レザークラフトをしている方に向けた内容です。
「今よりもきれいな縫い目に仕上がる方法があるかも」
と言ったら興味ありますか?
縫い糸を変えるだけで、ステッチの雰囲気が明らかに変わるかもしれません
この記事では、これからレザークラフトを始める方、もっときれいな縫い目を目指したいクラフターさんに向けて、手縫い糸の選び方をお話します。
手縫い糸ってどう選んだらいいの?
麻糸とポリエステルの糸どっちがいい?
おすすめは?
などについてお話します。
まず、選び方のポイントです。
そしておすすめの手縫い糸は次のメーカーの商品です。
くわしく解説します。
麻糸とポリエステル糸のちがい|メリットとデメリット
手縫い糸には、麻(リネン、ラミー)、コットン、ポリエステル、ナイロンなどがあります。
今回は、その中で主に使われている麻とポリエステルにしぼって解説します。
麻糸とポリエステルの特徴には対称的な部分が多く、どちらが優れているというものではありません。
何を基準に選べばいいの?
見た目、耐久性、あつかいやすさのバランスで選ぼう。
先にめちゃめちゃざっくりとした選び方を書きます。
表で比較します。
横スクロール➤ | 麻糸 | ポリエステル糸 |
---|---|---|
耐摩耗性 | ★★ 毛羽立ちが目立つ | ★★★ 摩擦に強い |
糸の締まり | ★★★ よく締まり 美しい縫い目 | ★★ 糸のすべりと伸びが あり、締まりにくい |
風合い | ★★★ 革となじみやすく、 落ち着いた風合い | ★★ 糸によっては 浮いた印象になる |
縫い終わり の処理 | ★ 手間がかかる。 きちんと止めないと ほどけてしまうことも | ★★★ 熱で溶けるため 簡単に留められる |
掘り下げます。
麻糸のメリットは締まりの良さと仕上がりの美しさ
麻糸の締まりがいい理由は二つ。
リネン(亜麻)やラミー(苧麻)など手縫い糸に使われる麻は茎の繊維を原料にしています。
そのため、伸縮性が低く、引張強度が高いのが特徴(ウールの4倍、コットンの2倍とも)。
だから強く引き締めても伸びにくく、引き締まった縫い目を作れます。
また、糸の摩擦がストッパーになり、糸同士および糸と革がすべりにくく、針から手を放しても縫いがゆるみません。
これら二つの特徴により、麻糸の手縫いは引き締まったステッチに仕上がりやすくなります。
糸が伸びにくいから、ギュッと引き締めたときに手ごたえを感じるのが麻糸でレザークラフトする醍醐味。
ポリエステル糸は伸びと滑りがデメリット
麻糸のメリットで書いた縫い締まりの良さと対照的に、ポリエステル糸は伸びやすさと滑りやすさがデメリットです。
強く引き締めても、伸びがあって手ごたえがありません。
ツルツルしていてすべりやすく、商品によっては、ロウをべったり付けないとすぐにゆるんでしまうものもあります。
とはいえ、人工物ゆえの均一な繊維だからこそすべりやすいわけで、ムラがなく美しい縫い目とのトレードオフとも言えるデメリットです。
写真はポリエステル糸の手縫いです。
糸の強度はポリエステルが上。とはいえ
糸の強度はポリエステルが上と言われています。
個人的に感じるのは、麻糸にくらべて毛羽立ちが目立ちにくい点。
とはいえ、繊維の強度だけで縫い目の強さが測れるわけではありません。
糸が擦れない構造になっていれば、摩擦に弱い糸でも大きな問題にはなりにくいです。
また、革の手縫い用として売られている糸なら、基本的に引張強度(両側から引っ張ったときに切れずにどれだけ耐えられるか)は無視して大丈夫です。
製品の状態で糸が引っ張られる状況は考えにくく、もしそうなったとしても糸がちぎれる前に革が裂けるケースがほとんどなはず。
糸が擦れない具体的なテクニックの例を挙げましょう。
写真で見てみましょう。
芯を入れて立体的に作る方法については、『肉盛り』で立体的に作る方法。レザークラフトレベルアップ!高級感を出すテクニックをご覧ください。
縫う幅だけ漉くときに便利な道具については、フレンチエッジャーの使い方と砥ぎ方をご覧ください。
上のバッグの別の部分を見てみましょう。
底面の角は糸がすれてつぶれています。使い続けるといずれ切れるでしょう。このように、同じ糸でも擦れやすい作りかそうでないかで傷み方が変わります。
また、撚りが弱いと糸が浮きやすい傾向があるため、しっかり撚られた糸(商品)かどうか?も大きなポイントです。
革製品は、長年使っていると革が痩せていきます。革が痩せるというのは、つぶされたり縫い目に引っ張られたりし続けた結果、革の厚みがうすくなること。
革が痩せると糸は浮き、とたんに糸は急激にもろくなります。撚りが弱い糸は特にそうです。
高品質な手縫い糸とは?毛羽立ち、均一性、撚りの保持力
デテログが考える良い手縫い糸の条件は次のとおりです。
毛羽立ちが少ない糸は優秀
毛羽立ったようなナチュラルな風合いが麻糸の魅力とも言えるかもしれませんが、整った美しい縫い目を追及しようとするならば、毛羽立ちが多い糸やムラがある糸では思うような仕上がりにはなりません。
「自分でロウを入れれば毛羽立ちを抑えられる」
という意見もあるでしょう。
たしかにロウを入れれば改善しますが、高品質な麻糸と同等になるかというと、簡単なことではありません。
ムラなく均一にロウを入れるのがむずかしく、糸の色ムラができやすいリスクがあるからです。
そういった観点から、特に初心者の方には最初からロウが入っている高品質な糸がおすすめです。
多少ムラがあるくらいの方が手作り感あっていいんじゃない?
そう思うよ。完璧じゃなくてちょっとだけムラがあるところに良さを感じたりするね。
その「ちょっと」の塩梅がどのくらいかは人による。
どんなにていねいに手縫いしても、人の手で行う以上ブレが出ます。
そのかすかなブレが垣間見えるくらいのバランスが私は好きですね。
完璧すぎるものっておもしろくないから少しの遊びとかムラがあるものが喜ばれるけど、「少し」がどれだけなのかって人それぞれ違う。
— デテログ (dete®の人) (@mkgx81) October 23, 2022
THE手作り的レベルから凝視して始めてわかるレベルまで。
どんな人に使ってもらいたいか?が定まっていれば目指す方向はブレにくいですね。
最高級品のエルメスの革製品も、昔から手縫い糸の最高品質と謳われてきたAu Chinois(オ・シノワ )を使っていると言われています。
とはいえ、ムラが多い方が好みなら、あえて毛羽がある糸を選ぶのもアリです。
それと、失敗を恐れず自分でチャレンジしてみたいという方がいるなら、毛羽立った糸にロウを入れて使うのもあり。その心がけも素晴らしいと思います。
一つだけ、ムラがある糸の方が糸の収まりは悪くなり耐久性は落ちるので、その点を考慮して選んでいただけたら幸いです。
撚りが強い糸はつぶれにくい
しっかり撚られた糸はつぶれにくく、長年使っても丸い糸目が残りやすいです。
左の糸はすこし緩めの撚りの糸、右はしっかり撚られてロウ引きされた糸です。
どちらも大差ない太さの糸ですが、縫った後に叩くとこのように差が出ます。
余談ですが、私は手縫い糸の撚りは強い方がいいと考えつつも、それ以外の要素(色や風合い)も考慮してdeteⓇの製品に使用しています。
そのため、左の糸も十分に許容範囲内です。
手縫いはS撚り糸がいいって本当?
右下がり(ステッチを横に見た時)の手縫いではS撚り(右撚り。ねじを締める方向)の糸が、逆に右上がりの手縫いではZ撚り(左撚り。ねじを緩める方向)がいいと言われています。
これは本当でしょうか?
先に結論を書くと、どうやら本当のようです。
間違いなく右下がり縫い目なら右撚りの撚糸のほうがよく締まるし、逆に左撚りの糸なら右上がりで縫うほうがきちんと締まる。
出典 糸の撚りの方向と盆踊りの回転方向の謎 : さんた屋のレザークラフト民主化政策
それは糸が自然に絡みたがる方向だから。
本当であったとしても、実は私はそれほど気にして選んでいません。
気にしない理由は、撚り以外の要素の方が仕上がりに大きく影響すると考えているからです。
それ以外の要素とは、素材(麻かポリエステルか、それぞれの品質)、質(毛羽立ちが抑えられているか?太さにムラはないか?適切な量のロウが使われているか?など)などです。
これらを優先して選ぶと、現状ではZ撚り(左撚り)糸の方が優れた手縫い糸が多くなり、結果的にZ撚りの糸を使っている場合が多いということになります。
ところで、巷のレザークラフターはどう考えているのでしょうか?
アンケートを取ったところ、撚りを気にするクラフターさんは少数派ですが存在します。
趣味、プロ問わず手縫いでレザークラフトをする方に質問です。
— デテログ (dete®の人) (@mkgx81) October 11, 2022
手縫い糸の撚り方向にこだわりありますか?
S撚り=右撚り
Z撚り=左撚り
この記事で紹介する上質な糸に右撚り版が出たらそちらに鞍替えすると思います。
手縫い糸の太さはピッチ、革の厚み、見た目の好みで選ぶ
糸の太さ選びで迷う方に、先に解決策をお話します。
選び方を教えてもらえればムダが出なくて済むんだけど。
わかるよ。
でも、合う糸の太さはいろんな要素が影響するから一口に言えないんだ。そして好みの問題でもある。試してみてフィーリングが合う太さを選ぶのがベストだよ。
糸だけを手にしてみても、実際に縫ったらどんな見た目になるのかイメージするのは簡単ではありません。
手縫いのピッチと糸の太さ比較。
— デテログ (dete®の人) (@mkgx81) October 27, 2022
Shenzhen Minglang Textile Technology Co., Ltd. よりhttps://t.co/EfjehH56mk pic.twitter.com/zEM7hpD3du
比較してくれてる方がいますが、人が縫ったものを参考にしても判断がむずかしいですよね。
たとえ同じ糸でも、ピッチ(※1)や革の厚み(※2)や革の種類や引き締めの強さによっても見た目が変わるため、初心者さんが試さずに判断するのは困難です。
※1 手縫いのピッチは菱目打ちという穴あけ道具のピッチで決まる。
関連記事 菱目打ちのクセを直そう!失敗例と使い方のコツ
※2 同じピッチと糸で縫っても、革の厚みがあればあるほど糸は縫い穴に沈みこみ、外から見える縫い目の長さは短くなる。
なので、「これ」っていう糸を選んで、全部の太さを注文するといいでしょう。
お金かかりそう。
って思うかもしれないけど、意外とそうでもないよ。
いろいろなメーカーが手縫い糸を出していますが、用意している太さは多くても3~5種類です。1色の各太さをそろえたとしても、それほど大きな金銭的負担にはならないはず。
気に入った太さを見つけたら、その太さで好きな色をそろえましょう。
初心者レザークラフターにおすすめの手縫い糸
まず、革となじみがいい麻のおすすめ手縫い糸を紹介します。
おすすめの手縫い麻糸はYUE FUNGとシノワ
初心者は何を買えば?
YUE FUNGかオ・シノワがいいね。どちらも初心者にも上級者にもおすすめの麻糸だよ。
あとはリニューアルしたAMY ROKEのコットンリネンもなめらかですばらしい仕上がりだよ。
YUE FUNGの手縫い麻糸の特徴
デテログのおすすめは糸の一つは、YUE FUNGのwax linen thread(ワックスリネン糸)。
張りがあるしっかりした麻糸ですが、ゴワつく感じはありません。
太さのムラも少なく、均一で美しい縫い目に仕上がります。
密度が高く(ロウたっぷりで撚りが強い)、縫い目を叩いて(※)もくっきりとした縫い目が維持されるのが特徴。
※縫った後に縫い目をつぶすと糸の収まりが良くなり、縫い目を擦れから守ることができます。
均一でありながらロウがしっかり入っていて使いやすい手縫い糸。
初心者さんからプロまでおすすめできます。
6tleatherworksのショップでYUE FUNGのワックスリネン糸を見る
オ・シノワの手縫い麻糸の特徴
Fil Au Chinois(フィル・オ・シノワ)はフランスの糸のブランド。有名革製品ブランドやアトリエが採用していることで有名です。
糸の特徴は、ダマがほとんど見られず均一な太さに仕上がっているところ。とても丁寧に作られているのがわかります。
ロウの量はYUE FUNGやAMY ROKEにくらべて少なめ。その分しなやかさがあり、縫い穴内で引っかかることなくスムーズに縫えます。
少しだけ蜜蝋を足してから縫うのがおすすめです。
ていねいに作られた上品な手縫い糸。
蜜蝋を用意する必要があるけど、プロはもちろん初心者さんにも試して欲しいです。
麻糸の比較レビューは関連記事の手縫い糸縫い比べレビュー[AMY ROKE、YUE FUNG、Fil Au Chinois、ツレデ糸、エスコード、ビニモMBT]で深掘りできます。
ポリエステル糸のおすすめはAMY ROKEかYue Fung
最近は手縫い専用に作られたポリエステル糸も使われるようになりました。
「手縫いに特化した高品質なポリエステル糸」の登場を長年待ち望んでいました。
ミシン糸の代用はきつい。
縫い目の均一さを優先したい場合や、耐久性が必要な場合、経年による毛羽立ちを避けたい場合などはポリエステル糸がおすすめです。
ポリエステル糸のおすすめ教えて。
amyrokeかYue Fungがいいよ。
どっちがいいかは本当に好みの問題かな
何がちがうの?
ロウの量がちがうよ。
どうしても決められないなら、まずYue Fungを使ってみて、もしデメリットが気になる場合はAMY ROKEをどうぞ。
6tleatherworksのショップでYUE FUNGの ポリエステル糸を見る
6tleatherworksのショップでAMY ROKEのポリエステル糸を見る
別記事でその他の麻糸・ポリエステル糸と比較した内容を載せています。
関連記事 手縫い糸縫い比べレビュー[AMY ROKE、YUE FUNG、Fil Au Chinois、ツレデ糸、エスコード、ビニモMBT]
レザークラフトにおすすめの手縫い糸まとめ
まず、麻糸かポリエステル糸かで選びましょう。
横スクロール➤ | 麻糸 | ポリエステル糸 |
---|---|---|
耐摩耗性 | ★★ 毛羽立ちが目立つ | ★★★ 摩擦に強い |
糸の締まり | ★★★ よく締まり 美しい縫い目 | ★★ 糸のすべりと伸びが あり、締まりにくい |
風合い | ★★★ 革となじみやすく、 落ち着いた風合い | ★★ 糸によっては 浮いた印象になる |
縫い終わり の処理 | ★ 手間がかかる。 きちんと止めないと ほどけてしまうことも | ★★★ 熱で溶けるため 簡単に留められる |
糸の太さは好みの問題でもありますが、革の厚みや使う菱目打ち(ヨーロッパ目打ち)のピッチによっても変わります。
なので、まずはコレと決めた糸の全部の太さを試してみて、自分に合う太さで色をそろえてみるといいかんじゃないでしょうか。
シノワには太さごとの糸見本があります。試し縫いには難しそうですが、お持ちの糸と比べるのには使えそうです。
おすすめの糸を紹介します。
ナチュラルに仕上がる麻糸から選ぶなら、きれいな縫い目に仕上がって使いやすいYue Fungか、しなやかで太さにムラがないシノワ。両方試してちがいを楽しむのもアリですね。
均一な仕上がりになるポリエステル糸から選ぶなら、さらっと系のAMY ROKEかしっとり系のYue Fung。
どちらがいいかは好みですが、糸がゆるみにくいYue Fungの方が初心者の方でも縫いやすいかもしれません。
手縫い糸の選び方については以上です。
もっとステッチ周りをきれいに仕上げたい方には、捻(ネン)やコバにこだわってみることをおすすめします。
関連記事 ヌメ革に使えるコバ処理剤9種|おすすめと磨き方備忘録
関連記事 革製品に入れる「捻(ネン)」って何?|目的と効果と捻の種類
「まっすぐ縫えない」という方には、菱目打ちのクセを直そう!失敗例と使い方のコツが参考になるかもしれません。
長文お読みいただきありがとうございました。
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