この記事では、日本のジビエ(鹿革・猪革)の皮※がどれくらいの割合で革として再利用されているか?の現状をインタビュー形式でお伝えします。
ジビエがもっと身近に食べられるようになってその皮も余すところなく革に使えるようになる未来を願っている者です。
— dete® (@mkgx81) October 28, 2021
シカやイノシシの皮って年間どれくらい廃棄されているんでしょうか?頭数もしくはデシ単位でわかる資料などがあれば読んでみたいです。
Twitterで情報をあつめたところ、現場の方々からコメントをいただいた他、ジビエ専門家へのインタビューの機会を得ることができました。
私は革に携わる仕事をしていながら、狩猟や、ジビエの皮を活用するむずかしさは全くと言っていいほど理解していませんでした。
ジビエレザー※界の課題と伸びしろが見えてくるインタビューです。
※皮と革・・・生の皮を鞣し(腐らないように加工して色や質感を整える工程)たものが革(レザー)です。
関連記事 革と皮の違いとは?革の製法や加工法も紹介
※ジビエレザー・・・廃棄されてしまうジビエ(肉)の皮を加工したものがジビエレザーです。
別記事の鳥獣被害問題とは?ジビエレザーは解決策になり得るかで、日本の鳥獣被害問題について取り上げています。
シカやイノシシを捕獲する必要性についてご存じない方はぜひ目を通していただきたいです。
ジビエレザーについては、ジビエレザーって何?品質、メリット、問題点、買えるお店解説でくわしくお話ししています。
専門家にインタビュー。ジビエの皮はどれくらい使われている?
先に結論ですが、日本のシカやイノシシの皮は多くても10%も利用されておらず、90%以上が廃棄されている現状です。
詳しい現状と今後の課題について、ご本人も猟師であり、ジビエレザーを製造販売されているVARIED(バリード)@HdtP8Nrp097np83さんにお話をうかがいました。
よろしくお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
捕獲された動物の皮がどれくらい革として使われているのか教えてもらえますか?
広島県だけの情報になります。
まず、令和元年のシカとイノシシの捕獲数は次の通りです。
鹿 10,554頭
猪 29,531頭
合わせて約4万頭ですね。
革の生産を始めたのが令和2年からなので、革については令和2年の情報になります。目安にはなるはずです。
当社が生産した革は900枚(実際には1800枚手に入れて50%は規格外で廃棄)でした。
他に広島県では個人経営と市営で生産しているところがあって、それらの合計が200枚。
令和2年の広島県のジビエレザー生産枚数は合計1,100枚です。
2.75%ですか。
私はその後独立したので、令和3年は5%くらいになっているはずです。
95%も廃棄されているんですね。
この数字を上げるにはどうすればいいのでしょうか?
ここから上げるには各個人の猟師から直接購入、もしくは処理場に持っていってもらうしかないのですが、現状では予算や品質の観点から難しいですので多くても10%にするのが現状での最高数値だと思われます。
あ。これ広島県だけですからね。
広島県だけで年間35000頭近くの皮は捨てられているというのが現状です。
各都道府県同じような内情だと思いますが、私のようにジビエレザーを作っておられる方は少ないので内情はもっと悲惨だと思いますよ。
たしかに、バリードさん一人で数字を大きく上げている状況を見ると、他県ではほとんどゼロの可能性すらありますね。
現状私が手がけているのは広島、島根、鳥取、青森、北海道のみですがそれでも国内で採られているジビエの1%にも満たないです。
当社では民間ですので今のところ販売数と予算がなかなか伸びないのも踏まえて いいところ0,2パーセントあればいい方だと思います。
ジビエレザーの供給量を増やすには、猟師さんに協力をお願いして皮を確保する必要がありそうですね。。
猟師さんの協力というより若い人が欲しいです。
猟師は年配の方が多いので山から鹿を引っ張れる方もだいぶ少ないですし、体力的にきついと思われている方も多いように見えるので。
所謂民間化して仕事として猟師ができるようになれば協力という言葉が使えますが現状では無理ですね。
需要はどんどん増えそうな予感はあるので、うまく商売としてやっていく形ができればいいのですが…
よくわかりました。
ちなみに、広島県のジビエ肉の方はどんな状況ですか?
お肉は広島県だとおおよそ6,000頭が処理場に行っていると思われますので34,000頭※は自家消費、もしくは破棄されてます。
そこは各猟師が判断してますので算出はできません。
※統計をとった数字ではないですが、バリードさんは広島県の8割の業者とつながりがあり、県内の事情に精通しているためほぼほぼ正確な数字とのことです。
広島県で獲れたジビエで市場に流れてるのは15%ほどなのですね。
お肉でさえもほとんど流通していないことがわかりました。
最後にひとことあればお願いします。
(ジビエレザーの現状について)私もどうにかしたいと考えていますが、法律や柵の関係で私にできることはせいぜい高値で原皮を猟師から買って市場にレザーとして流すことくらいです。
ぜひレザーよろしくお願い致します。
ありがとうございました。
まとめ
今回のインタビューでわかったことをまとめます。
なお、令和3年12月に農林水産省が発表した資料によると、ジビエとして流通している肉は捕獲された頭数のうち約10%とのことです。
参考資料 知って!楽しむ!ジビエ(R3年12月)-農林水産省
広島県のジビエレザーの現状は、バリードさん一人でほとんどのジビエレザーを作り、5%まで引き上げている現状です。
各都道府県にバリードさんのような方ががいてくれればいいのですが。
インタビューから情報はありませんが、日本全体で見れば皮が再利用されて革になっている割合はもっと低くなるのは間違いないはずです。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが平成29年に行った調査によると、日本国内全体で生産されているジビエレザーの数は、多くても8,000枚程度。
エゾシカは比較的まとまったロットで生産されており、ヒアリング先で把握した数値を合計すると年間4,900~5,100枚程度(うち900~1,100枚程度は委託加工)である。
出典 平成29年度皮革産業振興対策調査等(野生害獣の駆除等により生じた皮革の利活用に関する実態調査等)― 三菱ufjリサーチ&コンサルティング
エゾシカ以外のシカは、調査で開示された数値を合計すると年間2500~2800枚程度であ
る(うち150~250枚程度は委託加工)である。最大の取り扱い数は年間2,500枚程度で、
他は年間100枚に満たず、1回あたり50枚以下の依頼が多い。
すくな!趣味のレザークラフター需要もまかなえない量ですね。
ジビエレザーの生産量の少なさを解決するためにまず必要なのは若い人材です。若い人材を集めるためには、猟師がきちんと稼げる仕組みを作る必要がありそうです。
結局猟師が儲からないといわれてるのは駆除費に依存してる体質たからなんですよ
— 国産ジビエレザー専門ブランド VARIED (@TH75424470) August 29, 2021
民間が肉や皮、角や牙などを買い取ってくれるようになればある程度利益がまして職業猟師も増えるのです
そのお手伝いを私は一猟師としてしたいと思ってます
そのために我々にできることは、ジビエを食べ、ジビエレザーで良い製品を広め、良さを発信していくこと。
じゃあ一般のかたになにができるの?って話なのですが、肉でも革でも角でもなんでもいいのでお近くのお店やジビエ料理を出すレストラン、知ってるかたから買ってあげてください。
— 国産ジビエレザー専門ブランド VARIED (@TH75424470) August 29, 2021
それがジビエ産業の利益に繋がり、猟師の生活の糧になります。
ジビエレザーは我々革製品の作りてから見てもまだまだ認知度が高まっておらず、私のブランドdeteでも製品化はこれからという状況です。
ジビエやジビエレザーの価値が高まって、現場の方にも還元される仕組み作りをみんなで担っていけたらいいと思います。
南米で捕獲される野生のペッカリー(イノシシの仲間)レザーは、ヨーロッパでは最高級レザーの一つとして扱われています。
この事例は日本のジビエレザーにとっての希望の光といえるでしょう。
仕入れる側は、安く仕入れようとするのではなく、適正な代金を払い、販売する時にはきちんとその分を載せていただかなくてはいけません。
そのためには、お客様からの理解を得る必要があり、「食べたい」「欲しい」と思ってもらうためのアピールが大切になってきます。
課題は多いですが、ジビエ(肉)もジビエレザーもどちらもとても魅力的な商品です。
微力ではございますが、今後も情報発信や商品の販売で日本のジビエ文化発展のお手伝いができればと考えています。
ところで、そもそもシカやイノシシを獲る必要あるの?
そんな方には、鳥獣被害問題とは?ジビエレザーは解決策になり得るかを読んで欲しい。
日本がかかえている鳥獣被害の問題が見えてくるよ。
最後に、インタビューにご協力いただいたバリード(@TH75424470 )さんにあらためて感謝申し上げます。
ジビエレザーについては、ジビエレザーって何?品質、メリット、問題点、買えるお店解説でさらにくわしくお話ししています。
この記事は以上です。長文お付き合いいただきありがとうございました。
参考資料 平成29年度皮革産業振興対策調査等(野生害獣の駆除等により生じた皮革の利活用に関する実態調査等)― 三菱ufjリサーチ&コンサルティング
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