「ブランドの○○と全く同じ革で作りました」
そんな謳い文句を掲げるバッグブランドを時々見かけます。
これって本当なの?嘘はないの?
と気になる人もいるのではないでしょうか。
某質問サイトで見つけたとある回答について思うところがあったから。
文体を変えていますが、その方の回答は以下のような内容でした。
「○○ブランドの革を日本のメーカーが使えるはずがない!日本のメーカーはウソをついている。」
これについて私なりに思うことをお話しします。
先に結論を書いてしまうと、この回答者さんは誤解している部分があります。。でも全部まちがってるとも言えません。
なんとも煮え切らない回答ですが、きちんと掘り下げて解説するのでご安心ください。
「ハイブランドの〇〇と同じ革を使っています」というメーカーにウソはないか?
同じとは言えない理由
理由ですが、実物は全く同じだけど、名前が違うからやっぱり違うということ。
何それ?
ちょっとわかりにくいと思うので、少し整理しながら説明しますね。
Aというブランドは、タンナー××社のXという革に、独自のX’という呼び方を付けて使っているとします。
ブランドBやCがXの革で財布を作ったとしても、『同じ見た目の革を使った財布』を作ることはできるが、それはあくまでもXを使った財布であって、X’を使った財布ではないということ。
しかし品質については、XもX’も、同じタンナーが同じ製法で作った革であり、当然ながら見た目も同じ。
※スーパーコピーや並行輸入品を指しているわけではありません。
これが良いことなのかどうかは別ですが、ブランドってそういうものだと思う。
並行輸入とかじゃないの?
すべての革の流通経路を把握しているわけではありませんが、日本の革問屋が代理店契約をして正規取引している革素材は少なくありません。
また、海外の一流タンナーが直々に日本の展示会に出展することもあります。
数年前に、フランスのAlran(アルラン)社という山羊革の有名タンナーが日本最大の革の展示会「東京レザーフェア」に出展していました。
日本で買えるヨーロッパの高級皮革
ハイブランドでも採用されるタンナーの高級皮革は、日本国内でも購入できます。
たとえばこのトリヨンラグーン。
一般的にはトリヨンクレマンスの呼び名が使われています。
この型押しカーフをヴォ―エプソンと呼ぶメーカーもあります。
先にすこし触れたアルラン社の山羊革です。
アルランの革について詳しくは、アルランゴート”シュリー(シェーブル)”ってどんな革?|プロの目で特徴を深掘りをご覧ください。
紹介したヨーロッパ皮革は、私の革製品ブランド「dete」で使用しているものの一部です。
これらの革には、タンナーが付けた名前とは別に某ブランドが付けた固有の名前があり、日本のブランドでも後者で呼んでいるところもあります。
deteの呼び方は以下の通りで、ブランドが付けた名前は使用していません。
≪deteでの革の名称の付け方≫
- タンナーが名付けた革の名前
- deteオリジナルの呼び方
のどちらかを採用しております。
やっぱり良い素材は良い素材なんですよね。だから使う。それだけのこと。
『ブランドAと同じ素材』と言ってしまうとややこしくなる。
大手ブランドはどうして革の名前を商標登録しないのか?
資本力があっていくらでもできそうだし、他のブランドと差別化もできるのにって思いますよね。
こういった事情に詳しい革屋さんに聞いたところ、ブランドが採用している革の名称は、ヨーロッパでは一般的に使われている言葉そのままだったり、もしくはその単語があまりに一般的になり過ぎて認可が下りないのだとか。
Chèvre – シェーブル(山羊の意味)や、taurillon – トリヨン(雄牛の意味)とかもそうですね。”山羊”で商標登録しようったって無謀というものでしょう。
なお、この記事で申し上げていることは法の専門家が言っていることではありませんので悪しからず。商標や権利の侵害について正しい知識を得たい方は、お金を払って専門の弁護士に相談しましょう。
高級革のタンナーは個人にも販売してくれるの?
販売してくれます。
多くの場合、個人ではロット数が大きくて買えないので代理店を通しますが、数がまとまれば個人でタンナーと直接取引することも可能です。
タンナーの立場に立って考えると、ハイブランドに卸せば自社に箔が付くわけですから、それを利用しない手はないですよね?
下請けだけにとどまるよりも、お得意様にいい顔をしつつ、同時に外の世界にも売り込んだ方が旨味があるというわけです。
ヨーロッパ皮革卸のK2 INC.がAmazonで輸入皮革を小売りしています。
同じ革だとしても品質は違うんじゃ?
同じとは言っても、大手ブランドにグレードの高い革が優先して供給される可能性はありますが、これは主に歩留まりに関わる部分。
悪い部分があるのなら、職人の判断で省き、良い部分だけを使えばいいということです。
ただ、いい部分だけを使えばいいと言っても、良くない革ばかり回されてしまうと、使えない部分が多くなり、利益を圧迫してしまいます。
そうなるくらいなら、無理してそういった素材を使わず、もっと良くしてくれるタンナーや革屋さんと付き合った方がいい結果になる場合もあります。
ハイブランドが使う革は日本でも自由に買えるようになってきたけど、『どこから買うか』はとても大切
ここ数年で、日本で買える革のバリエーションはグッと増えました。
特に、ヨーロッパの高級素材が革が普及しましたが、似たような革が多く入ってきたことでシェアの奪い合いになり、供給が飽和しているとも言えるかもしれません。
ここだけの話ですが、2019年にイタリアンレザーの販売を中止し、国産革に原点回帰した革問屋もあります(社長から直に聞きました)。
付き合う業者選びも大切
新しく業界に参入した業者も増えているのですが、中にはあまり評判の良くないところもあるらしいです。
革屋さんを選ぶ時は、もしできるなら、自分で足を運び、革をどのように扱っているか、保管状況に問題は無いかを確認しましょう。
言うまでもなく、革製品メーカーにとって、革は仕入れの中で一番大切な材料。そして、ずっと付き合う会社だからこそ、信頼出来て相性の良い会社と仲良くしていきたいですね。
これは、お客さんが革製品を選ぶ際にも言えることですね。
「ハイブランドが使う革を使うメーカー」と革の名称についてのまとめ
ハイブランドと同じタンナーの革は日本でも買えます。
ハイブランドが仕入れた革も日本国内で流通する同種の革も、同じタンナーの同じ製法で作られた革です。
なので、
日本のメーカーだからハイブランドの革が買えるはずはない。ニセモノでは?
というのはちょっとちがう。でも見方を変えれば半分合っているとも言える。
同じタンナーの同じ製法の革でも、ブランドAを通っていなければ、X(タンナーが付けた商標)はXであって、X’(ブランドが付けた商標)ではありません。
ブランドが名付けた革名は、そのブランドを通った革だけに名付けるのが望ましいと思いますが、その他メーカーもブランドが付けた革名にあやかっているのが現状です。
革質は本物なのですから、ブランドが付けた名前でなくて、タンナーが付けた名前や自社で付けた名前で勝負してもいいのでは?と思います。
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長文お読みいただきありがとうございました。
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