革製品に入れる捻引きについてお話しします。
革製品のふちに入っている溝のことかざり捻といい、この加工工程を捻引きや捻入れと言います。
英語圏ではLeather Edge Creaser(レザーエッジクリーサー)で通じます。
コバ処理の工程のなかの一つともいえます。
主にメンズの高級革製品ならほとんどの製品に入っていると思います。
捻は一見地味ですが意外に深く、捻次第でクオリティはまるでちがいます。
言われてみれば見たことあります。
でも何のため?
そんな疑問にこたえる内容です。
捻引きの目的と効果
まず、何のために捻引きをするのか?
その目的(入れる理由)についてです。
- 美しく仕上げるため
- 丈夫に仕上げるため
捻引きの主な目的は装飾
捻引きの主な目的は、革のふちを引き締めて美しく仕上げること。
つかう方からしたら些細な事かもしれませんが、あるのとないのとでは大違い。
詳しくない方でも、見比べれば「雰囲気のちがい」を感じていただけると思います。
捻引きの装飾効果
捻を入れた革製品と、同じ素材で捻を入れていない製品とを見比べてみましょう。
丈夫に仕上げる効果もある
熱の効果で革がギュッと引き締まり、丈夫なコバ(断面)に仕上がります。
また、蜜蝋を使ったコバの場合、蜜蝋を革の中までしみ込ませる目的でも使われます。
蜜蝋を革の芯までしみ込ませることにより、コバの毛羽立ちが起きにくくなるほか、耐水性も上がります。
蜜蝋のコバ処理方法を☟の記事で紹介しています。
捻は、ただ線をきざむだけではありません。
コバから溝までの間全体に熱を加え、ふっくらさせたり押しつぶしたりと、捻の種類によっていろいろな効果をもたらします。
数ある捻の中からどれを選ぶのか?
製品によって最適なものを選びます。
捻(ネン)の種類|フチ捻、ネジ念、一重捻、押し捻
捻と名前がつく道具はいろいろありますが、今回は革小物やバッグ作りに使う飾り捻用の捻だけを紹介します。
※製法ではなく道具の名称です。
- フチ捻(玉捻)
- ネジ捻(二重捻)
- 一重捻
- 押し捻
フチ捻(玉捻)
フチ捻は玉捻とも呼ばれます。
ガイドになる長い側と、溝を引く短い側がつながっていて、その間はアール状にくぼんでいます。
このくぼみがポイント。
☝は、フチ捻で引いた捻。
溝をきざみながら、溝とコバの間がぷっくりとふくらんだ仕上がりになります。
とある道具屋の方は、「カマボコ型」という表現をしていました。
写真の捻は、専用のやすりを使って自分でけずって仕立てています。
仕立て方について詳しくは☟の記事をどうぞ。
最近は既成のフチ捻も売られていますね。
ネジ捻
刃のような薄い鉄が二枚ついており、二重捻とも呼ばれます。
ネジ捻の名前の由来はこのネジ☟。
ネジを締めると幅が広がり、ゆるめるとせばまります。広げる時の方が抵抗が強いです。
つまり普通のネジと逆まわり。
フチ捻とちがい、溝とコバの間全体を熱することはできません。
その代わり、幅を自由に設定することができ、自由度が高い使い方ができる道具です。
たとえば、こんな風に使うことができます。
玉捻とステッチを通りこし、中に入れた芯のふくらみのキワに捻を入れています。
ちなみに、このネジ捻は、手縫いのガイドを引くネジ捻と同じ物です。
ネジ捻については、ネジネン|ディバイダー|ペン付きコンパスの使い分け方〈革に線を引く道具〉でも書いています。
掲載した写真のネジ捻は、楽天のぱれっとさんでマスターネジ捻として販売されている商品と同じ物です⇩
一重捻
一本線の捻。
ただの線だと思ってしまうかもしれませんが、仕立て方で仕上がりはまるで違うものになります。
角をいい感じに丸め、角度をいい感じにけずり、いい感じの厚みに自分でけずって仕立てています。
他の捻とちがい、コバをガイドにして引くことができないので、定規をあてて引くことになります。他の捻が使えない内側の部分に使います。
特にこだわりがなければ、モデラを一重捻代わりに使うこともできます。
押し捻
他の捻は溝をきざむ捻なのに対し、押し捻は溝はきざみません。
では何をするのかというと、コバから任意の幅で押し込んでへこませ、立体感を強める効果をもたらす捻です。
L字を寝かしたような形状になっており、短い側がコバにあたるガイド部分、長い辺の内側全体で熱しながら押し付けて革を圧縮します。
他の捻に比べて接する面積が広いので、きれいに磨かれているかどうかが極めて重要です。
磨かれていないと、傷ついたり、銀面が引っぱられてしまいきれいに仕上がりません。
捻の入れ方
捻は、熱した状態で使います。
熱し方は、アルコールランプや電熱器で熱する方法と、電熱線を仕込んだ電気捻を使う方法があります。
熱した捻を革のコバにあて、手前に引いて使います。
捻入れ(ネンイレ)という作業をしています。
— dete® (@mkgx81) February 29, 2020
革製品の縁に溝を刻み、熱でツヤを出しながら丸みを付けます。
捻を入れるか入れないかは大違い!全体の雰囲気を引き締めてシュッとした仕上がりになります😆 pic.twitter.com/qIuEICdql5
押し捻+ネジ捻+フチ捻を入れてみる
まず押し捻を入れます。
ふちが平らに凹んで立体的になりました。
次はネジ捻の幅を押し捻と同じに調節し、キワに引きます。
キワに溝が入り、よりメリハリが出ました。
最後に玉捻をコバに引きます。
より装飾的になり、印象が大きく変わりました。
- どんな捻を使うか?
- 幅をどうするか?
- それらをどう組み合わせるか?
これらの要素で捻は決まります。
電気捻は効率と安定をもたらす神アイテム
電気捻は、ヒーターが付いた捻です。
柄の中に仕込まれた電熱線により、常に一定の温度にしておくことができます。
温度は調節機を使います。
導入しやすいのは上記リンク先のような日本の電気捻ですが、きれいな捻を入れる為にはけずったり磨いたりの加工が必要です。
次の写真のような、だれにでも美しい捻を入れられるハイエンドな捻のセットもあります。
出典 Electric leather edge creaser – Etsy
このタイプの捻はエルメスをはじめとするハイブランドの職人や、世界各国の工房で使用されているものです。
うちは自分で加工した捻があるのですぐには必要ありませんが、次に買う時にはこちらを導入するつもりです。
捻についてのまとめ
捻は主に装飾のために入れます。
捻を入れることで、革のフチが引き締まり高級感が出ます。
捻の主な物は4種類。
- フチ捻(玉捻)
- ネジ捻(二重捻)
- 一重捻
- 押し捻
です。それぞれ目的がちがい、組み合わせて使うこともあります。
捻についての記事の内容は以上です。
不明点はコメントでお気軽に質問してください。ゆるく答えます。
コメント
フチ捻(玉捻)、ネジ捻(二重捻)、一重捻、押し捻の4種類の中に溝捻はどの分類になりますか?
溝捻は、フチ捻や玉捻と呼ばれるものと同じものです。
教えていただきありがとうございます。溝捻とフチ捻を使い分けてるのを紹介しているブログとか、溝捻とフチ捻の名前で売られている道具があるので別の物なのかと思いました。
まだレザークラフト初心者なのですが、様々な捻の道具の種類の説明なとが記載のある本とかでオススメありますか?
宜しくお願い致します。
地域にもよると思いますが、フチ捻や溝捻という言葉は最近できた言葉なのではないかと思います。
関東の職人の間ではもともとは玉捻と二重ネン(ネジ捻)ですね。
もともとは自分で作る道具ですので、同じ玉ネンでも、私のように形やサイズを変えて加工し、製品によって複数つかいわけます。
捻はもともと職人以外はさわらないようなシロモノで、趣味の方に浸透しだしたのはここ数年のことです。
まだ教本などは出そろっていないと思います。
このブログ「デテログ」は、そのように出回っていない情報を世の中に広めるお手伝いができればと考えて続けています。
地域によって異なるんですね。
捻の種類がどれだけあって、各用途の使い道などが気になりました。
引き続きデテログ様のブログを拝見させていただき勉強させていただきます。教えてくださってありがとうございました。
道具によっては会社ごとに呼び方が変わるくらいにみんなが勝手に呼び方を決めていたりもします。
そんな情報の整理もしていけたらと考えています。
楽しみにしてます(*´ω`)
ちなみにdete様がよく使う捻はどんな種類ですか?