話題のサステナブル素材『PINATEX-ピニャテックス』とは何なのか?革に代わる素材になるのか?
革職人のレポートです。
2020年3月某日、代理店の営業さんが実物を持って訪問してくれました。
あれやこれや質問して少し詳しくなったので、そこで得た情報をシェアしたいと思います。
ピニャテックスとは?革の代わりになり得るか?
ピニャテックスは、パイナップルリーフ由来の生地の商品名。
『革に代わる可能性があるヴィーガンレザー』と、以前からこのサイト「デテログ」で紹介してきました。
が、実際に手にしてみると全く違った。
結論を先に言ってしまうと・・・
全く別物でした。
じゃあどこがどう違うのか?解説していきます。
革というより紙や不織布やフェルトに近い
ピニャテックスは、革というよりも、紙や不織布、フェルトに近い質感や性質です。
革のような詰まった感じがなく、指で押すとフカフカとした感じで非常に軽い。
柔らかいですが表面は少しハリがあって硬さを感じます。
例えるなら、少ししっかり目のフェルトに、カビの生えたチーズの皮が付いたような感じです。
構造は人工皮革に似ている
構造は人工皮革と非常によく似ています。
一般的な布が繊維を互い違いに重ねる『織り』で作られているのに対し、この素材は繊維が四方八方に絡み合った不織布の構造。
太い繊維を使わずとも厚みを出すことができます。
ピニャテックスの原料
- パイナップルリーフ繊維 72%
- PLA(結着) 18%
- ポリウレタン 10%
PLA樹脂はPoly-Lactic Acidポリ乳酸の頭文字をとった略で、トウモロコシやジャガイモなどに含まれるデンプンなどの植物由来のプラスチック素材だ。
引用 PUとは
ポリウレタン(PU)は別名ウレタンゴムとも呼ばれるプラスチック素材で、ゴムのように柔らかく抗張力(引張り強度)や耐摩耗性、弾性、耐油性に優れている。
引用 PUとは
パイナップルリーフを絡めて作った不織布をPLAで結着し、ポリウレタンでコーティングした素材と思っていただいてOKです。
ポリウレタンは加水分解するのでは?
ポリウレタンって加水分解しません?
このポリウレタンは加水分解しないポリウレタンです。
どういうこと?
ポリウレタンと一口に言っても、ポリエーテル由来とポリエステル由来の2種類に分別されるんだそうです。
安価なポリエステル由来の場合加水分解しやすくなりますが、ピニャテックスに使われているポリウレタンはポリエーテル由来なので堅牢性が高いということらしいです。
エーテル系ウレタンゴムは、結合分子内に-O-を持っており、この分子構造になりますとH2O(水)には影響されません。
一方
エステル系ウレタンゴムは、結合分子内に-COO-を持っており、この分子構造はH2O(水)と反応して-COOH(酸)と-OH(アルコール)に分解されやすいのです。
つまり、ポリエステル由来は水に反応して分解してしまうのに対し、ポリエーテル由来のポリウレタンは水に影響されることが無いということ。
素材についての感想。革が持つ丈夫さや持つ喜び、味わいはゼロに等しいが・・・
革には独特の重厚さや質感があり、それが高級感を醸し出して持つ喜びを与えてくれるもの。
残念ながら、ピニャテックスにはそれが感じられない。
サスティナブルうんぬん抜きに、素材そのものとして勝負ができるかどうかは正直疑問が残ります。
じゃあ、それで生地としての価値が無くなるか?必ずしもそうは言いきれない。
どういうことかというと、使い方次第でファッションとして面白くもできるということ。
例えば、アウトドアウェアではナイロンの生地が良く使われますね。
こういった素材は、生地だけで見ても何の変哲もない素材だったりしますが、服に仕立ててみるとグッとかっこよくなるもの。
やはりコンセプトとしておもしろい
何度も言いますが、ピニャテックスの原料はパイナップルの葉。
それもただのパイナップルの葉ではなく、今までずっと見過ごされてきた廃棄物にスポットを当てた商品だということ。
パイナップルの葉がこんな生地になってしまうのかという小さなストーリーが人の心を動かすのだと思う。
シンプルにおもしろい。
ピニャテックスは売れる素材か?
さて、ピニャテックスがパイナップル繊維でできた生地だということはわかってもらえたと思いますが、多分皆さんが気になっているのは、次のような事なのではないでしょうか。
- 流行るの?
- 素材としてアリなの?
ズバッと答えたいところなのですが、これが日本で売れるのかどうかはなんとも・・・
なんか売れそうなー。 知らんけど
ふざけてるわけじゃないです。本当にわからないんです。
現に、シャネルはこの素材を使った帽子(2,300€ほど)を販売していますし、ヒューゴボスはそれより前からこの素材を使ったスニーカーを作っており、H&Mもしかり。
日本ではまさにこれから(2020年~)ですが、すでにバイヤーやメーカーの注目度は非常に高い。
さらに、サスティナブルという言葉がテレビでも流れるようになった。
じゃあ売れるんじゃないの?
うーん。これから多くの店で見かけると思うしそれなりに広がると思いますが、これが継続するのかどうかはわかりません。
売れる土壌はできています・・・が。
まだ情報が少なすぎるので、今後も調査を続けます。
ピニャテックスを使った商品
ピニャテックスのサイフや、ピニャテックスを一部に使ったキャップなど、国内でも取り扱い商品が徐々に増えつつあります。
ピニャテックスの良いところとがっかりしたところ
- 色の堅牢性が高い
- 撥水性が高い
- 色がおしゃれ
がっかりしたところ
- そもそも革とは見た目も質感もまるでちがう
- 革のような耐久性が無い(ひっぱりに弱い)
- 高級感がない
色の堅牢性が高いところが良い
耐色性能は高い基準をクリアしているそう。ハイブランドに卸しているのですから当然です。
濡れた状態でも色落ちしにくい塗装がされているようです。
撥水性が高い
防水ではありませんが、撥水加工がなされており、多少の水ははじいてくれます。
エーテル系のポリウレタンなので加水分解でダメになる心配もない模様。
色がおしゃれ
色はなかなか良いトコロをついてきた印象。
シーズンごと、別注なども出るかもしれませんが、定番は暖色よりっぽい10色展開(ピニャテックスオリジナル)。
そもそも革とは見た目も質感もまるでちがう
日本で出回り始めた当初、ヴィーガンレザーとして紹介されていたので誤解していました。
そもそも、革の代わりになるような見た目や質感の素材ではありません。
布の生地の中の選択肢としてはアリですが、革に変わる新素材として期待するとがっかりする結果になるでしょう。
革のような耐久性が無い(ひっぱりに弱い)
ここはちょっとがっかりだった。メーカーパンフレットを見ても、革に代替する素材を意識しているわりに、革のような堅牢性の高さが無い。
伸びやすい方向と伸びにくい方向があるのですが、伸びやすい方向に引っ張ると、がんばれば手でちぎれるくらい。
もう少し強い素材をイメージしていました。
弱くて製品として使えない?
じゃあ使えないくらいにモロいのか?というとそこまでではない。
あとは作り手側がどう料理するかです。
革のように芯無しの一枚で使えるかといえば使えない。ただそれだけのことです。
高級感がない
上質な革や布のように、「美しい」とか、「かっこいい」と感情に訴えかけるのはむずかしい素材かなと思います。
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レザーブランド、革問屋がヴィーガン素材を販売することの是非について
私個人の考えを書きます。
※欧州、日本など環境への配慮をしているタンナーの革のみ
肉牛(豚、山羊なども)の皮とパイナップルの葉、原料となる素材はどちらも副産物です。
今後も継続して原料が手に入り、無駄なく利用できる環境に優しい素材だと思います。
革に代わる素材が出ることに反発するメーカーやタンナーの方も多いと思いますが、よく調べもせずに拒否反応を示してしまうのは残念なこと。
これは逆の立場についてもいえることで、革素材を使うことが動物の命を奪うことに直接結びついていないという事実も認めなくてはいけません。
革がアリなのかナシなのか?革に代わる素材がアリなのかナシなのか?固定観念を取り払った上で良し悪しを判断することが大事。
柔軟な姿勢でいてこそ、自分達にも消費者にもメリットを与えることができるものと思っています。
肉大好きで動物大好き自然を愛する私にとって最高の素材は革ですが、革に代わる何かがスタンダードになる日が来るなら、その流れに乗るのもやむなしというスタンスです。
是非あなたの意見も聞かせてください。コメントお待ちしています。
コメント
こんにちは。お聞きしたいのですが、個人でピニャテックスの生地を購入したいのですが、代理店さんなど日本でももう販売しているところはあるのでしょうか。
コメントありがとうございます。
メールで返信差し上げます。
革を取るためだけに、というのは、まーよろしくはないですよね。
しかし食肉が一般的な中で、牛の皮を活用しようというのは極当たり前だと私は思います。
食肉が供給され続けてる間は、廃棄が減って革製品はむしろサステイナブルだと思いますねー。
肉食ってる地域で革製品全般に対して反対って言ってる人が居るのが驚きです。
コメントありがとうございます。
事実を知らない方も多いんだと思います。
牛や豚の革がいかにサスティナブルなのかの周知を徹底してかないといけないと感じています。
はじめまして。
これから植物による革の染色をやってみたいなと考えていたところ、ピニャテックスのことを知りました。革とはまた違った魅力的な素材ですね!革問屋さんでも取り扱いがあるのでしょうか?私も是非教えていただけましたら幸いです。
コメントありがとうございます。
ピニャテックスは革とは全く違った質感の素材です。近いものはフェルトや不織布やスポンジですね。
メールでご連絡させていただきます。
はじめまして。
ピニャテックスの記事、大変興味深く読ませていただきました。
実際にサンプルを見てみたく、恐縮ですが代理店さんをご紹介いただけないでしょうか。
どうぞよろしくお願いします。
メールで連絡します。
初めまして、突然失礼致します。
とても詳しく解説されていて、非常に勉強になりました。
ピニャテックスのような自然皮革の個人での入手方法を探しており、、、
もし可能でしたらご存知の取扱業者さん等お伺いさせて頂けないでしょうか?
ご検討頂けますと幸いです。何卒よろしくお願い致します!
メールでご連絡差し上げます。
読む方が誤解してしまいそうな内容があるので補足しておきますね。
ピニャテックスは皮革ではありません。
パイナップル繊維と化学繊維を使った工業製品です。
自然皮革というものがどういうものなのかは存じ上げませんが、言葉通りにとらえれば、本革が自然皮革かと思います。
生地の販売は可能ですか?
お返事をお待ちしております。
記事の販売はいたしておりません。
大変興味深い内容で、何度も読ませていただきました。
素晴らしい記事をありがとうございます。
私にもよろしければ、ご存知の取扱業者さんをご教示していただけないでしょうか?
何卒よろしくお願いいたします。
何度もすみません。
ピニャテックスに使われているポリウレタンはポリエーテル由来なので堅牢性が高い
という文章はどこから引用していただきましたか?
私なりに探したのですが、見つからなかったので、恐れ入りますが、ご教示のほど、何卒よろしくお願いいたします。
素晴らしい記事を書いてくださり、誠にありがとうございます。何度も読み返しをさせていただきました!
恐縮ですが、私にも取扱業者をご教示していただけないでしょうか?
何卒よろしくお願いいたします。
また、
ピニャテックスに使われているポリウレタンはポリエーテル由来なので堅牢性が高い
という文章はどこから引用していただきましたか?
私なりに探したのですが、見つけられませんでした。
大変恐れ入りますが、ご教示のほど、何卒よろしくお願いいたします。
まなみ様
コメントありがとうございます。
誠に恐れ入りますが、付き合いのある仕入れ先がピニャテックスの取り扱いを辞めてしまい、紹介することができなくなりました。
>ピニャテックスに使われているポリウレタンはポリエーテル由来なので堅牢性が高い
この情報は、当時ピニャテックスを扱っていた問屋が作った資料によるものです。
この問屋は、当時はピニャテックスのメーカーから直接仕入れを行っており、メーカーの社長と直接やりとりしていました。
早急にご返答していただき、誠にありがとうございます!
はじめまして!
記事拝見させていただきまして、ヨーロッパからサンプルを取り寄せました!
生地の購入をしたいのですが、なんせ送料が高額で困っています。
日本国内で販売してもらえる業者さんを教えて頂いてもよろしいでしょうか?
コメントありがとうございます。
残念ながら業者が新規取引をやめてしまったのでご紹介できなくなりました。