鳥獣被害ってどんな問題?
レザーとどう関係あるの?
鳥獣被害って私たちと関係あるの?
そんな疑問を持った方にお伝えする内容です。
先にタイトルのオチを言ってしまうと、鳥獣被害問題は、私たちがジビエを食べてジビエレザーを使うだけで解決する問題ではありません。
ですが、ジビエを食べることやジビエレザーを使うことに価値がないか?というとそれはちがいます。
野生鳥獣による被害に苦しむ農林水産業に関わる方への貢献になり、自然の循環を促すことができます。
一緒に考えてみましょう。
今回ちょっと漢字が多めですが、できるだけわかりやすく要約した内容にしています。
ゆっくり最後までお付き合いいただけたらうれしいです。
まず、簡単にジビエレザーについて触れておきます。
ジビエレザーというのは、ジビエ肉を採った残りの皮を原料に作られるレザー(革)のことです。
国の推し事業の一つでもあります。
捕獲鳥獣のペットフードや皮革等への有効利用、ジビエ利用における衛生管理の高度化
引用元 鳥獣被害の現状と対策
の促進等を国等が講ずる旨を明記。(R3改正時)
ジビエレザーについてくわしくは、ジビエレザーって何?品質、メリット、問題点、買えるお店解説をご覧ください。
鳥獣被害問題|シカやイノシシが増えると何が問題なのか?
など。
参考資料 鳥獣被害の現状と対策 農林水産省 農村振興局
ちょっとだけ深掘りしてみます。
農作物への被害は毎年100億円を超える
シカ、イノシシ、サル、カラス、その他鳥獣による令和2年度の農作物被害は161億円でした。これは、農業が盛んな福島県郡山市の農業産出額とほぼ同額です。
平成22年の239億円をピークに減少しつつありましたが、下げ止まりの兆候があります。また、農林水産省は現状の数字を「依然として高い水準」と認識しており(参照 農林水産省HP)、被害を深刻にとらえています。
鳥獣被害の深刻なところは金銭的な被害だけではありません。
被害によって農業従事者のモチベーションが下がり、農業離れが進んでしまっているということです。
やってられない。もう農家は辞める。
その先にあるのは、おいしい野菜やくだものが食べられなくなり、品質が上がることなく値上がりしていく未来です。
数字からは見えてこない深刻さがあります。
シカに食べられて樹木が枯れる
シカは、冬に食べ物が少なくなると、木の外側の皮を剥いで食べてしまいます。これにより木が枯れ、長年育ててきた森林資源が被害を受けているのです。
木の皮を食べる動物は、森林に棲む中ではシカだけなんだそうです。
木の皮を栄養にできるなんて鹿ってすごいですね。
話がそれますが、シカの消化器官について調べてみたら大変興味深かったので、ちょっとだけお付き合いください。
栄養価の低い樹皮を食べて生きていけるのは、シカの特殊な消化器官のおかげです。
シカの胃は4つの器官からなり、その中で一番大きな胃では食べ物を発酵させるために微生物を共存させていて、植物を発酵させて消化しています。
さらに、微生物の力で植物のたんぱく質を分解してさらに大量の微生物を合成し、それを肉代わりのたんぱく質として消化しているんだとか。
シカの胃袋ハイテクすぎる。
参考資料 » No.146 樹皮剥ぎはシカの「食文化」になっている|野生動物保護管理事務所(WMO) – シカ・クマ・サル・外来種の調査
話を戻します。
背の低い草や木の芽が食べられて土壌が流出する
シカの主要な栄養源はササなどの下層植生(草本と低木層)です。
シカの生息域が広がって下層植生が減り、土砂崩れが起きやすくなったり生態系が乱れたりといった問題を引き起こしています。
令和2年度の鳥獣による被害面積は、約6000haにもおよぶとのことです。
希少植物がシカに食べつくされてしまっている地域(南アルプスの一部など)もあり、環境省肝いりでシカの捕獲を呼びかけています。
参考資料 いま、獲らなければならない理由-環境省
シカの個体は減っている!?それでも捕獲を続ける理由
シカの個体って減ってるの!?じゃあどうして獲る必要があるの?
減ってはいるけれど、目標の数値にはまだまだ届いていないんだ。
環境省と農林水産省は、平成25年12月に策定した『抜本的な鳥獣捕獲強化対策』において、当時285万頭いたシカと105万頭いたイノシシを、10年かけてそれぞれ約半数の135万頭と52万頭に減らす目標を定めています。
これを書いている時点でわかる最新の数字によると、令和元年の北海道を除く野生のニホンジカの頭数は189万頭と推測されていて、4年後の令和5年の目標135万頭まではまだ遠いです。
広く理解を求めるために、設定した目標頭数の根拠が欲しいところではあります。
問題点のまとめ
まとめると、シカやイノシシの数は減少傾向にはあるものの依然として多く、農作物や林業(触れませんでしたが漁業にも)に深刻な影響をあたえ、さらには従事者のモチベーションを下げて離農者を増やしている。
そして土壌や生態系への影響も心配されていて、国を挙げて早急な対応が求められているということです。
今行われている鳥獣被害対策→ジビエがトレンドに
どんな対策が行われているのか見てみましょう。
鳥獣被害被害への対策は、鳥獣被害防止特措法という法律にもとづいて行われています。
鳥獣被害防止特措法とは?
鳥獣被害防止特措法には、キャッチコピー的に「(鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律)」なんていうむずかしい注釈がついています。
要は、
ということです。ちゃんと数年に一度改正されていて、生きた法律なのかなという印象です。
令和3年の改正では、狩猟免許の技能講習の一部免除期間を延長したり、捕獲隊員に多様な人材を確保できるようにしたり、ジビエをペットフードや皮革に利用するノウハウを国が提供したりといった内容が加えられました。
めっちゃ噛みくだいた要約にしましたがそれでも漢字が多い。。。
捕獲隊員に多様な人材を…っていうのは女性や若手が活躍できるようにということなのでしょうか。最近メディアで若い女性の猟師が取り上げられることが多い印象です。
平成30年度と令和3年度の変化。捕獲中心の対策へ?
平成30年度と令和3年度の「鳥獣被害の現状と対策」資料を読み比べてみたところ、令和3年度はより捕獲に力を入れていく潮流を感じました。これはあくまでも主観です。
平成30年度の資料:捕獲・防止・環境管理を3本柱とした内容
↓
令和3年度の資料 :捕獲についてと、捕獲したジビエの活用法が中心
令和3年度の資料は捕獲を前提とした内容が多くなりました。より実践的なノウハウが書かれています。
被害額は平成30年度まで減少傾向でしたが、目標には届いていないことで方向性を変えたのかもしれません。
参考資料 鳥獣被害の現状と対策 – 農林水産省(PDF) 平成30年度
参考資料 鳥獣被害の現状と対策について(令和3年10月)- 農林水産省
2021年はジビエがトレンドに
2021年はジビエが脚光を浴びた一年だったと感じています。
ニュースで取り上げられる機会が増え、猟師をテーマにした漫画が話題になり、テレビのバラエティー番組でも扱われるようになりました。
ジビエが食べられるレストランや食品も増えましたね。ロッテリアのジビエ鹿肉バーガーや、無印良品の猪肉と3種の豆のカレーと鹿肉とマッシュルームのカレーが話題になりました。
そしてここ数年、アルソックやNTTドコモなど日本を代表する企業がジビエ産業に参入しています。
これらは、国や実際に被害に遭われている方の発信の成果だと思います。
いろいろと考えるきっかけになってくれたらうれしいですね。
ジビエレザーの鳥獣被害問題解決への貢献度は?
業界内でじわじわとジビエレザーの波が育つのを感じつつある昨今ですが、これが鳥獣被害問題に貢献できているか?となると話は別で、まだまだほとんど影響を与えらえていないのが現実です。
というのも、もともと革というものは肉のおまけのようなものなので、商品としての肉が動いてくれない限り進みようがないのです。
とはいえジビエレザーが完全に蚊帳の外かというとそうとは言い切れません。
魅力的なジビエレザー製品に注目が集まれば、需要が高まり、シカやイノシシ原皮の取引価格も上がってくるでしょう。
その後猟師の稼ぎが増え、猟師をしようと考える若い層がすこしでも増えてくれたらと思います。
現場を知る方からしたら夢のような話に聞こえるかもしれません。猟師の方の現実はなかなか厳しいと聞いています。
でも、できることを一つずつやっていくしかありません。
先日国産のシカ革を仕入れました。うちのブランドdeteでも製品化できないか研究中です。
このブログでも引き続きジビエについて考えるきっかけを投げかけていくつもりです。
命の大切さと鳥獣被害問題。ジビエは動物がかわいそう?
鳥獣被害の問題と縁がない方からすれば、「殺すなんてかわいそう」という感情を持つ方もたくさんいると思います。
それは自然な感情です。誰もが思う感情だと思います。
ただ、同じようにかわいそうと思いながらも、そうもいっていられない深刻な状況にさらされている方がいるのも事実です。
お互いに理解し合えたらいいですね。
動物の命について議論し始めると、
じゃあウシの肉は?
マグロは?
コオロギ(虫食)は?
ジャガイモは?
キャベツは?
シカにかじられて枯れていく木は?
イノシシに畑を荒らされる農家の方は?
さらには動物実験の上で成り立つ医薬品や化粧品は?とキリがなくなってしまいますね。
命を奪うこと自体に残酷性があるのは事実です。
でもヒトは他の動物と同じように、動物や魚や野菜の命をいただかないと生きていけない生き物です。
病気の治療につかう薬も動物実験のおかげで成り立っていますね。
そこから目をそらして生きていくことはできません。
善か悪かは宗教とか哲学みたいなところに触れてしまうので、門外漢の私にはよくわからないです。
ただ言えるのは、ヒトとシカやイノシシが共存していくためには数の調整が必要だということ。
そしてその結果得られた肉や皮は余すところなく利用してあげるのが礼儀なのではないかと私は考えているということです。
まとめ
鳥獣被害の問題とジビエレザーについて書きました。
鳥獣による主な被害は次の通りです。
など。
農家や林業に直接的な被害があるだけでなく、被害者のモチベーションが低下して離農することも見えない問題になっています。
また、特定の植物が食べられることで生態系に悪影響が出ているほか、土砂崩れの原因になっています。
シカとイノシシの数は減りつつありますが、環境省と農林水産省が策定した目標頭数には届いておらず、国をあげて捕獲中心の対策に今後も力を入れていくようです。
ジビエレザーがこの問題に貢献するにはかなりがんばらないと効果はなさそうですが、革の魅力を伝えることで後押ししていければと考えています。
ジビエレザーについて興味を持っていただけたら、合わせてジビエレザーって何?品質、メリット、問題点、買えるお店解説もご覧いただけたら幸いです。
この記事は以上です。長文お付き合いいただきありがとうございました。
参考資料 鳥獣被害の現状と対策-農林水産省
参考資料 捕獲数及び被害等の状況 || 野生鳥獣の保護及び管理[環境省]
参考資料 平成29年度皮革産業振興対策調査等(野生害獣の駆除等により生じた皮革の利活用に関する実態調査等)― 三菱ufjリサーチ&コンサルティング
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