久しぶりにバッグを出したら金属と触れていた部分が黒くなった
レザークラフト中に革を濡らしたらポツポツと黒く変色した
そんな経験がある方もいるのではないでしょうか。ショックですよね。
これらの原因は鉄とタンニンの化学反応が原因の可能性があります。
※タンニンなめし:ウォルナット、ミモザなどから抽出したタンニン(ポリフェノールの一種)を使った製革方法のこと。ヌメ革など。くわしくはタンニンなめし革とクロムなめし革のちがいをご覧ください。
最初に記事のポイントをまとめます。
タンニンなめし革に黒い点ができる現象を実演
タンニンなめし革は、鉄をふくんだ金属と触れた状態で長期間置かれるか水に濡れると黒っぽく変色します。
実験手順から結果まで
タンニンなめし革の表裏両面に鉄粉をこすりつけ、水滴を垂らして一晩置きました。
鉄粉を載せた上に水滴を垂らし革に染みこませます。これを表裏両面に行います。
一晩置くと水分が革にしっかりと染みこみ、鉄とタンニンが反応して黒っぽい斑点ができました。
鉄粉の色ではなく化学反応なので払っても落とせません。
タンニンなめし革が鉄で黒ずむ理由
鉄製品を液にひたすとタンニンと鉄の化合物が生じ、水に溶けなかったこの化合物が鉄の表面に付着して黒っぽく見える、ということになります。
出典 黒錆加工の原理とデメリット|紅茶を使うタンニン染めは黒錆なのか?
引用した一文は鉄を黒さびさせる方法について書かれたものですが、革が鉄で黒くなる現象についても同じだと考えられます。
タンニンと鉄がむすびつくとタンニン鉄になり、黒く変色します。
鉄粉がついた覚えがないんだけど…
鉄粉以外にも、鉄の成分が革につくリスクは意外と多いです。
たとえば、刃物に触れた手で革製品に触ったり、塗装がはげた手すりをつたった雨水がかかったり、ビニール傘から滴った水がかかったりなど。
鉄ではなくても、鉄を含んだ金属が反応する場合もあります。
革と金属は近づけないようにしましょう。
次の章では、鉄で黒くなったタンニンなめし革の直し方についてお話しします。
鉄による革の黒ずみをクリーニングするにはクエン酸が有効
タンニン鉄の黒ずみを直す方法として、「レモン汁」「粉末のクエン酸」などが挙げられます。今回は、手に入りやすく(百均でもスーパーでも買える)安全で濃度の調節もできるクエン酸を試してみましょう。
※レモン汁の場合もレモン汁にふくまれるクエン酸の作用と言われています。
【実験】鉄で黒くなったタンニンなめし革にクエン酸水溶液をつけると色がもどる
大さじいっぱいの水に小さじ1杯(最初に小さじ1/2で試して効果が弱かった)のクエン酸を溶かします。
比率は水:クエン酸=3:1です。
クエン酸水溶液をpH試験紙につけると、pHは2~3くらいでしょうか。
pH試験紙はAmazonで買ったもの。
ちなみに、水道水につけるとほぼ中性(うす黄緑色)を示しました。
クエン酸水溶液を、鉄を反応させたタンニンなめし革に塗ってみます。
完全に乾くまで数時間放置します。
すると、塗ったところだけ色がもどったように見えます。
クエン酸水を塗る前とくらべてみます。
写真で見る感じではかなり改善しましたね。ですが、実物ではまだ黒っぽく残っている部分がありました。
しっかり革に水分を浸透させる必要があると判断し、今度はティッシュを載せてクエン酸水でパックし、一晩置いてみます。
結果は写真の通り。
拡大してみましょう。
最初の写真と比較します。
ほぼほぼ元通りといってもいいレベルまで改善しました。大成功です。
黒くなったタンニンなめし革にクエン酸水を塗る実験のまとめ
鉄で黒くなったタンニンなめし革はクエン酸水でパックするときれいになる場合がある
クエン酸水溶液の比率は水:クエン酸=3:1です。
ピンポイントで塗るよりも、全面をパックして革にしっかり浸透させるのが効果的だとわかりました。
この方法は、革の水ぶくれや水シミを防ぐ意味でもメリットがあるやり方です。
関連記事 ブライドルレザーを濡らした時の対処法&水ぶくれができたときの直し方
※クエン酸水は酸性です。革の種類によっては見た目や革質に影響が出るおそれがあります。
厳密にいえばアルカリを足してpHを少しもどすのが最善なのかも(革のペーパーは弱酸性〜酸性)しれませんが、へたにアルカリを足すと今度はアルカリによる変色がこわい。
クエン酸水パック後のお手入れは、柔らかい布でやさしく水拭きし、乾いたらクリームでお手入れしてください。
水拭き後のお手入れについては、革財布が濡れた時の手入れ方法と乾かし方|革職人直伝を参考にしてください。
消えた鉄汚れがアルカリで復活して革が黒くなることはあるか?
クエン酸で色がもどったってことは、アルカリ性の物質で還元されたらまた黒くなったりして?
これも気になったので実験してみました
結果は、重曹水でパックした部分の一部が黒っぽく変色しました。
しかし、これはどうやら鉄とは関係なく、アルカリ性のpHか重曹の成分かのどちらかに原因がありそうです。そう考える理由は、鉄をつけていない革に重曹水をつけても黒く反応したからです。
実験の内容を紹介します。
【実験】アルカリ性水溶液をタンニンなめし革につけたら黒くなったが…
うちにあるアルカリ性で安全なもの「重曹」で試しました。
クエン酸のときと同様に、大さじ1の水道水に対して小さじ1の重曹を融かします。
pHは9から10の間くらいでしょうか。
数時間置いて乾くまで待ちます。
結果は、黒い輪状のシミが残り、床面にははっきりと赤黒く染まった部分が確認できました。
最初に黒くなった箇所とちがうところが染まっているため、この時点では鉄の影響によるのかどうか判断できませんでした。
鉄は関係なく重曹水をつけたら革が黒く変色した
先ほどの重曹水で黒くなった結果とタンニン鉄の関係を調べるため、今度は鉄をつけていないタンニンなめし革(さきほどのサンプルと同じ革ですぐ近くの部位)に重曹水パックしてみました。
一晩置いて乾燥させたのが次の写真。
まるで焦げたかのように黒くなり、パックしたティッシュにも色がついています。
このようにはっきりと赤黒い色に染まりました。
この色変化は革と重曹にふくまれる成分の化学変化でしょうか?それとも、アルカリの洗浄作用で革の染料が浮き出たものなのでしょうか?
どうやらタンニンとアルカリの化学反応による可能性が高そうです。
タンニンとアルカリが結合すると黒く変色する
木材には「タンニン」「リグニン」という成分が含まれています。
出典 特集!月刊 梅江製材所 第78回 「お掃除にご注意!杉板×重曹に落とし穴」
このタンニン&リグニンがアルカリ性の物質と触れ合ったときに化学反応を起こし、無垢材が黒く変色してしまうのです。
重曹水で革が黒く変色した原因はやはりアルカリの可能性が高そうです。
タンニンなめし革にふくまれるタンニン(木材由来のポリフェノール)と重曹のアルカリが化学反応を起こし黒く変色したと考えられます。
引用先では、アルカリで黒くなった木材を酢で中和したら黒ずみが和らいだ結果を掲載しています。
紅茶にレモン汁を入れると色が明るくなります。逆に重曹を入れると・・・?
お試しあれ!
(ということは赤ワインも?)
革のpHとアルカリの影響について別記事でまとめました。くわしくは、革はアルカリ性に弱い?そもそも革のpHは?重曹水に浸した結果をご覧ください。
革に黒い斑点ができる理由とクリーニング方法のまとめ
鉄で革が黒くなる現象の実演と、クリーニング方法について解説しました。
革は鉄や鉄をふくむ金属と触れさせておくと変色することがあります。鉄をふくんだ水にも注意が必要です。
一度変色すると完全に元通りにするのはむずかしいですが、クエン酸水でパックして改善させることが可能。
今回、クエン酸水溶液の比率は水:クエン酸=3:1で行いましたが、変色の度合いや革質(デリケートさ等)を考慮して濃度を調節してください。
やり方はティッシュを載せて液をしみ込ませてパック。乾くまでおくだけ。
クエン酸水パック後は、革のpHが下がりすぎている(酸性よりになっている)可能性がありますが、革にアルカリをつけて元に戻そうとするのは得策ではないと考えます。
クエン酸水パックの後のお手入れは、柔らかい布を湿らせて水拭きし、乾いたらクリームを塗りましょう。
おすすめクリームと濡れた革のお手入れ方法は、革財布が濡れた時の手入れ方法と乾かし方|革職人直伝をご覧ください。
長文お読みいただきありがとうございました。
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