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Vergez Blanchard Edge Marking Tool (ブランチャードのネジ捻)の加工方法

レザークラフト道具

当記事はプロモーションをふくみます。

エルメスでも採用されている、フランスの工具メーカー”ブランチャードのネジ捻(ネジネン)を購入して加工しました。

加工方法を写真と共に紹介します。

この記事を書いた人

プロフィール

革職人の経験を活かし、趣味のレザークラフターや革製品のトラブルに悩む方に役立つ情報をわかりやすくお伝えします。

・レザーブランド"dete"の代表
・出版書籍『革職人になる方法』Amazon手芸本1位獲得

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これがブランチャードのネジ捻です

↑の写真右端のネジ捻と、その左の菱錐がそのブランチャード社のものです。
今回のテーマとは違いますが、この菱錐は刃がカーブしたタイプで、主に靴などに用い、すくい縫いをするのに使います。

菱錐についてくわしくは、菱錐(ひしぎり)とは?|使い方は2種類|砥ぎ方とメンテナンスをご覧ください。

ネジ捻とは

ネジ捻(二重捻 フタエネン、ニジュウネン)というのは、主に、手縫いのガイドになる線を引く道具。

金属部分が途中から二本に枝分かれしているから二重捻、また、先端近くにネジがあるからネジ捻といいます。このネジを閉めたり緩めたりして、革のエッジから縫う線までの距離を変えることができます。

捻には他にもいろいろな種類があります。興味がある方は、革製品に入れる「捻(ネン)」って何?|目的と効果と捻の種類をご覧ください。

革製品に入れる「捻(ネン)」って何?|目的と効果と捻の種類
捻について書きます。捻は、主に装飾のために入れるもの。捻を入れることで、革製品が引き締まり、高級感が出ます。捻には主に4種類あり、フチ捻(玉捻)、ネジ捻、一重捻、押し捻があります。

小物を縫うなら、ネジを締めこんで、コバから縫い目までの幅を狭めるのがセオリー。大きなカバンなら、逆にネジを緩めて、コバから縫い目までの幅を広めます。

ネジ捻は手縫いに不可欠な道具ですが、これを書いている2017年現在、このツールを作っているメーカーは世界中探しても多くは見つかりません。

日本には、昔からこの工具を作っているメーカー(鍛冶屋)がいくつかあり、私はその中の一つを以前から使っていましたが、今回はもう少しがっちりした造りのものが欲しくなり、個人輸入で(日本でも販売しているサイトがありますが割高。個人輸入についてもいずれ記事にしたいと思っています)アメリカの通販サイトから、ブランチャードのネジ捻を購入しました。

ブランチャード社とは?

フランスの革製品用の工具メーカー。菱錐やナイフなど、高品質な道具作りに定評があり、長年、世界中の職人に愛用されてきました。

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ブランチャードのネジ捻の加工方法

加工の紹介です。

修正が必要な箇所

高品質なツールとして有名なBlanchardの手縫いツールですが、新品の状態では、こんな感じ・・・

↑の写真右側が革に線を刻む側。切っ先の厚みが一定ではなく、購入したままの状態では使い物になりません。この状態で使うとどうなるかというと・・・

  1. 切っ先の幅が広く、刻む線が太くなりすぎる
  2. 部分によって切っ先の厚みが異なるので、傾ける角度で刻む線の太さが変わってしまう
  3. この写真ではわかりにくいですが、革に刻む側とガイドにする側の高さに差がない為、段差が無く、ガイドが正しく機能していない。

1についてですが、幅が広すぎることのどこが問題かというと、ステッチが乱れる恐れがあるからです。ネジ捻の用途は、あくまでも、手縫い穴を開ける時の目安の線を引く為。穴を開ける工具の先端が、少しだけ引っかかってくれればそれで十分です。削って適正な幅に仕上げます。

2の問題は、切っ先の幅を揃えることで解決。手間はかかりますが、慣れていれば何も難しいことはありません。

3についてはどう説明すればいいか・・・ネジ捻は、二重捻という別名を有するように、ガイドとなる側と線を引く側の2本の板状の鉄で構成されています。このツールの優れたところは、革のエッジから一定の距離のところに、エッジと平行のラインを刻めるところ。どうやって平行のラインを刻むかというと、ガイドになる長い側を革のエッジに引っ掛けて引くことで、革のラインと平行の溝を刻んでいます。

エッジにガイドが引っかかっていないと正しい線を引くことはできません。その為には、ガイド側と線を引く側の高さにしっかりとした差がないといけません(厳密にいえば、差がなくても、傾けて引くことで平行のラインを刻むことは可能ですが、それはそれでいくつかの問題が生じるので・・・それについてはまた別の機会に)。

加工の工程

1、ダイヤモンド砥石で削る

まずは、切っ先の幅を揃えつつ、幅を狭めて鋭くし、さらに切っ先の角度を鋭角にしていきました。

砥石の方が早いかと思っての選択ですが、最初から粗目のサンドペーパーを使っても問題ありません。

角度が鈍角すぎると何が問題かというと、鈍角な刃を押し込むと、押し込めば押し込むほど刻まれる線が太くなるという状況が生じるということ。なら、鋭角にとことん削ればいいかというと、もちろんそんなことはありません。鋭角が過ぎると、力を込めて押し込んだ時に革を切ってしまいます。その程は、試しに使いながら調整していくしかありません。

2、やすりがけ

裏にもペーパーを当てて先を少し丸めます。

ここまでの工程で使ったペーパーの番手は、320→600→800。

3、磨き

800番までのペーパーで大まかに形を作ったら、ピカールできれいに磨きます。

磨いた結果がこれ。やすり傷が残っていますが、実用上問題の無い範囲内です。

4、柄の加工

ブランチャードの工具の柄は、硬い樹脂のようなものでコーティングされています。

遠くから見ればいい感じですが、近くで見ると、コーティングされているところとされていないところの境が見えて少し安っぽい。あまり好みではないです。

やすりでざっと削って、地の木目を出してみました。

こっちの方がいいかな。まだ削り切れていない部分が残っていましたが、これは意外と手間がかかりそうだったので、続きはまた暇なときにでも。

この後、蜜蝋を塗って磨き込みました。

5、仕上げ

さらに、試しに使っては削り直し。

尖らせすぎてはだめ。革を切ってしまいます。

角のとがった部分は特に気を付けます。

完成です。しばらく使ってみて、問題があれば少しずつ調整していきます。

まとめ

日本のネジ捻に比べると、力を込めてもブレがなく、安定感のある使い心地。

非常に気に入りました。

使用前の加工はマストですが、購入時点で裏面が平坦に仕上がっている為、日本のネジ捻を購入して加工するよりも、難易度は低いです。さらっと書きましたが、日本のネジ捻も、プロ用は加工が必要なのです。


あとがき

こういう道具の加工を記事にすると、いかにも職人っぽいですよね。でも、それにどれだけの価値があるかというと、なんて事はないもので、最初から仕上げた状態の道具が買えればそれで済む話。各々の好みに合わせて調整するにしても、道具メーカーが最低限仕上げておいてくれれば、使い手は少し手を加えるだけで済むのです。

私は、「プロ用の道具は、職人が自分で加工して、使いやすい形に作り変えるのが前提」という道具屋の謳いを、当然のものとして受け入れてきました。しかし、そういった道具は、手間暇掛けないと使えないのに、買ってすぐ使えるビギナー向け製品よりも値段が高いんですね。そこに疑問を感じてしまうこともあるわけです。

職人は道具まで自分で作るもの?

ある道具屋さんは、「昔の職人は道具も自分で作ったし、加工ができて当たり前。でも、今の職人はそれができる人が少なくなっている。」と、嘆かわしいように語っていました。

いろいろと思うところはあるのですが、道具を自分で作るメリットについてまず考えてみます。

《道具を自分で作ることのメリット》

  1. 自分の思い通りの仕上がりになる
  2. 道具がすぐに手に入らない立地、条件の人でも手にできる

《道具を自分で作ることのデメリット》

  1. 思い通りに仕上げるのが難しい
  2. 手間を考えると、買った方が結果的に安上がりな場合も

メリットとデメリットの1.の項目が、相反する内容になっています。どういうことかというと、自分の思った通りに加工できることは事実です。

捻でいうなら、幅や形、丸みなど、0.0何mmという単位で調整しながら作ることができます。これをメーカーに頼むのはとても難しい。道具は誰が使うかでも結果が変わってくるので、「メーカーの職人が試してうまくいったものを納品してもらったのに、私が使ったら希望通りに仕上がらなかった」なんてことがままあります。それに、あまり細かく言いすぎても嫌われます。

自分が欲しいものは一番よく理解しているのは自分。でも、精度の高い均一な加工をするのは難しく、同じものをまた作りたいと思っても、それは無理に等しい。餅は餅屋ということで、これはデメリットの2についてもいえます。

メリットの2は、ネットで何でも買える現代では、通販事業の発達していなかった頃に比べると、有難みは小さいです。自分で道具を作るのが当たり前だった背景には、自分で作るしかなかったという必然性が作用していたように思います。

これらのことから考えると、要は、最初からきれいに仕上がっていてくれればオッケーなのではないでしょうか?それでいて、商品のバリエーションがあれば言うことなし。もし、微調整が必要なら、その時は少しだけ手を加えればいいことかと。

加工が必要なことを教わっていない職人

最近会った職人の一人は、購入した捻に加工が必要だということに気づかず、加工前の不出来な状態で使い続けていました。その道具で作った製品は、当然ながら仕上がりもその道具の粗がモロに影響しています。

その仕上がりや、道具のクオリティに疑問を持たなかった職人にも非はあります。でも、道具屋の適切なフォローがあれば、こうなってはいなかったのではないか?

問題は、

  • 加工が必要だということを、道具屋側がちゃんと説明していない
  • 職人が自分で加工して当たり前という道具屋側の思い込み

です。

昔はそれでよかったのでしょう。しかし、今は・・・。

海外の革製品用道具メーカー

昨今、世界の職人はどんな道具を使っているかというと、韓国や香港などの、アジア圏の新興勢力の作る道具が、徐々に広がりを見せています。香港や韓国の新興メーカーの道具に実際に触れてみましたが、それらの多くは、今ある日本やヨーロッパの道具以上の品質で、尚且つ、最初から加工の必要のない完成度に仕上がっています。

これって何気に革新的なこと。よほど資金力のあるメーカーが作っているのかと思いきや、創業者は、ゼロから始めた20代前半の起業家だったりします。そう、やればできることなのです。現に、世界の多くの尊敬すべき革職人は、それらの道具を無加工で使い、素晴らしい製品を作り上げています。

今は、世界中どこにいても、ネット環境さえあれば、海外のお店から簡単に買い物できます。たとえ英語ができなくとも、翻訳ソフトを使えば、海外のネットショップで買い物をすることは、決して難しいことではありません。最近は、海外の方からのうちへの問い合わせも増えました。

便利になった分だけライバルも増え、対応力が求められる難しい時代ですが、一昔前にはとても考えられなかったような、刺激的な世の中になりました。

変化が求められているのはどの業界も一緒で、我々のような職人だけでなく、それを取り巻く環境で働く人にとっても、踏ん張らなくてはならない時なのかもしれません。

私個人としては、海外のメーカーよりも、日本のメーカーとともにがんばりたいのが本音。でも、海外製で品質のいいものがあるのなら、日本製にこだわる理由は無くなります。

日本発のいいメーカー現れないかなぁ。

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