのではないでしょうか。
この記事はそんな迷える方に向けつつ、私自身の備忘録を兼ね、手縫い糸8種を同じ条件で試したときに感じたことを記録します。
姉妹記事の「ヌメ革に使えるコバ処理剤9種|おすすめと磨き方備忘録」もあわせてご覧ください。
これら8種類の糸を実際に縫いくらべし、それぞれにどんな特徴があるのかを検証してみました。
使用した目打ちはKS Blade Punchのプリッキングアイロン#10(2.7mmピッチ)
裏はこんな感じです。
照明の角度と見本の向きを変えて見てみましょう。
これらの糸は過去、現在ふくめ一度はdeteⓇ製品に使ったことがある糸です。
ですので、紹介する8つの糸はどれも一定以上の品質を満たしたいわゆる良い糸です。
ですが、中には「もっと良い糸が登場したし、これから追加で仕入れることはないかな」というものもあります。そのあたりは察していただければ…。
まず麻糸を検証し、そのあとポリエステル糸を深堀します。
記事内でAMY ROKEのワックスリネン糸を紹介していますが、現在は素材を一新してコットンリネン糸として販売されています。
AMY ROKE、YUE FUNG、AU CHINOIS他の麻糸を比較
5種類の麻糸を使った感想を紹介します。
スワイプで拡大して見てください。
こうしてみるだけでも毛羽立ちの有無や質感に差がありますね。
YUE FUNGのワックスリネン糸|きれいなステッチが目指せる上質麻糸
張りがあるがゴワつく感じはなくムラも少なく、均一で美しい縫い目に仕上がります。
密度が高く(ロウたっぷりで撚りが強い)、縫い目を叩いて(※)もくっきりとした縫い目が維持される。
※縫った後に縫い目をつぶすと糸の収まりが良くなり、縫い目が擦れるのを防ぐことができます。
均一でありながらロウがしっかり入っていて使いやすい手縫い糸。
初心者さんからプロまでおすすめできます。
6tleatherworksのショップでYUE FUNGのワックスリネン糸を見る
旧AMY ROKEの麻糸|撚りが強くメリハリあるステッチに
※旧リネン糸(リネン100%)のレビューですが、その後に現行のコットンリネン糸との比較を掲載しています。
YUE FUNG同様張りがあり、引き締まった縫い目に仕上がります。
撚りが強くたっぷりとロウを含んでいるため、叩いてつぶしても糸の丸みがくっきりと残り、メリハリのあるステッチに仕上がるのが魅力です。
ロウがしっかり入って密度が高い分、YUE FUNGにくらべるとすこししなやかさに欠ける印象を受けました。
糸の太さにすこしムラがあったりうねりがあって、手でしごくとかすかにザラつきを感じます。
AMY ROKEの麻糸は、節のようなダマになった部分が他の糸にくらべて少し多めかもしれません。
手元にあるロットのAMY ROKEの糸では、1尋(ひろ。両手を伸ばした長さ)につき1か所くらい気になる節があるかないかくらいの頻度で見つかりました。
他社の麻糸にも節はあるので仕方ないとも言えますが、ちょっと多めかなと気になりました。
とはいえ総じてAMY ROKEの糸の品質は高いです。多少のムラは味ととらえるのもアリ、使う前にチェックするのもあり。
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現行AMY ROKEの麻糸|均一で高品質なコットン混麻糸
この記事を書いたあとに、AMY ROKE代理店の6tleatherworksさんにコットンリネン糸を送っていただいたので試してみました。
結論から書くと、現行AMY ROKEの麻糸(コットン混紡)はとてもすばらしい縫い目に仕上がる上質な糸です。
かつてのAMY ROKE麻糸に存在したムラがほとんど見当たらず、手触りもなめらかな仕上がりです。革に縫ってみたのが次の写真。
縫い目一つ一つの太さがそろっているから整って見え、節(ムラ)がないから引き締まり具合も均一になりやすいです。
縫い目にこだわりたいなら有力な選択肢のひとつと言えるでしょう
AMY ROKEの旧リネン糸と新コットンリネン糸のちがい
パッケージ等に変化はありませんが、糸の質は大きく変わっています。
まず最初に感じるのは、旧リネン糸に見られた節が少ない平滑な糸になった点。糸の断面は丸に近づき、ムラのすくない縫い目の実現に役立ちます。
旧100%リネン糸とくらべると、ギラついた光沢がなくなったように見えます。これも糸が平滑になったから結果と思います。
拡大してくらべてみましょう。
手で触ってもわかるひっかかりやうねりがあった旧リネン糸とくらべ、改良版のコットンリネン糸はなめらかに仕上がっているのがわかります。
手触りもちがいます。均一さは手縫いの仕上がりに影響する重要な要素の一つです。
若干ですが、しなやかになったように感じます。これはリネンとコットンの性質によるものと思われます。
コットンが混じったことで多少摩擦に弱くなった可能性はありますが、今のところそういった情報は耳にしていません。大きな問題にはなっていないのでしょう。
AU CHINOIS(オ・シノワ)の麻糸|しなやかで縫いやすい上質縫い糸
昔からエルメスが採用していることで有名なフランスの麻糸。
ユーフェン、AMY ROKEにくらべると密度が低い(ロウが少ない?)ためか、しなやかさを感じる縫いやすい糸です。
また、太さが均一でザラつきが少ないのも良いところ。丁寧に作られているのがわかります。
縫い締まりがよく、それでいてムラも少ないバランスの良い手縫い糸ですね。
ちなみに、歴史あるブランドだけあって、少々お高い高級糸です。
軽くロウを入れて使うのをおすすめします。
高価なだけあって均一に仕上がっていてすばらしい糸。
ですが、自分でロウを引いても均一さとしなやかさを保てるかな?技術が必要です。
少量から買えるので、各太さをそろえて試してみるといいでしょう。
ツレデ糸|手縫い麻糸のダークホース
手縫いに適していると言われる右撚りの麻糸です。ボタン付け用として使われる糸ですが、革の手縫いにも使用可能。
絶妙におしゃれな色がそろっているのですが、スーツのボタン付け用ゆえ色あいに偏りがある点は注意が必要。
ボタンつけ糸というとがっかりしてしまう人もいるかもですが、意外にも使える手縫い糸で、しっかりロウを引いて使えば上質な縫い目に仕上がります。
毛羽立ちはありますが、ザラつきが少なく比較的均一な太さなのがわかります。しっかりロウを染み込ませる必要があるのでちょっと上級者向き。
製品になってからは引張強度は問題になりませんが、手縫い中だけは注意が必要かもしれません。結んで留めた際に強く引きすぎて切れた経験があります。
手縫い糸のダークホース的存在でコスパはかなり高い。
先に紹介した3社の輸入ロウ引き糸にくらべると若干の使いにくさはありますが、風合いの差を楽しむのもいいですね。
エスコード30/3(細)|手縫いの定番
なぜか番手(太さ)によって右撚りの糸と左撚りの糸があり、30/3は手縫いに適していると言われる右撚り糸です。
毛羽立ちが多いので、しっかりロウを染み込ませて毛羽を落ち着かせて使いましょう。
撚りが戻りやすく、縫い目を叩くと縫い目が潰れます。撚りを強めながらロウを入れられれば改善するかもしれません。
昔からの定番麻糸。しっかりロウを入れればキレイな縫い目にすることもできます。
少量で買えるのでレザークラフトを試したい方にもいい選択肢。
手縫いポリエステル糸|Yue Fungとamy rokeとビニモMBTを検証
3種類のポリエステル糸を使った感想を紹介します。
YUE FUNGのポリエステル糸|麻糸に近い質感
スワイプして拡大すると、撚りの段差を埋めるくらいにしっかりとロウが入っているのがわかりますね。
このロウの粘りが撚りをほどけにくくしてくれています。
光の加減でそう見えるのか実際にムラになっているのか、目を凝らして見るとロウ引き特有の色ムラ感も見受けられます。
このムラが麻糸に近い質感を醸し出していますが、人によってはムラがない均一な色が望ましいと感じるかもしれません。
ロウがしっかり目に入っているから糸がゆるまず、麻糸に近い縫い応えを感じ、引き締まった縫い目に仕上がります。
YUE FUNGの ポリエステル糸は、ロウ引き麻糸に近い感覚で使えるポリエステル糸だと感じました。
ロウをたっぷり含んでいるからなのか、糸自体の特性なのか、化繊の縫い糸にありがちな透け感がなく、発色の良さを保てているところもポイントが高いです。
丈夫で使いやすく仕上がりもいい縫い糸です。
6tleatherworksのショップでYUE FUNGの ポリエステル糸を見る
AMY ROKEのポリエステル糸|ほどよいロウ感で品よく仕上がる
YUE FUNGのポリエステル糸にくらべてロウが少なく、撚りの様子が見て取れます。
光沢の具合から隙間にロウが詰まっているのがわかり、この点からしっかりしみ込ませた後に表面のロウをふき取っているのかなと想像しました。
余分なロウが落とされているため、さらっとした質感です。そのため麻糸にくらべると縫い締まり具合はひかえめで、この点は好みがわかれるかもしれません。
こちらはさらっと系のロウ引きポリエステル糸。どちらかといえばこちらの方がシックな仕上がりになるかもしれません。
ビニモMBT|手縫い糸に近づいたビニモ
発色がよく光沢も美しいミシン糸です。
特殊な加工により、撚りがもどりにくい強い糸に仕上がっています。
撚りがもどりにくいのはいい点ですが、ミシン糸なのでそのままではすべりが良すぎて緩みやすいのがデメリットです。
手縫いに使う場合は、しっかりロウを染み込ませて使うのをおすすめします。
少量サイズが買えて品質も高いAMY ROKEやYue Fungのポリエステル糸を使った方がメリットが多く、あえて手縫いにビニモMBTを使う必要があるかは疑問。
とはいえ縫い目はやっぱりきれいなのがさすがです。
deteが選ぶおすすめの手縫い糸は?
それぞれのちがいはなんとなくわかったけど、どんな基準で選んだらいいかわからないよ。
見た目を一番に選んだらいいと思うけど、あとは性質のちがいを理解すると選びやすくなるよ。
麻糸とポリエステル糸のちがいや糸の選び方については、レザークラフト用手縫い糸の選び方とおすすめ|麻(リネン)かポリエステルかでくわしく解説しています。
dete的には何を選ぶ?
麻糸ならユーフェンかシノワ。新しくなったアミ―ロークのコットンリネンもいいね。
ポリエステルならユーフェンかアミーロークか迷うところ。
とはいえ、これらが絶対ではなく、製品との相性を考えて適時ベターな糸を選んで使うことになるでしょう。
また、今回紹介した以外にも気になる糸はあります。
六花(リゥファ)のワックスリネンやポリエステル、SINCEの糸など。
機会があればこちらも試してレビューしてみたいと思います。
糸選びはステッチの美しさを左右する要素の一つでしかありません。
当然ながら技術があり、その他の道具選びも重要です。
「まっすぐ縫えない」という方には、菱目打ちのクセを直そう!失敗例と使い方のコツが参考になるかもしれません。
もっとステッチ周りをきれいに仕上げたい方には、捻(ネン)やコバにこだわってみることをおすすめします。
関連記事 ヌメ革に使えるコバ処理剤9種|おすすめと磨き方備忘録
関連記事 革製品に入れる「捻(ネン)」って何?|目的と効果と捻の種類
レザークラフトに興味があるあなたのお役に立てていたらうれしいです。
長文お読みいただきありがとうございました。
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