この記事では、革にアルカリ性の液体(重曹水)をつけたらどうなるのかを実験を交えてまとめています。
先にこの記事のまとめです。
革のpHは酸性~弱酸性。
革にアルカリ性の洗剤やお掃除用品を使うのはおすすめしません。変色したりやわらかくなってしまったりと革がダメージを受ける可能性があります。
革は重曹水(アルカリ性)でダメージを受ける
家のさまざまなお掃除に使われる重曹ですが、革製品のお手入れに使ったり、保管時に近づけて置いたりするのはおすすめできません。
具体的なリスクは次の通りです。
革の色が黒くなる(タンニンなめし)
タンニンなめし革にふくまれるタンニンという成分は、ウォルナットやミモザなどの木から抽出したもので、お茶やワインにもふまれるポリフェノールの一種です。
このタンニンがアルカリとむすびつくと黒く変色することが知られています。
木材には「タンニン」「リグニン」という成分が含まれています。
出典 特集!月刊 梅江製材所 第78回 「お掃除にご注意!杉板×重曹に落とし穴」
このタンニン&リグニンがアルカリ性の物質と触れ合ったときに化学反応を起こし、無垢材が黒く変色してしまうのです。
この現象を別記事の【実験】鉄で黒くなったタンニンなめし革をクエン酸でクリーニングする方法内で実験しています。
今回の実験では、ご家庭でも身近な重曹で革がこんなに黒く変色するのが確認できました。
弱アルカリ性でもこんなに影響が。アルカリには気を付けてください。
革がグニャグニャに柔らかくなった
色だけでなく、革の繊維がほぐれたようにグニャグニャになったのも確認できました。
次の動画では、弱アルカリ性の重曹水溶液でパックしたタンニンなめし革をひっぱったり延ばしたりしています。
検証記事 【実験】鉄で黒くなったタンニンなめし革をクエン酸でクリーニングする方法
鞣された革らしい弾力が感じられません。
あきらかに今まで感じたことがないグニャグニャ感に変化しています。
鞣しがもどった?たんぱく質が分解された?
革の主成分はコラーゲン(タンパク質)です。
アルカリはタンパク質を溶かしたり結合を分解したりします。
タンパク質は沢山のアミノ酸が結合してできています。アルカリはタンパク質の結合を切って分解したり、結合を緩めて構造を変化させたりすることができます。
結合を切られたり緩められたりしたタンパク質はもろくなり、繊維にしがみつく力も弱ってきます。
出典 これだけは知っておきたいアルカリ剤の特性 – 石鹸百科
余談ですが、この性質は髪(たんぱく質のかたまり)にパーマをかけるときにも使われています(筆者は元美容師です)。
アルカリ性の液で髪のタンパク質を分解し、ロッドを巻いた状態で酸性液をかけて中和してカールを固定させます。
今回使った重曹水はpH9~10くらいの弱アルカリ性。
強いアルカリでなくても、長時間パックされ続けた結果こうなりました。
原因の特定はできませんが、考えられるのは次のようなものかなと推測。
推測はあくまでも推測ですが、後者のコラーゲンとなめし剤の結合が破壊された線があやしいと考えています。
そう考える理由について、人工汗液を使った実験を引用してお話します。
アルカリ性の汗で劣化。革が皮にもどる?
汗は時間がたつと酸性からアルカリ性に変化すると言われています。この汗がくり返し大量に革につくと、革が劣化したり変質したりする恐れがあり、注意が必要です。
書籍『皮革ハンドブック』内で、アルカリ性の人工汗液を使った実験のデータが紹介されています。
【牛革をアルカリ性人工汗液にくり返し浸したときの機械的性質の変化】
浸漬回数 | 0回 | 2回 | 4回 | 8回 | 16回 |
---|---|---|---|---|---|
切断時の伸び | 100 | 97.6 | 99.5 | 89.4 | 71.7 |
限界荷重 | 100 | 90.6 | 89.9 | 87.1 | 69.1 |
クロム含有量 | 100 | 50.4 | 41.7 | 35.1 | 32.0 |
熱収縮温度 | 100 | 78.1 | 71.2 | 64.0 | 60.7 |
皮革ハンドブックから抜粋した内容を編集
実験結果によると、アルカリ性の人工汗液により、革の強度が落ちて裂けやすくなるほか、革のなめし(腐らなくする加工、皮を革にする工程)を戻して生の皮に近づけてしまうとのこと。
なめしが戻ると、生の皮のように腐ってしまったり、革としての機能性がなくなってしまったりといったいった弊害が考えられます。
なめしが戻る原因は、具体的にはコラーゲンと鞣し剤のクロムの結合が破壊され、クロムが抜け出てしまうからと同書籍内で解説されています。
クロムとコラーゲンの結合を破壊する要因は一つではないかもしれませんが、人工汗液のpH(酸性とアルカリ性があり、実験で使われたのはアルカリ性)による部分は否定できません。
参考文献 皮革ハンドブック-日本皮革技術協会編
昭和女子大学大学院機構研究科が発行した文書でも同様の試験がまとめられていているので紹介しておきます。
参考文献 クロム鞣しにおけるグルたるアルデヒド処理革の耐汗性におよぼす影響-昭和女子大学大学院機構研究科紀要
アルカリで革が色落ちする
アルカリは洗浄力が高く石鹸や洗剤に使われますが、効果が強すぎて革に悪影響をおよぼしてしまうことも。
特に気を付けたいのが革の色落ちです。
革は酸性の染料が使われており、アルカリにつけると革の染料が溶け出し、色落ちしてしまいます。
革の染料の専門家レザーペイント.com(@leather_paint)さんが実験結果を提供してくださったので引用します。
追加実験してもいいよとの事だったので、アルカリ域での染料の移行問題について簡単に試験しました。革は酸性下で染色されるのでアルカリ性の液体の中では容易に色落ちします。1部に革が使われてる製品などで染色が染み出る事がありますが、アルカリ性のクリーナーは要注意です。 pic.twitter.com/VQPd1hpPFD
— レザーペイント.com(中の人) (@leather_paint) March 11, 2023
革を浸けた液体は左から順に次の通りです。
・中性レザークリーナー
・弱アルカリクリーナー
・レザークリーナーにアンモニア水を数滴たらしたもの
アルカリ性のクリーナーを使うと革が色落ちするのでキケンです。
結論:革にアルカリ性の物質を近づけてはいけません
よく言われていることですが、革はアルカリ性に弱いです。
体を洗ふつうの石鹸や衣類用洗剤などにもアルカリ性のものが多く、革にダメージを与えることがあるため使わない方が無難です。
「革のpHは酸性」って本当?実験しました
革は酸性って聞いたけど本当?
結論を言ってしまうと本当です。
でも本で読んで知っていただけでこの目で確かめたわけでは…
この機会に実験してみましょう。
というわけで、6種類の性質のちがう革で実験した結果、すべての革で酸性(弱酸性)をしめす結果になりました。
一晩革を浸けた水にpH試験紙を浸したところ、弱酸性をしめす黄色になりました。
実験内容:革を一晩水につけpH試験紙の反応を見た
性質のちがう6種類の革で試しました。
前の晩から水につけて置き、革の成分が染み出た水にpH試験紙をつけて反応を見ます。
結果、すべての革が弱酸性に
先に掲載した写真がその結果で、すべての革で弱酸性を示す黄色の反応が出ました。
ただの水だとこうはならない?
水道水は中性(黄緑色)になります。
次の写真は、「水道水」、「数分間革を浸した水」、「一晩革をひたした水」の比較です。水道水につけると中性を示す黄緑色になります。
革を水につけて染み出た成分のpHは弱酸性
それってつまり革は弱酸性ってことでOK?
革のpHは酸性と言われています。
厳密に正しい測り方をしたわけではないので、pH濃度はわかりません。確実に言えるのは、革のpHは酸性の傾向があるということ。
ちなみに、これは後になってわかったのですが、JIS(日本産業規格)で定められた正しいpHの試験方法があるようです。
10倍量の水に浸漬させて液のpHを測定する。染色や加脂工程の終了時に弱酸性に調整して染料や加脂剤を固着するため、製品革のpHも弱酸性を示す。
出典 皮革ハンドブック
革によって差はありますが、一般的な革の多くを占めるクロムなめし革とタンニンなめし革の2種類においては、ほぼほぼ酸性でまちがいないと言えるでしょう。
なお、2023年2月時点で、JISの公式データベース検索で「JISK6550」がヒットしません。
規格が作られたのがずいぶん昔ということがあり、検査方法の見直しが話し合われている情報が見つかりました。今は試験方法が変わっている可能性がありますね。
革とアルカリと革のpHのまとめ
革はアルカリ性の液体や洗剤でダメージを受けることがあり、注意が必要です。
弱アルカリ性であったとしても、長時間浸されたりくり返し付着することで影響が強まることがあります。
ほとんどの革のpHは酸性であり、今回の実験でも酸性よりの性質が確認できました。
人のお肌と同じで、アルカリ性は革にダメージを与えてしまうおそれがあるため、洗剤やケアグッズは中性や弱酸性のものを積極的に使いたいところですね。
この記事は以上です。長文お読みいただきありがとうございました。
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