他のブランドや職人さんにも当てはまる内容かどうかはわかりません。
あらかじめご了承ください。
既存の形にオプションを追加した商品や、色の変化を加えたカスタムなどはふくみません。
インスタを始めた数年前、オーダーメイド中心に作っている個人の革職人が世界中にいることを知り、驚きました。
中には、息をのむほどのクオリティの高さを見せる職人もいて、世界の広さを感じたものです。
オーダーメイドのものづくりは魅力的。
たった一人のお客様の為にゼロから商品開発するわけですから、こんなに贅沢なことはありません。
作り手としても、お客様に喜んでいただけた時の達成感は他では味わえないものです。
私自身、オーダーメイド中心の革職人になろうとしていた時期もあり、数年前は積極的に受けていました。
でも、続けられなかった。
苦渋の決断でした。
※2020年7月現在、新規のオーダーメイド受け付けはしておりません。
- どうしてオーダーメイドをやめたのか?
- オーダーメイドのむずかしさは何なのか?
- オーダーメイドの価値
についてお話ししていきます。
革職人の私がオーダーメイドを受けない理由
まず最初に結論を。
です。
ここだけだと誤解を与えてしまうかもしれないので、少し掘り下げてお話しします。
オーダーメイドでクオリティを維持することのむずかしさ
オーダーメイドで既製品と同様のクオリティを維持することは非常にむずかしいです。
困難といってもいいくらい。
既製品は試作をくりかえすことでクオリティを高められる
deteでは、新商品を作るとき、必ず試作品を作ります。
試作品は一つだけではなく、求める形や機能になるまでくり返し調整を行います。
仕上がったら自分以外の人に使ってもらい、問題があるポイントをあぶりだしてさらに改良を加えます。
レストランの新メニューでも、家電の新商品でも、履きやすいスリッパの開発でも、一発勝負で販売を始めることはないはずです。
オーダーメイド製作のたびに試作をいくつも作ることができれば既製品同様にできるでしょう。でも、果たして本当にできるでしょうか?
できたとして、それで一か月に一体いくつ作れるか?
お客様の声を次回に活かせる強みがない
オーダーメイドは品質向上の面で既製品に比べると不利です。
既製品の場合、同じ商品を多くの方に使っていただくことで喜びの声やクレームが集まり、「ココをこうすればもっと良くなる」というブラッシュアップができますが、一点ものではそれができません。
オーダーメイド品に対するご意見もとてもありがたいですが、残念なことに、せっかくのご意見を次に生かせずじまいなことが多い。
オーダーメイドで利益を上げることのむずかしさ
利益をあげるのがまたむずかしい。
言い変えれば、利益を上げる為には市場価格と乖離した価格にせざるを得ない。
例として、『作ったことのない構造のラウンドファスナー長財布』を作るにはどれくらいの時間がかかり、どれくらいのコストがかかるのかを考えてみます。
※この例は、個性が強い作品ではなく、お客様のイメージに合わせてつくるベーシックな製品のオーダーです。
例)製作時間
- ミーティング+メールのやり取り・・・3時間
- 試作・・・20時間
- 型紙の製作・・・5時間
- 本製作・・・15時間
☝かなりざっくりな試算です。
もっともかかる場合もあればかからない場合もあります。
裏地にも革を貼ったり、ていねいに厚み加工をしたりする上質な造りのお財布を想定しています。
工賃は時給換算2000円とします。
例)原価
- 工賃・・・43h×2,000円=86,000円
- 漉き加工外注工賃・・・2,000円
- 試作革・・・70ds×100円=7,000円
- 革・・・80ds×150円=12,000円
- ファスナー・・・1.2m×2,000円=2,400円
計109,400円
税込み120,340円
これが原価(コスト)です。
※一つしか試作してなくてこの金額・・・
それ以外に、送料やパッケージその他経費がかかるほか、事業を継続する為には利益を載せる必要があり、売り手都合の適正な価格はもっと高くなります。
モノとしての価値だけを見た場合、お客様にとってそれが適正な価格の範囲内におさまるかどうか?
つまり、その金額で依頼していただけるか?
他では手に入らないオリジナリティが無い限り、むずかしいところです。
逆に言えば、適正な金額で常に依頼がくるようになったらすばらしいことですが。
オーダーメイドにメリットはないの?⇒そんなことは無い
じゃあ、その原価10万を軽く超える財布に、モノとしてそれだけの価値があるかというと、それはかなりむずかしい。
なぜなら、品質で既製品に勝ることがむずかしいから。
既製品には、批評やレビューを受けて改良をくりかえしている商品もある中で、オーダーメイドはそれよりもずっと高いのに一発勝負に近い形で仕上げるわけですからね。
※「オーダーメイドの方が丁ねいで上質なものが作れる」かどうかはここでは別問題です。
ってことはオーダーメイドは頼む価値ないの?
いいえ。そんなことはないです!
オーダーメイドにしかない価値はちゃんとあります!
オーダーメイドの価値
- 人とかぶらない自分だけの色を出せる
- 自分が使いたい機能を足せる(引ける)
- 自分だけの為というぜいたくを体験できる
人とかぶらない自分だけの色を出せる
既製品にはないスペシャルなカラーで注文するだけで、注文する側としては選ぶ楽しみがあり、使う時にも特別感を味わうことができます。
色だけでなく、機能や構造にかかわらない見た目のアレンジだけなら、試作などしなくても問題なく特注品が作れるはず。
自分が使いたい機能を足せる(引ける)
既製品ではまずありえないような特殊な造りにもニッチな需要があります。
逆に、普通だったらあって欲しい機能も省いたどこまでもシンプルなデザインを欲するお客さまもいます。
そういう需要に答えるにはやはりオーダーメイドが強い。
自分だけの為というぜいたくを味わう体験
オーダーメイドは、特注で作ってもらったという優越感や満足感が得られます。
作り手から見ると、オーダーメイド品つくりは製造業というよりも接客業だなと常々感じています。
ではないかなと私は思っています。
そこまでクオリティを追求しなくてもいいのでは?
特別感に価値があるなら、品質にはそこまでこだわらなくてもいいのでは?
という意見もあるかもしれません。
もちろん、私も品質だけにこだわっているわけではありませんが、買う側の気持ちとしては、
普通より高いんだし、その分できが良いものを作ってもらえるんだろう。
と考えて当然じゃないでしょうか?
それを考えると、作り手(私)としてその気持ちに応えなくてはと考えます。
でも、ここまで説明してきた通り、商売の中でそれを実現するのが非常にむずかしい。
そう考えた結果がフルオーダーメイド受注の停止ということです。
なお、今後もカスタムオーダー(色の変更、細部のサイズ変更、オプションの追加など)は受けていきます。
作り手にはメリットがない?⇒そんなことはない!
ここまで話してきてナンですが、作り手にとってオーダーメイド受注にメリットがないかというとそんなことは無いです。
理由は、とても良い勉強になるから。
はじめてのものを作る経験は財産。
勉強ができてお金がいただけるのですから、そんなありがたいことは無いです。
駆け出しのころは、お金の計算よりもがんがん作ってガンガン学んだ方が良いと思います。
こういう考え方でとらえれば・・・先にしたお金の計算とかは一切意味をなさないものになりますが、そのスタンスでずっと続けていこうとするとつぶれますよね。。。
私もそうでした。
数万円の売り上げの為に一週間以上かけたことがあります。。。
お客様の要望だけに応じ続けていたら、それは便利屋さんです。それが悪いということではないですが、受け身の職人の立場は弱いです。
商売にするならどこかで転換しないとやっていけないと思います。
まとめ
革職人の私がオーダーメイドを受けない理由について書きました。
まとめると、
オーダーメイドについて一部ネガティブなことをお話ししましたが、オーダーメイド製作でご飯を食べている人は本当にすごいと思う。
そして、品質と乖離したほどに高額にせざるを得ない部分も好ましくなかった。
これからの方針としては、オーダーメイドを受けていないからといって、どこにでもあるような普遍的すぎる商品展開をするということではありません。
今後もトガる部分は残していく所存です。笑
これからも、deteらしくニッチでかゆいところに手が届く革製品をお届けしていきます。
2021年3月28日
すばらしいオーダーメイド職人を紹介する記事を書きました。
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